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夏の音。-ナツノネー  作者: 平凪 空
4/13

過去に揺れるナツノネ 《4》

「美琴、何言ってるの・・・?分かんないよ・・・。会えなくなるって何?」


 真琴は混乱(こんらん)を隠せないでいた。

金槌(かなづち)で頭を殴られたような感覚を覚えながらも、美琴に疑問をぶつける。

耳から流れ込んだ情報は何度も何度も、脳内でリピートされる。

 もし、今、二人が大人だったら理解しあって「じゃあ、さよならだね。」と言いながら、この物語の(まく)を静かに下すのかもしれない。

だが、まだ子どもだ。

本人たちがどんなに「成長した」と言い張っても、世間や大人はそれを許さず「まだまだだ。」と言い返す程の。

保護者がいなければ、自身の身一つでは生きることなど、到底できはしない程、幼く小さい、子どもに過ぎない。

そんな子どもが、目の前で繰り広げられる現実を受け止めるなど、出来るはずもない。

なんで?いつまで?嘘だよね?そんな疑問が、美琴の言葉とともに駆け巡るだけだ。

今も尚、肩を震わせしゃくり声をあげる美琴が、微かにその小さな唇を動かした。


「この前・・・、寝るッときにお・・水飲みたくなったから、・・・一階に行ったの・・。そしたら・・・パパとママの話してる声が聞こえッ・・たから、何ッ話してるのって聞いた・・・の。そしたら・・パパとママ悲しい顔した・・・パパッ・・悪いことしてないのに・・・ごめんなさいしたの・・・ッ。そしたらママがッパパのお仕事する場所が変わるから・・・もう、真琴たちに会えなくなるんだよって、言ったの・・・」


美琴の口から発せられた現実(リアル)

真琴は、全てを理解した。

受け入れがたいが、仕方のないことなのだ、と。

真琴にとっては、何よりも、今この時が辛くて仕方がない。

目の前で、美琴が見られないように俯き、涙を流している、今が。

真琴は、母親から聞いたある一つのことを思い出した。


『おかーさんとおとーさんは、なんでいつもお口とお口をくっつけるの?おとーさんがお仕事行くときもしてる。おいしーの?』

『あら、真琴にもいつもしてるじゃない。』

『え?ぼくお口とお口くっつけたことないよ??』

『ふふ、お口じゃなくてほっぺにしてるでしょ?』

『ちゅー!おかーさんもおとーさんもいつもしてくれるやつだ!おかーさんとおとーさんがしてるのもちゅーなの?』

『そうよ。だけど、とぉ~っても特別なちゅーなの。』

『とくべつ??ぼくにするちゅーと何がちがうの?』

『うーん、そうね~・・・。真琴とお母さんは親子だから、お口とお口のちゅーは出来ないのよ。大好きで愛しくて、ずっと一緒にいたいって思える人とじゃないとしちゃダメなのよ。』

『だいすき?イトシイ・・・ってなに?』

『その人のことが、気になって、気づけばいつの間にか考えてしまってたり、その人が笑ってると、自分も嬉しくなったり、心が温かくなったり。その人が泣いてると、自分も苦しくなったり、辛くなったり、ずっと傍にいたいって思えたり・・・そういうのが、愛しい、好きってことかな。』

『ん~??』

『ふふふ、大丈夫。今は分からなくても、いつかきっと分かる時が来るわ。』


真琴は前に母親が言ったことの意味が、やっと分かった気がした。

きっとこれが『好き』ということなのだと。

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