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プロローグ ドミティス魔導帝国と王杯

 ドミティス魔導帝国。


 その名の通り人々を魔力によって導く事を理念とした国家であり、『千年帝国』という異名を持つほどの歴史を有している。


 『魔力を持った魔法使い』という概念が現れてからは初めて建国されたこの国はその理念からも分かる通り、魔力・魔法を至上のものとして最大限にそれを利用して繁栄を維持しており、殊に魔力関係の技術や研究は現代において周辺国家の追随を許さない程である。


 また『魔力至上主義』を真に標榜しており、歴史の長い帝政国家としては珍しく生まれの貴賤や出身を全く問わず、強い魔力及びそれを扱う技術さえ長けていれば出自を問わずに重用するといった宣言が他国よりも先駆けて行われ、建国から現代に至るまで厳格に守られている。


 故に、国内外から有力な魔法使いの素質を持った人材がこの千年程の間この国に集まり続けており、魔力が持っている柔軟な利便性という特性を活かして強固な栄華を築き上げていた。


 無論、同じ大陸に在する周辺諸国もその繁栄に追従する為に同様の理念を持った政策を実施する、或いは魔力至上主義が台頭するまで権勢を誇った権力者などが、競争的もしくは敵対的にドミティスに対抗するなど、この国が建国されてから様々な動きが起きていた。


 しかしながら、大半の国家は旧体制の支配者の権力が抜けきれずドミティス程の繁栄に繋がらず後塵を拝し、直接的に敵対した国は魔力が持つ圧倒的な力の前に押しつぶされる形でほとんどが滅び、生き残ったごく少数は属国となっている。


 つまるところ、現在において良くも悪くもこのドミティス魔導帝国程を中心にして世界が動き続けており、この大陸における覇者というのが国内外における共通の認識である。




 そんな国家の中枢とも呼べるのが、代々指導者である皇帝を輩出し続けているドミティス皇家である。


 魔力至上主義を謡っているのにも関わらずこの国の長い歴史の中で一度たりとも皇家がその主権を手放していないのは唯一の例外、ではなく、純粋にその実力を以って他者に譲らなかった。ただただそれだけの話である。


 強い魔力を持つ子供を産むための血統管理、生まれた後の子の教育及び訓練方法に対する知見の深さ。


 ドミティス皇家は建国直後からこれらの知識や技術を確立していたとされ、その歴史の中頃からは確認できるだけでも一代に一人はほぼ神子が存在しており、彼らの覇道を脅かすものは実力を以って常に退けていたのだった。




 そして現在、次代を担うとされる神子が現れたのは今から約十六年前の事である。


 傍系の血筋であった彼女はその魔力質量が神子に相当するものと判明したと同時に宗家と養子縁組が行われ、次代皇族の要の証である『王杯』の紋章が与えられた姫君となったのであった。


 これだけならば数十年から約百年程の周期ではあるがドミティスの歴史の中で幾度も繰り返されてきた慣習であった為、珍しくはあっても特異な出来事ではなかった。


 が、この事実上の次代覇者が異常性を発揮し始めたのは、その実権が与えられてから間もないときの事。


 既に判明していた魔術的な才能に加えて、姫君はその他の一般的な教養に対しても高い適正を見せ始めたのだ。


 通常であれば四年は掛ける基礎的な学習を一年で終え、更に本来は十年近く要するはずの一般成人が独立できる程の学力を僅か三年程で習得した頃には、未だ齢二桁に到達していないにも関わらず国家経営の実務の一端を担っていたのだった。


 その頭脳の聡明さ、優秀さが国内外に広まるのはそう長くなく、国内においては次代を担う姫君に多大なる希望と期待を、国外には益々権勢を強めるであろう強大国に畏怖を抱かせていた。




 そんな未来明るいドミティス帝国に影が差したのは、つい先日の事。


 ――ドミティス皇家第十九代王杯、『神子姫』ユーリ・キャリベル・ドミティスがその姿を消した。


 それは奇しくも、呪い子である少年ウィルが地の底から這い出し、その思いを新たにした時と重なっていたのだった。

生まれながらの天才にして内政チートをかましたユーリ姫。一体何生者なのか……(棒)

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