13 森の中、子キツネと熊と
森の中にある湖のほとり。 そこにあるお花畑の側で、巨大な赤い血のような鎧を身に着けた熊がわたし目掛けてその凶悪な爪を持つ右手を振り下ろす。
あまりの恐ろしさにわたしはギュッと目を瞑ってしまう。
「きゅーーーーーーん!!」
その時、わたしの後ろにいた子キツネが高く鳴いた。
ああ、せめてこの子だけでも無事に……
すぐに来るであろう痛みに身をこわばらせていたのですが、一向にやってこない事にいかぶしみ、目を開けてみました。
すると、わたしを中心に半球形の膜のようなものが現れていて熊の爪を受け止めていました。
そして。
「おらあっ!」
という気合いの声とともに、紅蓮が熊を蹴りつけ吹き飛ばしました。
「ミリオ大丈夫か?」
紅蓮が吹き飛ばした熊の方を睨み付けながら、わたしの無事を確認してきます。
「は、はい大丈夫です。 たぶんこの子が守ってくれました!」
紅蓮は安心したような笑みを浮べると熊を睨み付けます。
「こいつはアーマードブラッドベア、レベル40のこいつがなんでこんなとこに? ここはセーフティーエリアだぞ? でも攻撃は効いたな、どういう事だ?」
わたしは熊を見てそして子キツネを見ます。
子キツネは熊に威嚇の声を上げて警戒しています。 もしかして……
「この子その熊に襲われたんじゃ?」
というわたしに紅蓮は。
「なるほど、んでそいつを追ってやって来たってシナリオかな? でもそんなクエスト知らないぞ? アプデで新しく生えたやつかな?」
そう言ってわたしの肩にいるシャナをチラリと見ました。
『ちょっと今回は、の~こめんと! 後でね~』
とシャナははぐらかしました。
と、そこで子キツネがフラリとよろめき半球状の膜が消えました。
あぶないっ!? わたしはとっさに抱きかかえ倒れ込むのを防ぎました。
「よしミリオはそいつを守ってな。 あの熊はオレが倒す。 経験値入らなくなるけどカンベンな?」
「大丈夫です。 でも気を付けて!」
紅蓮はグッと親指を立てて、熊に剣を向けました。
熊は朦朧としていたのかしきりに頭を振っていましたが、ようやく紅蓮に威嚇の咆哮を上げ向かってきます。
「グアアアアアアアアアアアアァッ!」
「うるせぇよ! まずはコイツだ、【ショックウェーブ】!」
紅蓮がそう言いながら剣をその場で振り上げるとそこから衝撃波が走り熊に命中しました。
あれは、あのMPKに使った技?
熊は硬直したかのように足を止め、棒立ちになりました。
「レベル40とはいえオレには脅威でもなんでもないぜ! 【ヴァルキリーチャージ】!」
その叫びと共に熊に剣を向けていた紅蓮は弾けたかのように突進すると、次の瞬間には熊の真近にいてその剣はクマのお腹に深々と刺さっていました。
「Gu、GUUUUUUU!?」
熊は絞り出すかのようにうめき声を上げるとバッタリと倒れその身体は消えて行きます。
はああぁぁぁ~っと、思わず深い息を吐いてしまいましたがこれで終わりですよね?
……紅蓮が剣を収めたので大丈夫そうですね。
あ! それより子キツネは!?
慌てて腕の中にいるキツネを見やるとつぶらな瞳がこちらを見返してきました。
「きゅ~んきゅんきゅん!」
うう、かわいいっ!
腕の中、ヒョコっと可愛らしい顔を向けてくるその姿に、わたしは身もだえしそうになりましたが、今はガマンです。
「キミが守ってくれたんだよね? ありがとう」
「きゅんっ!」
わたしがそうお礼を言うと、子キツネは一声鳴いた後わたしの頬をなめてくれました。
ふああぁ~!?
その行動に悶えていると、突然声が聞こえてきました。
”子キツネのアナタへの信頼度が規定値以上になりました。 テイム可能です”
え? どういう事ですか?
『ほらミリオ! この子も待ってるよ~ 《使役》使ってあげなよ~』
戸惑っているとシャナがそう言ってきます。
しえき…… あ、使役、テイムスキルですね!?
わたしはおずおずと子キツネにそっと手のひらをかざします。
「わたしのお友達になってくれる?」
わたしの問いに子キツネは。
「きゅんっ!」
と返事を返してくれました。
OKってことで、いいんだよね?
ならばと、わたしは思考制御で使役を選択し発動させる。
そして、”テイムが成功しました。 テイムモンスターに名前を付けてください” と言われました。
ふむう この子をよく観察してみる。
傷が癒えたからか血で汚れていた毛は綺麗になっていた。 毛皮は真っ白くやわらかそうでわたしの腕にすっぽり入るくらいの大きさしかなく、ふさふさの尻尾はゆらゆらと揺れている。
その姿を見ていたら自然とその名前が浮かんできた。
「稲荷…… トウカはどうかな?」
「きゅーーんっ!」
トウカはそう鳴くと再びわたしの頬をなめてきます。
よかったどうやら喜んでくれるようです。
トウカというのは稲荷神の神使の白狐のことを昔は御先稲荷って呼んでいたらしいです。
そこで少し変えてトウカにしました。
『初テイムおめでと~』
「ミリオおめでとう!」
「二人とも、ありがとうございます!」
そうだ初テイムだったんだ。 わたしはトウカを抱きしめると、その場でクルクルと回ってしまい後で恥ずかしくて悶える事になるのでした。
やっとモフモフげっと!(遅い)