再会した二人 ≪1≫
—現在—
ジリリリリリリリリリ・・・!!!
「美琴ーっ!!いつまで寝てんの!!早く起きなさい!!」
「う~ん・・・あと5分~・・・」
忙しなく家中に鳴り響く目覚まし時計を止めもせず、母親の怒鳴り声にも耳を貸さずに美琴は布団を頭まですっぽり覆いかぶさった。
「起きろっち言いよるやろ!こんがきゃー!!」
「ギャース!!」
ドタンッ
鬼の形相をした母親に、覆いかぶさっていた布団をはがされベッドから転がり落ちた。
そのおかげで目は覚めたが落ちた拍子にぶつけた額がじんじんと痛む。
「痛いやん!何するんよ!!」
「あんたが何回起こしてもおきんのが悪いんやろ!さっさと準備してご飯食べり!遅刻しても知らんよ!・・・まったく、転校初日早々からこの子は・・・。」
頭に手を当てながらはぁとため息をつく母親に美琴はむぅと口を尖らす。
「そんなん言っても、楽しみでなかなか眠れんかったんやもん。仕方ないやんか。折角また真琴と一緒なんに・・・。」
美琴は嬉しそうに顔を綻ばせた。
何気のないたった一言に母親が苦し気に表情を曇らせたなど気付きもせずに。
指定のローファーに足を突っ込んでトントンとつま先を蹴る。
「じゃあ、行ってくるけん。」
「あんた呑気にしてる場合じゃないよ。本当に遅刻するよ。」
「う・・・って本当、怒ったときだけ方言出てくるんどうにかしようや。」
「そんなのほとんど無意識なんだから仕方ないでしょうが。さっさと行きなさい。気を付けてね。」
「うーい。」
『余裕ないのも嫌だから走るか。』
十一年前に父親の転勤で九州に引っ越すことを余儀なくされた。
美琴が引っ越す日、真琴だけ見送りに来なかった。
それでも美琴は何故か悲しい気持ちにはならなかった。
憎らしく思うこともない。
約束があったから。
ほんの口約束に過ぎない。
傍はら見たら「そんなものは不確かでとても信じられるものではない」と厭きれられる様なことだったかもしれない。
しかし美琴にとってそれは十分すぎて疑う余地など全くない程、確かなものだった。
何の風の吹き回しか、年明けたころ転勤が解かれるという話が出たらしくまたこの地に帰省することが出来たのだった。
十一年という月日が過ぎ美琴は綺麗に成長していた。
邪魔だと短く切られていた髪は背中に届く程にまで伸び、艶やかに輝き風に靡く。
大きくクリッとした瞳は夜に輝く星をそのまま取り込んだように澄んでいる。
何一つ昔と変わらない目だ。
明るく活発で好奇心旺盛で、せっかちなのは今も変わらず健在だ。
走って登校しなんとか登校終了時間前5分に着くことが出来た。
『走って来たんにカツカツやったな。まぁ、間に合ったけいいわ。職員室行かな。』
職員室に着いたのはいいものの、美琴は呆然といていた。
『つ・・・着いたはいいけど担任、誰かわからん・・・。』
適当に声を掛けたくても朝は特別忙しいのか、簡単に声を掛けられそうな先生が見つからない。
「せんせー!つっちゃんせんせー!!」
「!?」
背後から突然生徒らしき声が聞こえ美琴は体をはねさせた。
それとほぼ同時に一人の先生が振り返る。
「つっちゃんじゃなくてちゃんと奥村先生って言え。」
呆れたように襟足をボリボリ掻きながら歩み寄ってくる。
「だって奥村 司じゃん。だからつっちゃんせんせ。皆そう呼んでるよ?」
「・・・ったく。んでわざわざ大声で呼んできてどうしたの。」
「あ、そうだった。今日さ腹が頭痛だから部活いけねーのって言おうと思って。」
「おー。わかった~。お大事にな~。・・・っていうとでも思ったか!!完全にサボりじゃねーか!!大人なめてんのか!!っつか日本語くらい真面目に喋ろよ!!」
「だから、サボりじゃなくて腹が「まだ言うのぉ?!」
自分を挟んで繰り広げている会話に呆気にとられながらもんだと美琴は男子生徒の方を振り返った。
一瞬思考が停まり且つ金縛りにあったように身動きが出来なくなった。
同じ学校に転校したのだ。
いつ再会しても可笑しくなどなかった。
しかし、人間という生き物は時にいくら脳内でシュミレーションをしていても実際に事が起こってしまうと、いくら複数のシュミレーションデータがあろうと度忘れしてしまったかのように何も出来なくなってしまうことがあるのだと聞く。
「ま・・こと・・・。」