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エピローグ ウィルという少年

前回のあらすじ:ウィル、地下世界のヌシを物理と根性のゴリ押しして討伐する。

「……うっぷ」

(さーてと。これからどうするかなぁ……)


 汚肉で臓腑を満たして体力を回復(?)して崖登りを地下世界からの脱出を始めたウィルを横目に、レッドは自分達の今後の行動について思考を巡らしていた。


(方針としてはウィル(コイツ)の鍛錬は続けていくとして、問題はそれをどうやっていくかだよな)


 レッドとしては自分の目的である、恐らく自分が造られた時からかなりの時間が経過しているであろう世界の様子を見て回りたいところであった。

 が、共生対象として選んだ少年の話と彼を取り巻く環境を考えれば、それが容易でない事は想像に難くない。


(ほんと、どーしてこんな胸糞な世界になったかなあ?)


 先刻ウィルにも言ったが鬼の子(呪い子)に限らず、昔から社会的な弱者が迫害されるという事例自体は珍しい事ではない。

 それどころかレッドが生まれた時代においては弱者救済という概念があったにも拘わらず、大なり小なりの迫害された人の話が絶える事は無かった。

 それが人という生物の業なのか、はたまた社会という機構が持っている特質なのかは不明である。


 ただ一つだけ確かなのは、少なからずそういった少数派の存在を救済しようと動いていたはずの世界が、その歩みを止めて苛烈で排他的な世論が占めているという事実である。


(どうも鬼の子限定みたいだからなあ、それ以外にも差別が適用されていたら()()()()がまた変わってたんだけども)


 いずれにせよ問題なのはウィルが当の排他対象である事であり、彼に吹き付けている厳しい世間の逆風をものともしない強さを身に付けてもらわなければ、レッドとしても困りものであった。


(幸いなのはコイツの潜在能力がかなり高いっぽいって事かな)


 元々の素養に加え、皮肉な事に生まれてきた時から厳しい環境に置かれていた為に、鬼の子特有の高い環境適応力によってその素地が育まれていた。

 それがレッドとの出会いを契機に芽吹き、急激な成長を始めていた。


 五感と脳の高い情報処理能力を自覚した途端に活用し始め、まだ初歩的なものに限られているものの鬼術を瞬時に会得した。

 更に鈍重な得物と鉱竜戦を経て肉体に掛った決して軽くない負担に耐え抜き、現在は苦痛をものともしない精神力と身体の驚異的な回復速度の相乗効果によって、先の戦いからそれ程経っていないはずなのに黙々と崖登りに勤しめている。


 未だこの時代の人間を見た事がないレッドだったが、仮に彼が知る一般人とそう変わらないのであれば単純な身体能力においてはウィルは既に圧倒する域に達していると確信していた。

 また、仮に他の人間と荒事に陥る事態になったとしても、常人レベルかつ単独までが相手ならば自分(レッド)の補助込みで魔法の有無程度のハンデはひっくり返せるとも思っていた。


 が、だからといって無条件で楽観視ができる程ではないとも考えていた。


(さすがに飛びぬけた実力を持った奴とか、きちんと戦闘訓練を受けた集団との戦える程の実力は()()無いからなあ……ある程度力が付くまでコイツの身の安全は何とか確保したい)


 単純に考えればウィルが行っていた人里から離れた生活を続行すれば、少なくともレッドの“格上との対人戦”という一つの懸念事項は回避できるだろう。

 実力が付いた今なら魔物や魔獣といった以前のウィルならば危険な存在となりえた対象は減っており、短期的に見れば悪くない選択肢である。


 ただ、いずれ世界を見て回りたいレッドとしては懸念があった。


(オイラの読みが正しければ十分に鍛えた呪い子(コイツ)がいきなり世に出た時、どうにもロクでもない事にしかならない気がするんだよな……)


 陰謀論者というわけではないが、やはり鬼の子が世を騒がせた当時の事を知っているレッドとしては、現在置かれている呪い子(ウィル)の状況がどうにも解せなかった。

 それを抜きにしたとしてもウィルの話が聞いた通りならば世の中は極端に魔法・魔力を重視、否、依存していると言っても過言ではない世界になっている。

 そんな魔力至上主義な世の根本を揺るがしかねない、魔力に頼らずに生きる存在をすんなり受け入れてくれる人間が、果たしてどれ程いるだろうか?


(いやまあ、さすがにゼロって事はないだろうけど。少なくともこいつの親父さんみたいなお人好しもいるみたいだし、そういう人に保護してもらえれば万々歳なんだけど)


 更に言えば、世間からの強い風当たりを遮れるだけの力のある人間の庇護下に入れれば、ウィルの義父のようなジリ貧生活を送るような悲劇は避けられるだろう。

 問題としては、ただでさえ少ないであろうパッと見穀潰し以外の何物でもないウィルを保護してくれるお人好しでありつつ、更に生活に余裕があり力のある上流階級に位置する人と出会わなければならない、という事だ。


(……うん。控え目に考えて無理ゲーだな!)


 レッドが生まれた時代では常人であっても、コネがなければそんな上等な人物とお近付きになる事はまず不可能であった。


(こんなナリな上に随分昔に生まれたオイラは論外として、ウィルにそんなコネあるわけないしなあ……)


 そもそもそんなコネがあればこんな状況に陥っていないだろう。


(……そういや、ウィルの親父さんの知り合いでいなかったんかな? そういうお人好し)


 ふと“類は友を呼ぶ”という諺を思い出し、ウィルを養育した人物の知己ならば同じように呪い子たる彼を引き取ってくれそうな人間がいなかったのだろうかと疑問が浮かぶ。


『なあウィル』

「……なに?」

『ちょっと気になったんだけどさ、死んだ親父さんの知り合いでお前を引き取ってくれそうなのいなかったん?』


 尋ねると記憶を探ってるのか、崖登りの手が少し止まる。


「……分かんない。多分いないと、思う」

『? 多分ってどういう事だ?』

「義父さんの知り合いに会った事がないから。もしかしたら、すごく小さい頃にはあるかもしれないけど……」

『そうか……それにしても親父さんはその、冒険者? だったんだろ? 色々な所を旅してそうな職業なのに、ウィルと放浪していた時には誰とも知り合いに会わなかったのか?』


 少し落胆しつつも、また浮かんだ別の疑問を尋ねると「そうだよ」と短く返される。


「俺を拾う前は遠い別の国に居たって言ってた。こっちに来て割とすぐに俺を拾ったって……どうしてこんな事聞くんだ?」

『いやなに、今後の事を考えてな。一先ず親父さんのツテを頼ってみたらどうかなと思ってな』


 以前は国外に出ようとしてもできなかったが、柏手を習得した今のウィルなら強引に結界を消滅させて国境を越える事も可能であるはずだ。


『お前を引き取った人間の友人なら、同じように面倒見てくれるかもしれないだろ?』

「……どうだろう。そうだったら良いんだけど」


 あまり期待はしてないといった様子でウィルは崖登りを再開する。


 このウィルのどこか達観した、子供離れした現実的な態度もまたレッドが彼をどうにかして社会的に安定した人間の庇護下に入れたい理由の一つであった。


(うーん……なんというか、ウィルにはもう少し心に余裕が欲しいというか、年相応に希望の一つや二つ抱いてほしい所なんだよな)


 別にまだ年端もいかない子供だからそうであって欲しい、そうあるべきだ、という訳ではない。

 ただ、夢や希望の一つも抱かないまま早く大人になってしまうと、生きる目標が無くなってしまう。

 目標なんて無くても生きるだけなら問題は無い。

 ただ、生活をする上での原動力、活力が希薄な人間になりがちになる。


 それはウィルの才能を伸ばしていく上で何よりも大きな障害となりうるから。


(まあ、親父さんの形見のおかげで枯れた木の根っこの部分にはまだ情熱というか、目的に対する強い原動力があるのは確認できたからまだ良いんだけど)


 ゴブリンとの乱戦や鉱竜との戦いで見せた咄嗟の閃きや底力、あれは偏にウィルが自身の望みに突き進んだ原動力の賜物であった。


(あそこまで自分を見失うのもちと困りものなんだが、あれくらいに夢中になれるものを見つけてくれないのも厄介なんだよなあ)


 貧乏暇なしとは言ったものだが、生活に余裕を持てなければどうしても心が貧してしまう。

 やはり、なんとかしてウィルをそこそこの地位にある人間に庇護してもらいたい所であった。


(どうにかウィルを売り込めるポイントは無いんかなあ……昔読んだ物語だと、よく自分の故郷にしかない技術や知識を持ち込んで成り上がる話があったけれども)


 何か自分が持つ知識で役立てられそうなものは無いかとレッドが考えていると、いつの間にかウィルが崖登りを終え、しばらくぶりに日の下へ姿をさらしていた。


「……出れた」


 久方振りに浴びた陽の温もりを味わうかのように目を瞑り、乱れた呼吸を整えようと新鮮で済んだ空気で肺を膨らませた。


「はぁ…………帰って、これたんだよな? 地上に……」

『おう。お疲れさん』


 そうレッドが応えると張りつめていた気が緩んだのか義父の形見を取り返した時とまた少し違う、穏やかな笑みをウィルが零した。

 その様子に、レッドはやはりウィルはもっと余裕を持つべきであると強く感じた。


「それで? 俺は義父さんの居た国に向かえば良いのか?」

『んー……そうだなあ。お前はどう思う?』


 少しでも自主性を持たせるべく問い返してみると、ウィルは怪訝に眉を曲げた。


「え? 別に? お前と約束したから、俺は今後お前の指示に従うだけだぞ?」


(うわっちゃー……まじかコイツ……)


 完全に思考を放棄しているウィルに呆れてしまう。


(ううむ……これは思っているより深刻だな)


 今後の事については未だ考えを巡らせているレッドであったが、差し当たってはウィルの情操教育に力を入れる事を新たに決意するのであった。

ある程度書き溜めたので投稿再開します。

今回はレッド視点の閑話、一章のエピローグ的な話です。

次回は二章のオープニング的な話として、世界観的な内容の予定です。

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