11 トッププレイヤー紅蓮
その少女は、赤い髪を高い位置で結わえた腰までの長いポニーテールで、右手には大きい剣を持ち、制服というか軍服? のようなパンツスタイルで材質は分からないけど美しい意匠の施された鎧を着こなしていた。
意思の強そうな眉尻の上がった眉の下には切れ長の目、スッと通った鼻筋に小ぶりな口は不敵に微笑んでいる。
背はわたしよりは高いが決して高すぎるというほどでもなかった。
「大丈夫だった?」
その容姿に見合うような、ちょっと高めのハスキーボイスがその口からこぼれる。
そこでようやくわたしは身じろぎする。
「だ、大丈夫です。 あ、ありがとうございました。 あの…… 貴女は? なぜここに?」
そう言ったわたしの問いに、彼女はバツが悪そうに少年のような仕草で頭を掻いた。
「ああー、悪いまだ名前言ってなかったな。 まあ頭の上にあるから分かるっちゃ分かるけど、マナーだしな。 コホンッ! オレの名前は紅蓮だ。 ここにいたのは、偶然? かな。」
「あ、わたしはミリオです」
『あたしはシャナ!』
紅蓮さんはニコリと笑ってよろしくと言って続きを話してくれました。
「実は、クランの新人のレベル上げに数人で協力してたんだけど、草原はあのありさまだろ? んでなら森に狩場を変えるかとなってさ。 先にオレが森の状況を見てくるって来たはいいが…… まさかMPKがいるとはなあ」
んん、MPK? ってなんでしょう?
わたしの疑問に気付いたのか、肩に座っていたシャナが答えてくれました。
『MPKってのはモンスタープレイヤーキラーの略だね~ 直接プレイヤーキル、PKするんじゃなくてモンスターを引きつれて、こういうのをトレインっていってそのモンスターを相手に擦り付けて他のプレイヤーを殺す行為だよ。 あ! PKしなくてもトレイン自体がマナーの悪い迷惑行為なんで気を付けてね』
シャナの答えに紅蓮さんはウンウンと頷いて。
「そうそう、そのちっこいのの言う通り『ちっこくないよ~!』 悪い悪い、あーそのチュートリアル妖精みたいな? 子の言う通りアイツはMPKでな。 このゲーム、ファストトの周辺フィールドじゃ直接PKできないからああやってMPKするやつが少なからずいるんだ」
なるほど…… プレイヤーを殺すなんて怖い行為を平気でやるなんて、わたしには理解できません。
紅蓮さんはしばらくわたしを見やった後、提案して来ました。
「ミリオさんも初心者ぽいけど、良かったらレベリング手伝うよ? またMPKが来ないとも限らないしさ」
と言ってくれましたが。
「でもご迷惑じゃ?」
「なーに一人でも二人でも変わらないって!」
うーんどうしよう? 甘えちゃってもいいのかなぁ。
申し訳ない気持ちでいっぱいですが、遠慮してると押し切られました。 紅蓮さんって押しが強いですね。
「あ、でもわたしテイマーでテイムモンスターがまだいないんですけど……」
「うん? このちっこいのは?」
『ちっこくな~い!』
シャナが怒ってるように見えない笑顔で紅蓮さんに突撃していきます。 紅蓮さんも笑いながらその突撃を躱しています。
で、まあ恥ずかしいですがチュートリアルで起きた事を話すと、紅蓮さんは爆笑しました。 ううひどい。
「ぶははっ! あ、ごめんごめん。 でもそっか。 そんな事あるんだなぁ」
「もう紅蓮さんひどいです!」
「紅蓮でいいよ。 ゲームだし、敬語もなしだとうれしいな」
「え? じゃあわたしもミリオでお願いします」
敬語は…… もう癖みたいな物ですからね。 治るかはわかりません。
『ね~ね~紅蓮。 紅蓮ってもしかして爆炎剣の紅蓮?』
爆炎剣?
「あれ? そういうの分かるのか? まあたしかにそういう二つ名は運営から貰ったけども、厨二くさいからやめてくれよな。」
わたしの顔が? になっているのを感じたシャナが説明してくれました。
『爆炎剣っていうのは二つ名で、これは運営からイベントとかで貰える称号みたいな物なんだ~ んで紅蓮はトッププレイヤーの一人で第一回武闘大会優勝者だね~』
ふあー! 優勝! すごい人だったんですねぇ。
「まあとは言っても、そろそろ皆のレベルも上がってきたし優勝したからって油断できないけどな」
聞けば紅蓮さ、紅蓮のレベルは70だそうです。 シャナによると現在のカンスト、レベルカウンターストップ、つまりこれ以上レベルは上がりませんよ、というのが70なんだそうです。
そうやって話していると。
「あ、悪い。 ちょっと個人チャット入った。 おう、おう、おう? あーならしょうがないな。 1時間後な。 わかった。 ああそうそう一人追加なんで頼むな。 ああはいはい。 急がないでいいって言っといて」
と言った後わたしに向き直り謝ってきました。
「ごめんちょっと予定が狂った。 新人がリアル用事で遅れるってさ。 だいたい一時間くらい」
ふむふむ。 まあ一時間くらいなら問題ないですね。
「んでさ。 ちょっとレベリングも兼ねてオレのお気に入りの場所にいってみない?」




