再会した二人 ≪2≫
呟いた声に気付き奥村と真琴が驚いたかのように美琴を見る。
十一年ぶりの幼馴染同士の再会。
しかし、真琴はなぜか首を傾げたまま呆けたように美琴を見ている。
「お!転校生か。初日から遅刻ギリギリとはな・・・。お前俺のブラックリスト入りだわ。因みに俺は担任の奥村 司だ。ちゃんと奥村先生って呼ぶこと!!」
奥村がこれは絶対というようにビシッと人差し指を立てる。
が、美琴には奥村の自己紹介など微塵も耳には入ってきてはいなかった。
ただ、唯一の幼馴染との再会に心が弾み喜びにあふれている。
「久しぶりやね真琴!身長伸びたね。前はうちよりちっさかったんに!」
「あー、えー、俺の話聞いてた…?」
奥村は美琴の顔の前でヒラヒラと手を降って見たが、すぐに『ダメだこりゃ』と肩を竦め諦めた。
弾けんばかりの笑顔を浮かべながら面白おかしそうに話す美琴に真琴は笑い返すことはない。
浮かべた表情は困惑だ。
「何、お前ら知り合いなの?」
うまく状況を把握出来ない奥村が問う。
「え、つっちゃん…。俺この子のこと知らない。悪いんだけど、どっかで会ったことある?」
申し訳なさそうにうなじに手を添えながら今度は真琴が問う。
勿論、予想だにしていない反応に美琴は言葉を詰まらす。
それでも必死に思考を巡らせ、久しぶりの再会で茶化しているのだと考えた。
「久しぶりに会ったかと思えば・・・茶かさんでくれる?美琴よ!幼馴染のっ!ちっさい頃真琴の家の隣に住んじょってお父さんの転勤で引っ越したけど…また戻ってこれたんよ?」
ここで想定通りいけば「冗談だって。そんな怒んないでよ。」と笑い飛ばしてくれるはずだった。
だが、そうそう想定通りになることなどあるはずもない。
「ごめん。ほんとに分かんない。」
「え・・・嘘やん、そんなことっちあるん?」
嘘だと言ってほしい。
前のようにまた美琴と呼んで笑ってほしい。
そう願う反面真琴の表情が・声が冗談ではないと、まるであざ笑うかのように思い知らせてくる。
突きつけられる現実に、美琴は立ち尽くすことしか出来ない。
状況と時間を見かねた奥村が教室に行くよう促す。
「取り込み中割り込んですまんが、そろそろ教室に行かねーと。神宮寺も早く戻れ。で、お前らお互いのことはまた今度にでも話せ。岩崎は俺と行くぞ。」
「あっ!…つっちゃん。マジな話、今日は定期検診で…だから部活は…」
「ああ。そっか。わかった。」
真琴は職員室から出る間際、美琴を見るが罪悪感を感じたように表情を曇らせ出て行った。
夕方、部活に精を出す生徒の姿を遠目に美琴はぼんやりをした頭のまま帰路に就く。
教室に着いてからのことはあまり覚えていない。
どう自己紹介したのか、どう周りの生徒や教師と関わったのか、どんな授業内容だったのか。
ただ頭にあったのは『なぜ忘れられてしまったのか』、『真琴に何かあったのか』という疑念と、真琴のたった一言。
―――『今日は定期検診で』―――




