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1. 名門一家の愚息サマ!

 右見て左見て、もう1度右見て。更に左を見て、右見て、左見て、最後に右。

 寮の自室へ入るにしては異常にも思える警戒をしてから、ユゥリーオは自分の部屋の扉を開けた。

 廊下を通れば広いリビングが広がっていて、寮の部屋と言うよりはちょっとした高級マンションだ。ユゥリーオはリビングに置かれた質の良いソファーに1日の疲れの癒しを求める事もなく、バッグを投げ捨てる間さえ惜しんでリビングを素通り。廊下をどんどん進んでユゥリーオは1番奥の扉の前で足を止めた。


 吸って、吐いて。


 深呼吸を2度、3度。

 それから何かに警戒でもするかのように数拍の間を置いてから、目の前の扉をノックした。


 トトトンと連続的に3回。それからきっちり3秒の間を置いて、トン・トンとゆったりしたリズムで2回。


 それが合図だったかのように、いいぜと素っ気無い声がユゥリーオに届く。

 その返答を聞いて安心し、全身から力が抜けるのを感じながらも扉を開くと、倒れこむように部屋の中へと入った。

 そんな、いかにも疲れきったと言わんばかりのユゥリーオに、呆れ半分、心配半分の声が部屋の奥から掛けられた。

 扉の前で聞いた声と同じ物だ。


「……大丈夫か?ユゥリーオ」

「あー、大丈夫。大丈夫。つーかアクアの方こそ大丈夫か?なんか変わった事があったとか、教師が異様に部屋の近くをうろついていたとか」


 ユゥリーオの当然の心配に、しかしアクアは軽く笑ってみせる。


「こうして出迎えられた時点で目立つ事件はないだろ。何か嗅ぎつけた人間がいたところで忘却術なりなんなりを駆使して、穏便にお引取り願うさ」

「確かにアクアの魔術は頼もしいけどよぉ」

「オレよりお前だ。お前の方は大丈夫だったのか?」

「おう!アクアのおかげで今日もばっちり!……ただ、いいのか?こんな事ばっか頼んじまって。損な役回りと言うか、お前の手柄を横取りしてるって言うか」


 悲しいかな、言い慣れてしまったようにさえ思える、それでも心底からの言葉に、アクアはいつもと同じように苦笑した。

 やれやれと言わんばかりに肩を竦めてみせる仕草は、整った知的な顔と細い体付きによく似合っている。

 整ってない事もないらしいが、子供っぽい顔立ちのユゥリーオでは到底似合わない仕草だ。真似ても間抜けに見えてしまう。


「オレがここにいられるのも、あの家に置いてもらってるのも、全てお前のサポートをするっていう約束あっての事だろ?まあ、お前がそれで当然のように振舞っていたら、オレもあの家にいようとは思わなかったけど、な」

「なんつーか、それに甘えてるオレが言えたコトじゃねーけど……あんな家で悪い。そんなつもりでお前を呼んだワケじゃねーんだ」

「だから分かってるって」


 話している内に落ち込んできたユゥリーオに対し、アクアはどこか楽しそうにくすくすと笑ってさえいる。



 アクアは、孤児とか、捨て子とか呼ばれる人間だ。

 まだユゥリーオが幼い頃見付けて、家に連れてきた。ユゥリーオの家は、一般よりも遥かに裕福で、それこそ巷では城と呼ばれる程の規模だったから。

 アトラス家と言われれば知らない者がいない、と言われる程の名家である。

 だから嫌な言い方をすれば、第一子であるユゥリーオ・アトラスが猫の子でも拾ってくる感覚で孤児を拾ってきたところで、そう生活に窮することもなく、寧ろ小さな孤児院丸々1つ分の子供を養ってもなお、その資産は余りある、というところだろう。

 しかし、だからと言ってどこの誰とも分からぬ孤児をあっさり受け入れるほど、寛容でもなければ、無用心でもない。

 最初アトラス家の現頭首とその婦人であり、ユゥリーオの両親でもある2人は難色を見せたのであるが、アクアが持つ魔力の強さが彼等の首を縦に動かした。


 頭首と婦人をさえ軽く凌駕するのでは、と思える魔力と、幼くしてその膨大な魔力を使いこなすだけの技量。

 どこで学んだのか、膨大な魔術の知識は、机上の空論に留まらず正確に扱ってみせる。



 それは、現頭首にとって、今のアトラス家にとって、なんとしても欲しい物であった。



 昔々、カガクやサイエンスと呼ばれる技術が主流となり、魔術は眉唾物だの、御伽噺だのと語られていた。

 更にそれよりも昔は魔法が人類と共存していたらしいが、魔女裁判なるもので途絶えたとされている。

 しかしそうした世論の中、細々と生き延びていたのか、それとも突然能力に芽生えたのか。そうした経緯は定かでないものの、数百年前1人の青年が端へ端へと追い遣られていた魔術を表舞台へと引き戻し、大昔の事とはいえ、過去の悲劇を繰り返さぬためにと魔力を持たぬ人間と共存するための基盤までしっかりと作り上げた。


 今日の時代を作りあげたその青年こそ、アトラス。

 ユゥリーオ・アトラスの先祖であり、ユゥリーオの家が豪邸であり、名家である1番の理由だ。


 そんな初代アトラスの血を色濃く継いでいるのか、アトラス家の子孫は代々魔術に優れ、今日の時代を牽引するに相応しい一族だと語られていた。

 事実アトラス家の人間はその魔術で代々人々を救ってきた。たとえば正体不明の魔物に怯える集落を。たとえば日照りに悩む村々を。



 よくある話である。珍しくもなんともない。



 アトラス家次代頭首であり、現頭首の第一子、ユゥリーオ・アトラスには魔術的才能が一切なかった。

 人より膨大な魔力を持っている筈のアトラス家の、正式な第一子であるにも関わらず魔力も微塵もない。

 これで両親、特に父親がすぐに疑惑を向ける人間であったなら、母親の不貞が疑われ、家庭崩壊さえ起こしていただろう。まあ、両親共に穏やかな性格であることが幸いして、その不幸は訪れなかったが。

 しかしながら、だからといってユゥリーオに才能がない事実には変わりない。それを間違っても一般人に知られるワケにはいかない。

 そうした問題を抱えていたアトラス家頭首と婦人にとって、ユゥリーオが連れてきた、名前さえ持たない魔術的に優れた孤児は、願っても無い逸材だったのだ。


 だからある条件付きでアクアの面倒をアトラス家が全面的に見る事になった。

 その条件が、ユゥリーオの魔術的サポート。……と言うか寧ろ、ユゥリーオの腕となる事だ。


 結果、ユゥリーオは無事、魔術師の通う名門学校に優秀な成績で入学。アトラス家の子息としては当然の事であるものの、アトラス家の体面を保つ事にも成功した。

 もっとも先程言ったようにユゥリーオ自身に魔力は一切ない。だから名門学校となればもちろん、魔力の弱い者でも入学出来る学校でも、魔術師の通う学校には入学出来なかっただろう。アトラス家の人間が代々通う学校に行かなかったというだけでも事件なのに、入学した先が一般学校となっては魔術界を揺るがす大事件だ。アトラス家も一家の大恥であり、存続の危機にさえ陥っただろう。

 そんな最悪の未来は回避された。しかしユゥリーオはこと魔術に関しては、1人では何も出来ない。

 従って、ユゥリーオの腕であるアクアもユゥリーオの傍にいる必要がある。

 もっとも、元孤児で戸籍上は存在しないアクアが普通に学校へ入学する事は出来ず、1人の魔術師として入学してしまえばユゥリーオの腕だけでいる事も出来なくなる。しかしアクアと離れてはユゥリーオはただの一般人だ。

 その結果が現状の、ただっ広いが実際は1人部屋である、ユゥリーオに宛がわれた寮の部屋での2人暮らしというワケだ。



「あーあ。せめてオレに少しでも魔力があればなぁ」


 どうしようもないことなのだと分かっている。分かってはいても、思わず零してしまわずにはいられない。

 そうすれば後は必死で鍛錬すれば、最弱と表されようともなんとか自力でアトラスの名に辛うじて恥じないだけの取り繕いは出来ただろう。

 何よりアクアもこんな日陰者のような生活をしなくて済んだ筈だ。アクア本人が構わないと笑っていても、ユゥリーオとしては気になるし、後ろめたいし、アクアにもアクアの人生をきちんと歩んで欲しい。家柄だけが有名な無才の愚息に尽くす事だけがアクアの人生であるなんて、そんなのは、その無才の愚息こそユゥリーオ本人なのだが、やりきれない事この上ない。


 でも、そう思っていても、どうにもならない事はある。


 魔術の扱いに劣るというのなら、それは自分の鍛錬不足だ。本を読み、理論を学び、実践を重ねる事で改善される。

 しかし魔力がないというのでは、話が変わってくる。

 エネルギーがなければ、物は動かない。魔力は魔術を行うためのエネルギー、最も重要な核の部分であり、それがなければどんな簡単な魔術でさえ起こす事が出来ないのだ。

 たとえばエネルギーの尽きた携帯端末が動かないように。魔力を持たない人間とはつまり、エネルギーが完全に尽き、最補充もしていない携帯端末である。携帯端末が成せる機能を魔術全般に置き換えれば、少しは分かり易いと思う。

 動く携帯端末であれば操作を覚え、魔術なり知識なりで新しい機能を見出す事、使いこなす事も可能だ。つまり魔力があれば努力しだいで扱える魔術はどうにでもなる。しかし動かない携帯端末はただの飾りに過ぎない。どうやったって動かない。

 魔力と携帯端末が異なるのは、魔力は滅多な事では枯渇しない事。そして補充も出来ない事だ。


 つまりは、生まれながら微塵も魔力を持たないユゥリーオにとって、魔術を成す事は不可能なのだ。

 どれほど願っても、どんなにアクアの事を想っても、アクアに自由をと望んでも、ユゥリーオの手は何も持たず無力のままで、アクアを縛る事くらいしか出来ない。

 自分の手をぼんやり見つめて、小さな光の生成、極々簡単でアトラス家でなくとも物心付く前から成せるような魔術を行おうと意識しても、光が生まれる気配は微塵もなく、無力な手が映るばかりだ。

 何も出来ない。

 アクアを縛って、アクアの作り出した魔術に甘える事しか出来ない手。

 アクアを拾ってきた時、自分は何を思ったのだろう。アクアを放っておけなくて、幼いながらに助けたいと渇望したはずなのに、今では却ってアクアを追い詰めている。


「お前はやさしいし、物覚えもいい。人の事を考えられるし、最善手を生み出す事に長けている。それは優れた人間だし、優れたリーダーであるとオレは思うぜ。少なくともアトラス家の頭首になるに相応しい器だ」


 まるでユゥリーオの思考がどんどん沈んでいっているのが分かっているかのように、アクアのやさしくも力強い声が掛けられて、はっとしたようにユゥリーオの思考の沈下は止まる。

 手放しにユゥリーオを褒めるのがどこか照れ臭くて、同時にそれでもアクアへの罪悪感は簡単に拭いきれるものでもなく、思考が沈んでいくのが止まった代わりであるかのように、ユゥリーオの視線は落ち着きなく動く。でも、でもよ。言い返そうと口を開くもすぐに言葉は出てこない。


「アトラス家は今の時代を築いた初代アトラスの家。魔術師の筆頭で、魔術が表舞台に立つ今、すっげー強い力を持った一族だ。でもそれってアトラスの人間が強い魔力を持ってるからだろ。父さんだって母さんだって、じいちゃんやばあちゃん、ひいじいちゃん、ひいばあちゃん。挙げてきゃキリがないくらい先祖代々優秀な魔術師だ。けど、オレは」

「確かにお前は魔力がねぇけど、でもてんで才がないワケでもないと思うぜ?本当に才がなければ魔術装置を器用に扱う事も出来ない。それに求めすぎだよ。それだけ頭首に相応しい素質を持ってんだ。そこで魔力まで求めるのは、ちょっと強欲が過ぎるんじゃねぇの?」

「いや、1番必要だろ、そこ!だって」


 アクアの言葉を思わず遮った。

 アクアはどこかユゥリーオを過大評価している部分があるように思えなくもない。罪悪感も拭えない。それでもアクアにそう言ってもらえるのは素直に嬉しいものの、結局努力や場を踏むことでどうにかなるそれらの素質よりも、生まれながらもいわば燃料である魔力こそ、アトラス家に生まれた以上重要なのだ。

 何より発言者がアクア本人であるからこそ、言葉を遮ってでもツッコまずにいられなかった。

 魔力こそ1番重要なのだ。努力でどうにもならないからもある。でもそれ以上に、魔力がないからこそアクアを縛ってしまっているのだから。

 しかしその言葉を言い切る前に、お返しだと言わんばかりに今度はユゥリーオの言葉がアクアによって遮られた。


「だからオレがいるんだろ?」

「いや、だからオレは、それがアクアを縛り付けて、アクアの未来を奪ってるようで嫌なんだって!!」


 本当は本人を目の前にこんなみっともない事を言いたくないのだが、アクアには散々醜態を見せている。取り繕う外面もない。と言うか、アクアこそある意味ユゥリーオの外面だ。

 それに格好付けても、回りくどい言い方をしても、大切な事が本人に伝わらなければ意味がない。本当はここでアトラス家に相応しいだけの魔術を見せて気持ちを伝えるのが1番だが、それが出来ないならせめて言葉でくらいは素直に示さなければ。

 そんな思いからの、ほとんど叫ぶようでさえあったユゥリーオの訴えは、アクアを微笑ませるだけだった。

 半分は嬉しそうに。もう半分は呆れたように。


「オレはユゥリーオに未来を奪われただの、縛られてるだの思っちゃいねぇよ。仮に相手がアトラス家だって多分オレは逃げようと思えば逃げられる。それをしないでお前の傍にいるのは、オレの意思だ。それにお前がガキの頃孤児だったオレを拾ってくれなきゃ、オレは真っ当な人生を歩まないか、さもなくば餓死してたね。あの時点でオレに真っ当な未来なんてなかった。お前が寄越した未来は、オレが掴めうる限りで最善の道だったさ」


 そうしてそんな風に微笑んだまま、まるで物分りの悪い小さな子供にでも言い聞かせるかのようにやさしく、それでいてユゥリーオを慰めるためではなく、本当に幸せそうに言うのだから。

 ユゥリーオの涙腺は緩んでしまう。

 本当の子供のように、わんわん声をあげて泣き喚きたくなってしまう。

 それを何とか堪えた。

 泣き喚く代わりにアクアを真っ直ぐに見つめ、なんとか真剣な表情を取り繕う。


「オレ、アクアの期待に応えるような立派な頭首になってみせるよ!……そりゃあ魔術も扱えるのがアトラス家党首としては理想だけど」

「お前なら大丈夫だろ。オレの期待に応えるどころか、国民の期待さえ遥かに凌駕すると思うぜ?魔術の事は気にすんな。いつの時代も頂点に立つ人間にはいるもんだろ?優秀な頭脳。戦略の要。だったらアトラス家次期頭首がそれを持ってちゃいけない法はねぇよ」


 そう言っていたずらを企む子供のようにアクアは笑ってみせた。そんなアクアからユゥリーオは確かに元気を貰う。

 ユゥリーオ・アトラスにとって最も必要でありながら先天性といったレベルで欠けている魔力だけじゃない。アクアからユゥリーオは沢山のものを貰っている。貰いすぎている程に。

 アクアは遠慮してるのか、欲が浅いのか、はたまたユゥリーオに実はそれ程期待していないのか。理由は定かで無いものの、今の生活が十分だと言ってユゥリーオに何かを望む事はしない。もう十分与えられたと言って何かを受け取ろうとはしてくれない。

 でもユゥリーオとしては感謝の気持ちを言葉だけじゃなく、いつか形をもって返したいのだ。アクアの望みを叶えたいのだ。


 ただ、残念ながらそれがいつになるかは分からない。だって今は。


 この話は終わりとばかりにアクアは息を吐き、そっと自分の手を宙に翳す。

 それだけで彼の手の中に膨大な魔力が、しかしコントロールをしっかり成された状態で集っているのがよく分かる。これだけの魔力、扱うのは常人はもちろん、アトラスの血族であっても片手間に扱えるものではない。

 それを軽々と成してしまうのがアクアという少年なのだが。


「それで?明日の授業で使う魔術装置はどれくらいだ?魔法の種類は?」

「……実技が間を挟んで2時間なので独立性のを2つ。魔法の種類は問わないので、オネガイシマス……」


 あれだけの発言をしておきながらコレなのを自分の事ながら情けなく思いつつ、つい小さくなってユゥリーオは返す。

 アクアは本当に気にしていないのか、軽く了承を返すと、まるで手遊びでもする気安さで球体状の塊を2つ生成してしまった。

 魔術装置。

 アクアが一瞬で軽く生成したそれは、任意のタイミングで決められた手順を踏めば魔力を持たない一般人でさえ魔術を扱う事が出来る便利装置だ。

 使用者側もそれなりの知識とコントロールを要するが製作者側はもっと難しく、そう何個もぽんぽん作りだせるものではないらしい。少なくともこれを生成出来る人間はアトラス家以外では極々少数。アトラスの人間であってもきっちり集中して1つ1つを作る必要があり、片手間で一瞬で複数個、と簡単に作りだしてしまうアクアの魔法は素晴らしい。

 それこそ初代アトラスくらいでなければ出来ない芸当で、アクアは初代の生まれ変わりなのでは、と事情を知る極々少数の人間は1度は思わずにいられなかった。


「ほらよ」

「アリガトウゴザイマス……。相変らず早くて正確で、質もいいし。何より綺麗な青色だよなぁ」


 アクアが気軽に放って寄越した魔術装置2つ、本来ならとんでもなく時間が掛かる貴重品を正確に受け取り、ユゥリーオは半ば惚れ惚れとそれを見つめる。

 魔術装置は生成者の魔力で作られるため、生成者の魔力の質の影響を受け易い。アクアのように強く正確で自分での管理も万全な魔力の持ち主が作った魔術装置は、暴発することもなく、一見しただけで質の良さもすぐに分かる。

 そして魔法の種類の指定がない時はアクアが最も得意とし、彼の魔力の性質に1番近いのだろう水魔法の影響が色濃く出、装置の色も美しい深海を思わせるブルーになるのだ。

 もちろん炎の魔法を必要として装置を都合してもらった時には、装置の色も赤になるし、自然系の魔法であれば緑になる。そのどれも美しい色をしているのだが、ユゥリーオはアクアが生み出す青色が最も好きだった。


「まあオレは水魔法を得意としてるからな。1番魔力の質に近い色だし、1番綺麗に見えるんだろうよ」


 照れ隠しに素っ気無く言い放つアクアを見つめながら。

 アクアがいつものように生成してくれた魔術装置、今のユゥリーオにとって、そしておそらくはアトラス家の頂点に立つに至ってこれからも生命線となるだろうそれを大切に抱えながら。

 ユゥリーオは何度目になるか分からない決意を、改めて胸に刻み込む。


 今はこうして、自分の学校生活1つにせよアクアに頼りきりの日々だ。

 それでもいつか、いつか自分が貰ったものへの感謝を、きちんとアクアに返したい、と。



 そのために今出来る事が、アクアの作った魔術装置を使用して学校での優秀な生徒という立ち位置を守る事、というのは、情けない気もして少し複雑ではあるのだが。

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