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異常者 その弐

 ある日、義父が俺にこんな事を尋ねてきた。


『ウィル。お前がこれから生きていく為に大事なことは何だか分かるか?』


 訊かれた俺は少し考えた後、一人でも魔物に襲われても倒せるくらいに強くなる事だと答えた。


 他人と一緒に暮らすのが難しい以上、どう考えても自分はこれからも流浪の身で、誰の力も借りれずに身を守る力こそ野で生きるには必要だと考えたからだ。


 しかし、義父は笑ってソレを否定した。


『違う。確かに強くなれればそれに越したことはないが、それは自分から死にに行っているものだぞ?』

『? 強くなれれば死ぬことは無いんじゃないの?』

『そうじゃなくてな。戦う事を考えた時点で死ぬ機会を増やしているようなものだって話だ。お前が考えるべきはまず敵を作らないようにする事。次にもし敵ができてしまったら、如何にして戦いを避けるかを考える事だ』


 義父は戦いという状況に陥っている事自体が愚策であって、戦う回数が増えればそれだけ死ぬかもしれない可能性が増える事になると言った。


『分かったか?』

『それは分かったけど、じゃあ何で義父さんは俺に今もずっと訓練を?』


 武器の扱い方は既に一通り修得していて、既に狩猟程度ならば困らないくらいには腕の自信はあった。


 にもかかわらず、何故か義父は俺に対する武器の訓練と戦いの鍛錬は欠かさなかった。


『さっきも言ったが強くなる事、力を持つ事に越したことはない……。どんなに危険を避けてもどうしても戦わないといけない時があるからな』


 特にお前は――と、口には出さないが義父が言外にそう言ったのが俺には分かった。


『……じゃあ、もし戦わなくちゃいけない時が来たら、何が一番大事なの?』

『そうだな……まず考えるべきなのは、戦いをどう早く終わらせられるかだな。時間が掛かればそれだけ身の危険に晒されるって事だからな』


 逃げられない状況を改善して逃げられるようにするか。

 或いは、できるだけ早く敵を排除するか。


 基本的にはこの二択だと義父は言った。


『一応、敵を無くすという意味なら和解っていう選択もアリなんだがな』

『いや、それアリじゃなくてムリじゃない?』


 そうツッコミを入れると『まあな』と肯定が返ってくる。


『まともに考えれば無理というか、そもそも和解できるなら最初から敵対する前に事を納めておけ、という話だからな』


 ただ、と義父は言葉を一度区切る。


『かと言ってそういう前例が全く無いわけでもないぞ? 成功すればマイナスがそのままプラスに転ずるのだから、一考の余地はある』

『……ウン。ソウカモネ』


 およそ現実的ではない話に生返事をしていると、義父の声音が急に厳しいものに変わる。


『俺は本気で言っているぞ? ウィル』

『え……?』

『世の中の呪い子(おまえ)の扱いを考えれば想像できんのは無理もないが、お前にはそれをひっくり返して多くの人間を味方に付けれられるだろう。それだけの力が、お前にはある。だから、最初から不可能とか考えて諦めるのだけはやめろ』


 思わず義父の顔を見れば、冗談でもなんでもなく本気でそう言っているのがすぐに分かった。


 俺は、義父に言われた事に対して嬉しさよりも、困惑が先立って眉間に力が入った。


『……あんまり根拠もなくそういう事言わないでよ』

『根拠ならある』


 そう言って義父はくしゃりと、俺の頭をやや乱暴に撫でた。


『根拠?』

『ああ。まあ、今のお前には難しい話だからまだ言えないが、時が来たら話そう』


 どうにも義父のその言葉が誤魔化しにしか聞こえなかった俺は、すぐに聞き返した。


『時って、いつ?』

『む? そうだな……お前が独り立ちできるくらいになったら、かな? 聞きたいと思うのなら、早く一人前になる事だ』


 義父がそう言って、この話は終わりになった。


 俺は義父の含みある言葉に少し引っかかったが、真に受けてもしょうがない話だとも思ったので、それ以上訊くのをやめた。


 結局、俺が一人前と認められる前に義父が逝ってしまって、根拠とやらの答えは聞けずじまいとなった。


 義父が、何をもってあんなに俺を買っていたのか?


 今となってみれば義父は、呪い子の、レッドが言う所の“鬼の子”の話を知っていたのかもしれない。


 ただ、それなら鬼術の存在くらいは教えてくれそうなものだが、そういった事は全く影も形も無かった。俺の考えすぎかもしれない。


 いや、そもそも考えるだけ無駄だと、既に結論は出ていたはずだった。


 なのに、どうして、また昔の事を思い出して――。




『――きろ。起きろウィル』

(……レッド?)


 ぼんやりとした思考を裂く声に、ウィルはハッとする。


「あ。起きた。やっぱり結構早かったなー」


 同時に、あまり耳馴染みのない声が外から届く。


 反射的に逃げようとするが、身体が動かない。


(え?)

『落ち着けウィル。少し縛られているだけだ。今の所害は……大きな害は、ない』


 レッドの言葉に、辺りを見渡そうとすると、首だけは回った。


 明るい。木漏れ日から今の時間が朝か昼である事と、直前の記憶と合致する場所にいる事を把握する。


 それから、例の冒険者たちの内、青年とおっさんが近くに無造作に転がされていて、残った一人である少年、ユウがこちらを愉しげに眺めていて、見られている自分はどうやらその辺の木に後ろ手で拘束されている事を理解した。


「おはよう。気分はどう?」

「……縛られていなかったら良かったと思う」


 寝起きだから不用意に悪態をついてしまい、しゃべってからしまったと慌てて口を閉じる。あまり相手を刺激する事を言うのはよろしくない状況だろう。


「そう。大丈夫そうで何より」


 幸い、相手は気に留める事は無かったようだ。


「結構強いの使ったから万が一って事もあるから良かった良かった」


 強いの? その言葉でウィルは意識を失う前にあった事を思い出す。


(そっか……俺、こいつに毒をくらって)

『毒というか、眠り薬だったんだけどな』


 眠り薬?


『ああ。まあ、成分的にはかなりエグイ……単なる睡眠薬よりも麻酔といった方が正確かな? おそらく劇薬の類だから毒でもあながち間違いでもないっちゃあないけれども』


 レッドが言うに、無駄に強力な薬だったらしく、ウィルを生け捕りにするにしても殺すつもりでももっと他にあるだろう、と言いたくなるような代物らしい。


『まあ、お前の身体なら命の心配は無い。オイラもいるしな』


 むしろ巻き添えを食らったあの二人の心配をしても良いくらいだという。


 倒れている二人と、やたら機嫌よさげな目の前の少年を交互に視線を送る。他人の心配をするつもりなんてサラサラないが、さすがにそんなとんでもない薬で躊躇なく仲間を巻き添えにしたこいつの正気が知れなかった。


「そんなに怖い顔しないでよ。一応、この薬だけじゃなくてその肩の怪我も手当てしてあげたんだからさ」


 ユウに言われて気付く。


 肩にはきれいな布が、それも中々上等なものが巻かれていた上に、痛みや熱っぽさも無かった。


(寝ている間に……? レッド、本当?)

『一応な。その子、劇薬だけじゃなくて、真っ当な傷薬も持っていたんだ。んで、お前さんが意識を失った後にお前とあちらのお二人さんとまとめて手当てをして、それから……』

(それから?)

『……スマン。オイラの口からはちょっと、な?』


 え!? 待って、どういうこと!?


(な、何? 何があったの!?)

『あー、大丈夫だ。命の危険とかは一切無かった。それは……それだけは保障するぞ。うん』

(だけ? だけって何!? 逆に不安になるんだけども!?)


 慌てて何か他に異変が起きていないか再確認してみると、ここ数年着っぱなしで小汚いはずの服が、真新しく清潔なものに替えられていた。


「ああ。汚れもだけどニオイとか結構凄かったから、ボクの予備の服と交換しておいたよ。安物だから気にしないでね」

「え……ああ、うん。どうも――いやいや、そうじゃなくて」


 どうして、こんな事を?


 そう言いたいのが伝わったのか、ユウは肩を竦めた。


「別に大した理由は無いよ。ただ調査ついでにやっただけだから。その代金とでも思っておいてよ」

「……調査?」


 って、何?


 そう疑問を覚えたウィルだったが、なんとなく嫌な予感がしたので訊ねるのを躊躇する。レッドの様子からして、多分ロクでもない事なので訊いたら後悔する気がしたのだ。


 が、僅かに漏らした疑問符を拾い上げたらしく、特別答えを求めたわけでも無いのにユウは教えてくれた。


「そ。キミの、呪い子の調査。一先ずキミの各部のサイズ測定に、健康状態の確認でしょ? それから血液とか毛髪とかのサンプル採取。あとあと体内走査とかもやってみたんだけど――」




 自分が寝ている間に調べ上げたという、自身の“全身データ”の詳細を聞かされたウィルは、今までにない嫌悪感に襲われて悲鳴を上げる事になるのだった。

ユウ「ふーん……こんな顔して結構立派な身体で……んじゃ、次はこっちを……」

レッド『……えぇ。何この子……』


はい。ユウはこんな子です。


ウィルは意識喪失中にひん剥かれて、全身くまなく調べられました(爆

一応ことわっておきますが、ユウのこの調査に他意はなく、ただひたすら純粋にウィルのデータが採取されました(それはそれで相当ヤバいのですが)

人としての尊厳とか色々とボロボロですが、その代わりにウィルは数年ぶりに新品の服が手に入りました。ヨカッタネ。


なお、比較で言うと


ユース≧オヤジさん>>>ウィル>>>超えれられない壁>>>>ユウ


こんな感じで、当然ながら左の方がまともです。


ちなみにレッドは人ではないので比較できません。

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