過去に揺れるナツノネ 《5》
一度、気付いてしまったら、もう止まらないのが、この感情の特徴といえるだろう。
真琴は、なんとか美琴が泣き止む方法はないかと考える。
顔を覗き込む。
くりっとした大きな瞳から流れる雫は、花火や周りの光が反射して光り、まるで星が流れているように見えた。
「なんで・・真琴は泣かないのッ?会えなくなるのに・・・」
涙を流しながら、悔しそうに言う美琴。
「美琴が泣いてるから、僕は泣かないよ。二人とも泣いちゃったら大変でしょ?」
美琴が笑顔になってくれることを願いながら、笑顔で話す。
髪をかき分け、頬を拭う。
「美琴、約束しよう。」
「やくそく・・・?」
「うん。ずっと忘れないよ。だから、美琴も僕のこと忘れないで。それで、大きくなって、大人になったらまた会おう。ね?約束!」
「・・・ぜったい?忘れない?また・・・ッまた会える・・・?」
「うん!だから約束!」
小指を立てて差し出す。
ゆっくり絡まる二人の小指。
「美琴、おまじないしてあげる。」
「おまじない?」
「うん。美琴がいつもの美琴に戻るおまじない。目閉じて?」
眉間に少しだけ皺を寄せて、頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、素直に言うことを聞く美琴。
その瞬間、チュッと音がした。
一瞬だが、唇に何か柔らかいものが当たった。
「真琴・・・今なにしたの?」
「ん?ちゅーしたよ?」
「なぁッ!?」
ここまで気持ちよく、さらりと言われたら、逆に何も言えない。
カーッと一気に顔が赤くなる美琴。
「真琴のバーカ!!」
「美琴、顔赤いよ?」
「う、うるさいっ!!」
「ふふ、いつもの美琴に戻ったね。おまじないが良かったみたい。」
笑顔は照れてしまったため、見れなかったがいつもの美琴に戻ってくれただけでも、真琴にとっては充分だった。
大きく真っ赤な花火が夜空で咲く。
《ゴ来観、誠ニ有難ウゴザイマシタ。以上デ第23回川ヶ浦花火大会ヲ終了致シマス》
「帰ろう。美琴。」
美琴に手を差し出す。
うん、と手を握る美琴。
同じ歩幅で歩き出す。
交わした約束を胸に。
―――風が騒ぎ、風鈴が揺れる。
幾つも音が重なる。
薄暗い青の中、ゆっくり歩き帰る二人を月が見守っているように見えた―――