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宵闇忍び寄る

 ユウの敵の襲来がしたという報せに対し、ウィルは警戒、ではなく困惑した。


(敵……? レッド?)

『んー? 気配は……無いな』


 白の森に入ってからずっと危険信号は出ていたが、かと言って直接的に害意を向けられた時のみたいな、刺されるような不快な感覚は無い。


「ウィル! 早くこっちに!」


 ユウの様子があまりに必死なので、一先ず言う通りに傍に行く。


『……あ』

(? なに?)

『いや、気配が無いというか、読みにくい相手ってのが一応居てな……』


 レッドが言うに、気配が読みにくい相手というのは複数存在している。


 一つは、特定の訓練を積んだ人間。

 いわゆる暗殺者や密偵など、この手の稼業は感情を揺らさない訓練を受けている事が多く、変化に乏しくその存在は気づきにくい。


 もう一つは、ゴーレムやパペット等、要するに生物以外の無機物が自律行動している存在。

 変化が乏しいどころか、生理現象及び行動に伴う予備動作がそもそも無い為、気配はもちろん危機察知能力も働きにくく、呪い子・鬼の子の天敵とも言える。


 そして、最後にもう一つ。


「警戒の為に張っていた探知網に急に反応があったと思ったらどんどん増えて……このままだと囲まれる!」

『昔ここで軍が投入されたけど壊滅したとか言ってたよな? 人間、それも戦闘が行えるほどの魔力を持つ奴らばかりなら――』


 白みがかった木々や叢が保護色になり、また距離が随分開いていて見えづらかったが、不自然な動きした枝のところを注視すると、ウィルもようやくその姿を遠目で視認する事に成功する。


 ――骨。


 まるで肉食獣にしゃぶり尽くされたような、ともすれば綺麗とさえ感じてしまう程の艶めいた人骨体が、ゆっくりと、しかし確実に近づいていた。


『あー……やっぱり、アンデット化した奴か……』


 面倒な、とウィルを通してその姿を確認したレッドが呻き声をあげた。




 アンデットとは、生物が死んだ後に元々持っていた魔力の暴走現象によって発生するとされる魔物の一種だ。


 見た目によって肉がついたままのゾンビや、骨しか残っていないスケルトンなど呼び名は色々あるが、根本的にはどれも同じだ。


 動き自体は生前の状態に準じている為ゴーレム程ではないが、生体機能は停止している為気配はかなり読みづらい。


 肉体の維持機能は停止している為に身体自体は脆いのだが、身体のリミッターも壊れている為身体能力は生前を遥かに上回る。


 厄介なのは魔力任せの維持・強化なので肉の有無、つまりゾンビだろうがスケルトンだろうが関係なくアホみたいに素早く動き、自分の身体が自壊するのも知ったこっちゃ無いと言わんばかりの力で生物を襲う。


 襲う理由は魔物と同じ、存在を維持する為に足りない魔力を補う為らしいが、大半はその過程で自滅する。


 ごく一部のみが維持に成功し、上位種へと進化を果たすまで残れば身体の脆さなどの弱点が消え、非常に厄介な存在になるという。


 さて。


 一応、単体ならウィルだけでも処理が可能なくらいの強さらしいが、それが群れて襲ってくるとなると話は変わってくる。


「いくらなんでも多過ぎ……探知に引っ掛かってるだけでも二十、いや三十は軽く超えてるんだけど……」


 包囲されつつはあったがまだ距離があった為、急ぎどう対応すべきか二人で話し合う。


「攻撃魔法か何かで吹き飛ばせないのか?」


 ウィルのイメージでは、魔法は万能だ。


 レッドから理論を教わっている為、決して全能でない事は理解しているが、それでも自分ができない事の大半を苦も無くこなせるだけの力だと考えていた。


 実際、一般的にはスケルトン程度の下級アンデットはあまり脅威だとみなされていない。


 いくら俊敏で怪力でも身体が脆弱である為、その利点を活かせる距離に近づくまでに初心者レベルの攻撃魔法を一発かますだけで沈黙する。


 見ている限りではユウは魔法使いとしては能力が高そうなので、多少の下級アンデットの群れならば蹴散らせるはず。


 と、ウィルは考えていたのだが。


「無理」

「は? 下級アンデットぐらい冒険者なら倒せるだろ?」

「えーと、できなくはないんだけど……ボク、攻撃魔法が苦手でさ。簡単に言うと、魔力の調整が下手でこの辺り周辺を吹き飛ばしちゃうんだ」

「? それは倒せるって事じゃないのか? 何の問題が……」

「ウィルも巻き込んじゃうって事なんだけど?」


 ……それは確かに問題である。


「いやあ……ここに来るまで結界魔法で敵倒してたのも、実は下手に攻撃魔法使うと自爆しちゃうからってものあって……」

「なにそれ怖っ!?」


 道中、なにやら説教めいた事を言っていたが、どうやら攻撃魔法が使えない事を誤魔化す為の言葉だったらしい。


「一応、暴発しない魔法攻撃もあるにはあるけど……」


 そういいつつユウは背負っている金属性の杖らしいものに手を掛ける。どうやら、それを使えばまともに魔法攻撃を行えるらしい。


「ただ、これだと一気に倒せないのと身動きが取りにくくなるって欠点があるから、これだけの数を相手にするには厳しいんだよね」

「じゃあ一先ず逃げよう。まだ完全に囲まれていないんだよな? どこへ向かえば良い?」


 少々癪に障るが自分の気配読みが使えない以上、ユウの探知魔法を頼りにするしかない。


 戦わなければならない状況ならともかく、それを回避できるならそうした方が良い。


「逃げるならこの先だね」


 そう言ってユウは、白の森の中にあるにも拘わらず、白くなっていない木々の方へ視線を向けた。


「こっちからはスケルトンからの反応が無いし、シュハがここまで連れてきたって事は多分この先にユースさん達がいるはず」


 つまり、スケルトン達から逃げつつ当初の予定通りあの二人との合流を目指すという事らしい。


「あの二人がいればこれくらいのアンデットは問題なく処理できるはずだから」

「分かった……まだなにか問題があるのか?」


 方針を決めたはずのユウの表情が優れない事に気付き、尋ねる。


「いや、ちょっとね……引っ掛かる事があるんだけど……やっぱり、何でも無い。早く行こうか」


 グズグズしていると囲まれる、とユウが先陣を切って駆けだすのをウィルはその後を追うおうとした。


(――あれ?)


 が、ユウが向かう先にあった普通の緑の茂みが不自然に歪んでいる事に気付く。


 その僅かな隙間から見える、白っぽい色も。


「! 待て!」

「え」


 慌ててユウに声を掛けた途端、違和感のあった場所からスケルトンが数体――三体、それぞれ剣を持っている――が飛び出してくる。


 いつの間に、と驚き戸惑いながらもユウは咄嗟に腕を突き出し叫ぶ。


「『結界』!」


 気付くのが早かったおかげか、スケルトンの間合いに入るまでに結界の魔法を発動できるだけの余裕は十分ある。


 ――はずだった。


 いつまで経っても、魔力による半透明の障壁はおろか、魔法陣の展開すら行われない。


(!? なにやってんだアイツ!?)


「っ!? け、『結界』!」


 再びユウが魔法の発動を試みるが、やはり何も起きない。


 そうこうしているうちにスケルトン達はユウに接近、二人の影が交錯した瞬間。


 突き出していたユウの腕が刎ね飛ばされた。


『! ウィルっ!』


 レッドの掛け声で弾けるようにウィルは走り出す。


 いや、ユウの腕が弾け飛んだ時にはもう飛び出していた。


 スケルトン達はユウを押し倒すと、そのまま剣を突き立て始めた。


「退け!」


 走り込んだ勢いのまま金棒を横薙ぎに振り抜くと、ユウに圧し掛かっていたスケルトンをまず一体、吹き飛ばす。


 仲間がやられたからか残りのスケルトン二体がウィルに振り向く。その内の一体の頭を金棒の返し際に打ち抜くと、頭骨が砕ける。


 ここまで脆いのか、と戸惑うくらいあっけない。


 残った一体が飛び掛かってくる。金棒は自分の身体の後ろにある程振り切ってしまっていて、戻しが間に合わない。


 が、そのまま地面に突き立てて、それを支柱に後ろ手で身体を持ち上げる。自由になった足でスケルトンの腕を蹴りとばすと、腕骨が剣を持ったままもげる。


 時間を稼げたので金棒を構え直す。スケルトンの体勢が整う前にと突進し、その勢いのまま上段から叩きつけると、ガンと鈍い金属音と共に人骨を粉砕する。


 ふぅ、と一息ついていると頭を吹き飛ばした二体目がよたよたと立ち上がろうとしてたので、適当に蹴り飛ばしてトドメを刺す。


『ひとまず終わりか?』

「本当にひとまずだけどね」


 背後から近付いている奴や、他にもこちらを取り囲むように居るらしいので、厳しい状況なのは変わらない。


『とりあえずあの子の様子を』


 レッドに促され、仰向けに倒れてるユウの元に近寄る。


 酷い有り様だった。


 腕を斬り飛ばされていたがそれだけに留まらず、全身滅多刺しにされていて身体中穴だらけだった。


 一目見て手遅れといった様相だったが、それよりもある目立った異常にウィルは気付いた。


「血が……出てない?」


 小さいのも大きいのも、どの傷からも血が一滴と出た様子が確認できない。


 魔法で治癒したのか、と一瞬考えたがそれだったら傷口が塞がっていないとおかしいし、そもそも全身どこにも血で汚れた様子が確認できない。


 まるで、最初から出血という事象が起きていなかったように。


「アハハ……助けてくれてありがと」


 その見た目とは裏腹に、存外に力のあるユウの声に、ウィルは驚いてビクッと肩を震わせた。


「……何で生きてんの?」

「ごもっともな疑問だけど、もっと他に良い言い方あるよね?」

「実はアンデットだったとか言わないよな?」


 ユウが不死の魔人の類なのでは? という疑念を持つ。それならユウの気配が読めなかった事にも説明がつくので、割と本気でそう考えてしまう。


「違うよ。この身体は作り物だからさ。いくら傷ついても命に関わらないってだけだよ」

「作り物?」

「義手や義足ってあるでしょ? それを魔力だけで作る魔法があるんだけど、それを応用して全身置き換えてるんだ」


 魔力で作った偽物の身体だから、いくら傷つけられても本体には影響は及ばないのだという。


『あー……だから気配読めなかったのか……』


 どれだけ巧妙な偽装や幻術の類でも、僅かなニオイや気配までは誤魔化せないのだが、作り物の身体に丸々置き換えられてると気配そのものが消えてしまうので、読むも何もあったものではない、ということらしい。


『偽装じゃなくて置き換えだったから分かるはずねえ……というか、人間の全身丸々魔力で作って置き換えるとか正気の沙汰じゃねえよ!?』


 どんな頭をしていればそんな発想して実行できるんだ!? と珍しく取り乱しているレッド。何がそんなに騒ぐ事なのかウィルには全く分からなかったが、とりあえずユウは見た目程の支障はなさそうだということは把握する。


「傷が問題無いならさっさと行くぞ。魔法であんなにパッと作れるんなら傷も簡単に治せるんだろ?」

「あー、うん。本来はそうなんだけど……」


 片目が抉られているせいか表情が読みづらいが、何やら困った様子でユウが言い淀む。


「それが……さっきから魔法が全然発動してくれないんだよね」

「? 魔力が足りなくなってるとか?」

「いや、魔力はある。何故かさっきからいつも通り使おうと思っても使えないんだよね」


 その言葉を聞いて、先程ユウが結界魔法を使おうとして失敗していたのを思い出す。


「多分、白くなっていない範囲の場所だと魔法が使えなかったり、効かないんだと思う」

「そうなのか……いや、待て、だとしたらなんでお前の姿が元に戻らなかったんだ?」


 魔法が使えない場所なら先にユウの魔法が解けるべきなのではないか?


「分からないけど……でも、そう考えないと説明がつかないんだよね。そうじゃないとこっちにいたスケルトンを探知できなかった理由とか、結界を使えなかった理由とか……」


 もっと言えば、さっきから魔力で作ったこの体を修復するどころか、解除して本体に戻ろうと試しているのだが、それすらできずにいるという。


(……ちょっと待て)


 ここは魔境。凶悪な人外が跳梁跋扈し、過去には一国の軍隊が壊滅したという危険地帯。


 ユウの言が正しいのであれば、その危険地帯のど真ん中で魔法が使えない人間二人、しかも片方はまともに動けない状態になっていて、更にその周囲を下級とはいえアンデットが包囲しつつある。


(待て待て待て。え? こんな急に状況がここまで悪くなるの? 噓でしょ?)


 危険な土地である事は認識していたがここまで唐突に事態が悪化するとは考えていなかったウィルは、薄暗くなりつつある木々の間から見える空を仰ぎ見た。

ユウの魔法は、簡単に言うとウル〇ラマンみたいな変身ヒーローイメージです。

基本的に魔力を伴った攻撃じゃないと傷つかないし、傷ついても魔力さえあれば即座に修復しますし、即死並の威力の攻撃を受けても修復が追い付かなくなって解除されるだけで本体には何の支障もありません。

見た目も好きに弄れたり、本体の生理活動が極限まで抑えられるので、寝る時間も食べる量も減るし、ついでに成長老化も抑えられて長生きできます。廃人御用達チート魔法


一日維持するのに一般平均的な四、五十人が一日生活するのに必要な魔力をバカ食いするとかそんな設定がありますが、ウィルには関係ないのでここで設定吐き出しておきます

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