99 三次転クエ開始
シリアスの予定が……
”ザルフェは男の勧めに従い、神獣に告げた。 「我が妻を望むというならば、その力の一端を見せよ」と。 その言葉を聞いた神獣は、すぐさま国境近くまで来ていた帝国の軍勢をその力で追い返した。 そしてその時に出来たのがアバラン山脈だった。
神獣は言いました。 「約束は果たした。 神子をよこすのだ」と。
ザルフェの側にいた男は言う。 「これより神獣様に捧げるために身を清めさせとう存じます」
身を清める場所は、かつて大地の女神ラーファーが神界へ行くために生み出した”神域の塔”だった。
100層を超えるその神秘の塔は、信者達の修行の場として使われており、女神の神性の残る場でもあった。”
と、そこまで読み進めていると、突然目の前にポップアップが浮かびました。
”レベル55 転職クエスト 巫女のハジマリが開始されます”
と出ました。
これが転クエでしょうか?
クエ内容を確認してみます。
”虚栄の塔”にある隠された部屋に向かい、アルマダの末と接触せよ。
アルマダの末? 末ってたしか、末裔とかって意味でしたっけ。
「む? どした?」
わたしの様子に気付いたのか紅蓮が尋ねます。
「転クエ、始まりました」
「んんー? 本読んだから?」
「ですかね」
クエ内容を説明し、相談すると紅蓮が答えます。
「場所は、塔の最上階か。 でもここってレイドボスしかいないぞ?」
ふむ、どうも最上階、つまり20階は天井が無くだだっ広い一つの部屋になっているそうです。
隠し部屋があるような雰囲気ではないらしいですね。
「あ、いやでも…… まあ行ってみるか」
「ですね」
「……いく」
どうも行き当たりばったりな気がしますが、まあいいでしょう。
そういえば。
「ナインは転クエいいんですか?」
わたしが付いて来る気満々のナインに、自分の転クエはいいのか聞いてみました。
「……大丈夫後はアイテム揃えるだけ」
何時の間にか進めてたんですね。
「ああソーサラー系は55クエは比較的簡単らしいぞ。 比較的な」
ささっと塔に向かい20階に到着。
そこには何もなく、ただ塔下が覗けるほど壁が壊れた大きな部屋のみでした。
おや? よく見ると部屋の中央に誰かいますね。
「おう、ヴァニティの! お前らもレイドか?」
そこに居たのは、《ハーヴェスタ》のシグノさんでした。
「お? シグノのおっさん。 この前はありがとな」
「おお、気にすんな! こっちも嬢ちゃんのバフは助かったしな」
わたしももう一度お礼を言っておきましょう。
「しかし、まだ沸いてないな」
紅蓮が部屋を見渡しながら言います。
シグノさんは紅蓮の言葉に頷きながら肩を竦めます。
「こりゃ明日かね」
ここのレイドは、デーモンロード パスファリク という身長4mもある巨大な悪魔です。
パスファリクは1週間に一回沸くレイドで、このレイドが沸いた時は部屋の中央に扉が現れるらしいです。 ん?
「これはやはり……」
紅蓮はその可能性に気付いていたようです。
「「 隠し部屋! 」」
わたし達はお互い顔を見合わせ、大声を上げます。
「おおお? どうした二人共?」
突然のことにシグノさんが困惑してますね。 すいません。
えーと、と言う事はですよ。 レイドに参加する必要があるんでしょうか?
そう思いながら、部屋の中央に向かいます。
わたしがその足を踏み出すと、いきなり光があふれ出し、視界が真っ白になりました。
そしてわたしは一人、見知らぬ小部屋に立っていました。
わたしが辺りをキョロキョロしていると、背後から声が掛かりました。
「やあ、来たね今代の巫女。 私はドザルタ、ただのドザルタ。 何者でもないドザルタさ」
そこには、何時の間にかドザルタさんがいました。
驚くわたしに構わずドザルタさんは語り掛けます。
「なぜ私がここに居るのかって? 君は不思議に思わなかったかい? なぜ、君を見ただけで古代の衣装が作れたのか? なぜ、古代の装備を複製出来たのか? それは…… 私がアルマダの子孫だからさっ! アーッハッハッハッハッハッハッハ!」
うん、そうだと思いました。
絶好調のドザルタさんを邪魔するのは忍びないので、しばらく黙っておくことにしました。
「ブァーーーーーッハッハッハッハッハ…… ゲホゲホゲホッ!?」
ドザルタさんはシリアス出来ない人なんですかね。
咳き込んで蹲るドザルタさんの背中をさすりながら、ため息を吐くわたしを責める人はいないでしょう。




