奇妙な三人組
問題:誰がヒロインでしょうか?
あ、今回と次回は冒険者達側の視点です。
「相変わらず探知魔法には掛からないか?」
暗闇の中地面をなめるようににして確認した初老の男は、何かを辿るようにして最前列を進む。
その腰には、冒険者としては珍しい得物である曲剣が提げられていた。
「ええ……魔獣らしき反応はありますが、本命らしい手応えは全くありませんね」
続く術士らしい青年は端正な顔立ちを険しそうに歪めつつ、何度も掌から空中に魔法陣を何度も展開しては消していた。
「そうか……足跡や折れた枝を見る限り大分近づいている筈なんだが……?」
「どういう事なんだろう? 隠蔽魔法か何かかな? それとも幻術か認識疎外? もしくは――」
最後尾に居た謎の金属棒を背負った少年は、青年とは対照的に無邪気な笑みを浮かべて思いつく限りに言葉を並べていた。
男達はウィル達の推察通り、とある賞金首を追っている冒険者パーティだ。
標的はとある貴族が所有していた元奴隷の男。
自らの奴隷契約をどうやってか解除し、逃げ出した男だった。
「元奴隷がそのような高等魔法を習得しているとはとても思えませんが」
「でも、それを言ったら、奴隷契約を魔力だけで抵抗してみせたっていうのも、滅茶苦茶な話だと思いますけどねー。結構年の人みたいだから魔力は多いとは思いますけど、いくらなんでも契約魔術を強引に破棄して逃げたっていうのはおかしいですもん」
「そう思っているのならもっと反対しても良かったと思うんだが?」
初老の男がため息をつく。彼は元々、今回の仕事に対してあまり乗り気ではなかった。
彼らの目的は標的の始末。ではなく、その足取りと居場所の調査だった。
勿論、可能ならば捕縛ないし討伐すれば追加で報償が支払われるのだが、そこまでしなくてもそこそこまとまったお金が貰える。
加えて、標的は奴隷。
魔力が弱いが為に生活に困窮した結果、幼少期に身売りされるというのは別段珍しい話ではない。
貴族が体面を保つために話を盛るのもよくある話で、魔力量は年齢に比例して上昇するとはいえ、奴隷がそれほど危険な存在になりうるとは考えにくかった。
故に本来これは非常にオイシイ話であり、彼ら以外にも複数のパーティがその賞金を目当てに活動しているのだが、どういうわけか成果として未だにその痕跡すら持ち帰った者がおらず、長らく放置されてしまっていた案件だった。
多少の経験があれば、その面倒さときな臭さは十分に感じ取れるというものだ。
「いやー、だって潜伏先はあの魔境の一つだとされている場所の近くですもの。一度は行ってみたいじゃないですか」
「興味本位で行く場所では無いだろう。馬鹿と天才はなんとやらと言うが、ここまで頭おかしい奴は見た事ねえ」
「教訓もののおとぎ話で脅し文句でよく出てきますからね……子供なら普通怖がって避けるべき場所です」
「いや、普通に大人でも近付くの躊躇う場所だからな? 今回の仕事を受けてきた奴が言えたセリフじゃないからなユース?」
ジトリと睨まれた青年――ユースは特に気にした様子もなく方を竦めた。
「困りごとを解決するのがボクらの仕事なのですから、多少きな臭いくらいで引いていたら成り立ちませんよ」
「青臭い事言ってんじゃねえ。早死にするぞ?」
「平気ですよ。その為にあなたを誘ったのですから」
「そうそう。“オヤジさん”が面倒見てくれるんなら新人のボクらも安心して無茶できますもん」
「……その名前で呼ぶんじゃない」
嫌そうに顔をしかめた“オヤジさん”だが、少年もまた悪びれた様子はない。
「えー? 実際みんなからそう呼ばれているんですから良いじゃないですか。それに“オヤジさん”名前名乗ってないじゃないですか。渾名呼びくらい許してくださいよ」
「渾名で呼ぶことは結構。だが、もう少し何とかなんないのか? この曲剣なり、人狩りなり、それらしい呼び方はいくらでもあるだろうに……」
「冒険者ギルド西方支部最古参にして実力者。経験豊富でボクらのような新人に手厚い支援を行っていて、現役冒険者はもちろん、引退して貴族となった多くの人から今も慕われる……“オヤジさん”以上にそれらしい名前なんてありませんよ」
おどけながらも親しみと尊敬を込めた視線をユースが送ると、“オヤジさん”は「周りが勝手に言っているだけだ」と口では否定をしつつ、諦めた様子で瞑目した。
「周りが勝手に言っているならもう公式じゃないですか。それに聞いたところ“オヤジさん”実際に子供が――」
――ヒュン。
風切り音と共に、ピタリと少年の首に曲剣の刃が当てられた。
「それ以上余計な事を言うと落とす」
何を、と聞き返すのも許さない勢いで殺気を叩きつけられ、首を動かす事ができない少年は視線で了承の意を伝えた。
「あ、あの”オヤ……えーと、その。きょくけんのだいせんぱい殿? 何もそこまで怒らなくても良いのでは?」
「……ったく。そんなに言いにくいなら好きなように呼べ。だが、いくら魔力が強くたって死ぬときは死ぬ。不用意な事を言ってあまり人を怒らせない事だ」
ユースがしどろもどろに取りなすと、曲剣が音もなくに納められる。
それを見た少年はほっと安堵の息を吐いた。
「あ~……死んだかと思った」
「名前といえば、お前達もどうにかならんのか? 似たような名前でどっちも妙にお上品な振る舞いしやがって。ややこしいったらありゃしねえ」
「そうですか? それこそ無茶というものでしょう。たまたまパーティを組んだらお互いに似た名前だったってだけですよ? ボクもユウも」
「え? ボクお上品? えへへ。最近ちょっと気を付けてるからそう言ってくれると助かりますよー」
二人それぞれやり方は違えど白を切る様子に、“オヤジさん”はジト目で呆れる。
人の品の良さというものは生まれと育ちで大体決まる。表面上どれだけ取り繕っても、ある程度目が肥えた人間なら見分けがつくものだ。
この二人の取り繕い方はかなり巧い方だが、一度でも今回のような遠出をする仕事でしばらく時間を共有すれば生まれがイイトコの人間だということは、“オヤジさん”にとってみれば簡単に分かった。
もっとも、身元を隠して冒険者稼業を行うのはこの二人に限らずよくある話で、たいていは貴族や裕福な商家の継承権を持つ子供が、独力での実力を示して箔をつけ、跡目争いに有利に立とうとしている為にしている場合がほとんどだ。
なので隠された所で大して気にする必要も無いのだが、このイキの良い新人二人に調子に乗らせるのもあまり面白くない。
「……そうか。それなら俺も考えがある」
「「え?」」
「俺がお前達をどう呼ぼうとも構わないはずだよな? ええ? “大きいの”と“小さいの”」
“大きいの”であるユースが信じられないと言った様子で目を剥いた。
「えっ!? ちょ、本気でボクの事“大きいの”って呼ぶつもりですか!? いくら何でも他に呼び様があるでしょうに!」
“小さいの”であるユウは苦笑いを浮かべた。
「えぇ……たしかにボクがこの中で一番チビなのは認めますけど、ネーミングセンス皆無じゃないですか“オヤジさん”?」
「そういう生意気な口を叩いている間はその呼び名で十分――」
突然立ち止まり、言葉が途切れた“オヤジさん”に若者二人が訝しがる。
「“オヤジさん”?」
「今何かが向こうで……おい。探知を前方に広げてみてくれ」
指示されるがままユースが魔法陣を点滅させると「あれ?」と困惑した声を上げた。
「どうしたんです?」
「反応は無い……ですけど。一か所だけ全く何の反応も無い場所が……」
「? 隠蔽魔法の類か?」
「いえ、隠蔽はあくまで隠すだけなので気を付けて探れば反応があるんですが。これは全く逆で、そこだけ切り取られたみたいに何も無いんです」
こんなの初めてだというユースに、“オヤジさん”は十中八九そこに何かあるんだろうと確信した。
うわあ。怪しい一人称ボクが二人いる。何者なんだろうなあ?(すっとぼけ
前書きの答えはおそらくこの章の終わり頃になるかなと。そこまで待たなくてもどうせお察しでしょうが。




