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夏の音。-ナツノネー  作者: 平凪 空
6/13

再会した二人 ≪1≫

—現在—


ジリリリリリリリリリ・・・!!!


「美琴ーっ!!いつまで寝てんの!!早く起きなさい!!」

「う~ん・・・あと5分~・・・」


(せわ)しなく家中(いえじゅう)に鳴り響く目覚まし時計を止めもせず、母親の怒鳴り声にも耳を貸さずに美琴は布団を頭まですっぽり(おお)いかぶさった。


「起きろっち言いよるやろ!こんがきゃー!!」

「ギャース!!」


ドタンッ


鬼の形相(ぎょうそう)をした母親に、覆いかぶさっていた布団をはがされベッドから転がり落ちた。

そのおかげで目は覚めたが落ちた拍子にぶつけた(ひたい)がじんじんと痛む。


「痛いやん!(なん)するんよ!!」

「あんたが何回起こしてもおきんのが悪いんやろ!さっさと準備してご飯食べり!遅刻しても知らんよ!・・・まったく、転校初日(てんこうしょにち)早々(そうそう)からこの子は・・・。」


頭に手を当てながらはぁとため息をつく母親に美琴はむぅと口を(とが)らす。


「そんなん言っても、楽しみでなかなか(ねむ)れんかったんやもん。仕方ないやんか。折角また真琴と一緒なんに・・・。」


美琴は嬉しそうに顔を(ほころ)ばせた。

何気のないたった一言に母親が苦し気に表情を(くも)らせたなど気付きもせずに。



 指定(してい)のローファーに足を突っ込んでトントンとつま先を蹴る。


「じゃあ、行ってくるけん。」

「あんた呑気(のんき)にしてる場合じゃないよ。本当に遅刻するよ。」

「う・・・って本当、怒ったときだけ方言出てくるんどうにかしようや。」

「そんなのほとんど無意識なんだから仕方ないでしょうが。さっさと行きなさい。気を付けてね。」

「うーい。」


『余裕ないのも嫌だから走るか。』


十一年前に父親の転勤で九州に引っ越すことを余儀(よぎ)なくされた。

美琴が引っ越す日、真琴だけ見送りに来なかった。

それでも美琴は何故か悲しい気持ちにはならなかった。

憎らしく思うこともない。

約束があったから。

ほんの口約束に過ぎない。

傍はら見たら「そんなものは不確かでとても信じられるものではない」と()きれられる様なことだったかもしれない。

しかし美琴にとってそれは十分すぎて疑う余地など全くない程、確かなものだった。

何の風の吹き回しか、年明けたころ転勤が解かれるという話が出たらしくまたこの地に帰省することが出来たのだった。

十一年という月日が過ぎ美琴は綺麗に成長していた。

邪魔だと短く切られていた髪は背中に届く程にまで伸び、(つや)やかに輝き風に(なび)く。

大きくクリッとした瞳は夜に輝く星をそのまま取り込んだように()んでいる。

何一つ昔と変わらない目だ。

明るく活発で好奇心旺盛(こうきしんおうせい)で、せっかちなのは今も変わらず健在(けんざい)だ。


走って登校しなんとか登校終了時間前5分に着くことが出来た。


『走って来たんにカツカツやったな。まぁ、間に合ったけいいわ。職員室行かな。』


職員室に着いたのはいいものの、美琴は呆然(ぼうぜん)といていた。


『つ・・・着いたはいいけど担任、(だれ)かわからん・・・。』


適当に声を掛けたくても朝は特別忙しいのか、簡単に声を掛けられそうな先生が見つからない。


「せんせー!つっちゃんせんせー!!」

「!?」


背後から突然生徒らしき声が聞こえ美琴は体をはねさせた。

それとほぼ同時に一人の先生が振り返る。


「つっちゃんじゃなくてちゃんと奥村先生って言え。」


呆れたように襟足(えりあし)をボリボリ掻きながら歩み寄ってくる。


「だって奥村 司(おくむらつかさ)じゃん。だからつっちゃんせんせ。皆そう呼んでるよ?」

「・・・ったく。んでわざわざ大声で呼んできてどうしたの。」

「あ、そうだった。今日さ(はら)頭痛(ずつう)だから部活いけねーのって言おうと思って。」

「おー。わかった~。お大事にな~。・・・っていうとでも思ったか!!完全にサボりじゃねーか!!大人なめてんのか!!っつか日本語くらい真面目に(しゃべ)ろよ!!」

「だから、サボりじゃなくて腹が「まだ言うのぉ?!」


自分を(はさ)んで繰り広げている会話に呆気にとられながらもんだと美琴は男子生徒の方を振り返った。

一瞬思考が停まり且つ金縛(かなしば)りにあったように身動きが出来なくなった。

同じ学校に転校したのだ。

いつ再会しても可笑(おか)しくなどなかった。

しかし、人間という生き物は時にいくら脳内でシュミレーションをしていても実際に事が起こってしまうと、いくら複数のシュミレーションデータがあろうと度忘れしてしまったかのように何も出来なくなってしまうことがあるのだと聞く。



「ま・・こと・・・。」

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