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ユウの死生観

予約設定間違えてて遅刻してしまいました

(……い、いやいやいやいや。ない。いくらなんでも、それは、無い)


 自己の“生”に執着しないという人間、否、生物など存在するはずがない。


 なんと言っても“生物”なのだから。仮に他者の命を軽く扱ってる存在が居たとしても、自身に死が迫れば反応するものだ。


 人間では自他問わずその生き死について言葉にする事は珍しくないが、それらは全てなんらかの感情を伴うか、そうでなければ冗談や演技の類だ。


 少なくとも“自分が死ぬかもしれない”という状況になれば、平静無感情のままで居られるはずがない。


 が、目の前にそのあり得ない存在がいることに、ウィルは動揺していた。


「いざとなったらここに置いていっていいよ」


 淡々と、まるで他人事のようなユウに、ウィルはひどく動揺する。


 もしかして、自分が死ぬかもしれないという実感が無いのだろうか?


 そうであって欲しい、と半ば願望に近い自分の想像に基づいて、問う。


「お前、分かってるのか? 魔法も使えない、身動きできない。そんな状態で置いていけば、仮にここがあいつらに見つからなかったとしても遅かれ早かれいつか死ぬぞ?」

「うーん、そうだろうけど……まあ、仕方ないでしょ? どうしようもなさそうだし」

「そうじゃない! 俺が聞いてるのは、聞きたいのは、そういうことじゃない!」


 ウィルにとって、生きる事そのものが最優先事項で、死は何よりも忌避すべき事だ。実際、文字通り泥水を啜り、毒肉を喰らってでもウィルは今日まで命を繋いできていた。


 だから、そんなにあっさり命を捨てる発言をされるのは、何と言うべきか、堪らないのだ。


 そんな気持ちなど知る由もないユウは、取り乱すウィルの様子にキョトンと目を丸くして、一間置いて笑う。


「なに? ボクが『助けてー死にたくないー』って泣くのを聞きたいの? うわっ、ウィルって趣味悪!」

「異常者のお前には言われたくない! 死ぬかもしれないんだぞ!? 何でそんなに平然としていられるんだよ!?」


 実は何か状況打開の為の策でもあるのではないかと、そう勘繰ってしまうくらいユウの態度は不自然な程に自然体である。


(なんなんだよコイツは!?)

『うーん……別に死にたがりってわけでも無さそうなんだが……』


 ウィル程ではないが、レッドもまた困惑の色を隠せない。


『見た所、どこぞの修験者みたいに死を受け入れてるって感じだな』

(受け入れてる!? バカじゃないのか!? こいつが仮にそういう僧侶か何かだったとしても、いくらなんでも諦めるの早すぎるだろ!?)


 もしユウが本当に変な悟りを開いていたとしても、現状はまだそこまで切迫しているわけではなく、余裕がある。


 要するに、ユウが今選んでいる諦めという選択肢は、どう考えても早すぎるのだ。


 身動きが取れないと言っても、魔力で作った身体が治せないだけだ。ひと月ほど前のウィルとは違って本当に怪我をしているわけでもないし、腹が減り過ぎて体力が尽きかけているわけでもない。


 気絶している間にまともに視界も効かない暗闇の洞窟に運ばれて、自分が今どこに居るのか分からないわけでもない。


 もっと言えば、ユウは一人じゃない。(とてもとても不本意だが)ウィルが傍に居るし、ユースやあの“オヤジさん”達の助けが期待できる。人外も含めるならシュハも含められるだろう。


 こんな風にウィルがパッと思いつくだけでも、ユウの今の状況はとても恵まれていて、絶望からは程遠い。


 助かろうと考えればその希望・展望はいくらでもあるはずだ。


 なのに、その思考はどういうわけかソコには向かおうとしていない。


(……いや、違うな)


 ユウの態度を見る限り、諦めなんて殊勝なモノではない。


 正確に言うならば“無関心”。どうなっても良いというモノだ。


 今日一日だけでもユウが興味のある事に対しては相当な熱量を発揮していた事から、冷めた人間ではない事は分かっている。


 むしろ、自分にとって重要だと思ったことは何よりも優先して熱中していた。


 だというのに、今自分が直面している生死の行方に対してはその熱心さが欠片も見当たらない。


 命なんてそんな軽いモノじゃないはずなのに、その辺りのユウの態度が全くもってウィルには理解不能だった。


「生きたいとか死にたくないって思うのが普通だろ!? なんでそんなどうでも良さそうな顔ができるんだよ!?」

「んー、一応どうでも良くは無いんだけど……まあ、人それぞれの価値観があるって事で」

「そんな価値観あって堪るか! 死んだらそこで終わりなんだぞ!」


 そうウィルが叫ぶものの、ユウは困ったなと言わんばかりに眉尻を下げるだけだ。


 ユウのまるで聞き分けのない子供に接するような態度に、ウィルはイラつく。


(何困った顔してるんだよ!? 困ってるのはこっちなんだぞ!?)

『落ち着けウィル』


 ユウに怒鳴り付けようとした矢先、レッドから待ったが掛かる。


(なんだよ?)

『この子の無茶苦茶な言動で混乱してるけど、別にウィルが困る事は無いだろ? 本人からいざという時に見捨てて良いってお墨付きもらっただけだ。ウィルには何の損も無い。そもそも、ウィルだってさっきまでこの子を見捨てる事を考えていたじゃないか?』


 何をそんなに怒る必要がある? とレッドに言われる。


 たしかにレッドが言うように、この事でウィルに損らしい損はない。


 ユウの助手とやらになる事になってからまだ一日も経っていない。

 朝はなにやら利があるみたいな事を言っていたが、短時間だった為かウィルが得した事など特にこれといってない。


 強いて言うならせいぜいあの甘味くらいだが、それも実験とやらの協力の対価だ。残念ではあるが、食べられなくなったとしても以前の状態に戻るだけと考えれば損にはならない。


 仮に損だとしても、別に甘味が食べれないからと何か深刻な問題が発生するわけでもない。


 ウィルが困る事は、無い。


 けれども、頭でそう理解していても、何故かウィルの感情はささくれ立っていた。


(……レッドはアイツの言う通りだと思うのか?)

『え? いや、それは無い。個人の価値観とか言っていたけど、流石にそれだけで自分が死ぬことは許容できんだろ……普通なら』


 レッドもユウの考え方は理解できないと言いつつ、けれど、それについてウィルが怒る必要は無いだろうと宥めてくる。


『そもそも本当にこの子が生きるか死ぬかって状況にもまだなってないのに、熱くなるなって。仮にそうなったとしても――オイラとしては惜しいが――さっきも言ったようにウィルに直接的な影響無いから気にする理由もないだろ』

(それは……そうなんだけど、でも)

『まあ、あの子に惚れたとかだったら気にするのも分からんでも――』

(それはない)


 レッドのおぞましい推測を即答で否定する。ウィルは恋愛云々は経験皆無だが、コレをそんな目で見れる人間なんぞそう居るまい。

 もし仮にそうだったなら、相手がどんなに破綻した人間だったとしても、好意のある人間に対してならばもう少しマシな態度や扱いをする……はずだとウィルは思う。


『だったら、何でこの子の生死の行方を気にするんだ? 好きな奴ならともかく、嫌いな人間が死ぬのを見過ごせないってのはよっぽどお人好しだが、ウィルは違うしな』


 お人好しなら仮に魔物でも人型の生物を躊躇いなく撲殺したりできないからなと、初めてゴブリンを倒した時の事を引き合いに出す。


(そういうお前はお人好しだよな)

『否定はしないが、これでも昔に比べると大分厳しくなったと思うんだけどな』


 思うだけかよ。


 こんな風にレッドと話していると少し頭が冷えてきたのか、自分の中のイライラが収まってきたのを感じる。


『落ち着いたか?』

(……多分)

『そうか。それでなウィル。落ち着けと言っておいたが一つ悪い知らせがある』

(悪い知らせ?)

『ココな、どうやら囲まれてるっぽいぞ』


 それを聞いたウィルは慌てて入り口のバリケードの上によじ登って、窓から外を確認する。


 外はすっかり暗くなっていたが、草むらの隙間からチラチラと月明りを反射する白いものが見える。


(いつの間に……!)

『オイラも今気付いたところなんよ。ウィルは会話に夢中で気づいていなかったけど、微かに枝が擦れる音がしたからもしかしてと思って』


「何か来たのかい?」


 ウィルの様子を見ていたユウが尋ねる。


 振り返ると、ユウはあの困ったような笑みを浮かべていた。


「思ってたより早くお迎えが来ちゃったみたいだね」

ユウの割り切った死への考え方は、当然例のなろうお約束による影響が大きいです。


対してウィルはウィルで色々な要素のせいで盲目的に今生への執着が半端ない。


そしてこの極端な二人の間に挟まれたレッドはもう大変。ご苦労様

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