過去に揺れるナツノネ 《2》
「じゃあ、行ってきます!」
写真を撮り終えて、やっと解放されたといわんばかりに真琴の手をつかみズンズンと歩いて行く美琴。
真琴は、特に抵抗せず、大人しくトテトテと美琴の後をついていく。
「ちょい待ち」
お構いなしといった様子で歩き続ける美琴を父親が止める。
頭をガシッと掴み、美琴の動きを制する。
当然美琴は、突然頭を掴まれたことに怒るが、はいはいと軽くあしらわれただけで終わってしまった。
「さっきも言ったが、初めて二人だけで行くんだ。何があっても絶対に喧嘩だけはするんじゃないぞ。」
いつになく真剣な物言いの父親に初めはふくれっ面をしていた美琴も見つめ返す。
すぐ隣にいる真琴の方を見ると、どうしたの?と言いたげに顔をしかめ、首を傾げ困惑している。
見上げて親を見ると、母親も、真琴の両親も、苦しげな表情をしている。
ここで、真琴と同じ様に、どうしたのかと困惑出来たらどんなに良いだろうか。
しかし、父親の言葉の意味が理解出来た。
・・・いや、理解出来てしまった美琴は、うん、分かったと静かに頷く他になかった。
「いこう。真琴。」
繋いだ手を左右に二回揺らし再び歩き出した二人に母親が声を掛ける。
ただ一言。良い思い出にしなさい、と。
夏祭りの会場についた二人は、いつもは、圧倒的な迫力を感じ興奮する太鼓の音も、心躍る屋台も、全てが少し色褪せて見えた。
真琴は隣にいる美琴を見た。
いつもなら、誰よりも先に駆け出し、太鼓を見て燥いだり、沢山並ぶ屋台を見て親の手を引きながら、あれもこれもと楽しそうに物を強請る美琴だが、今はそれが全くない。
美琴の笑顔が好きな真琴は、何をしたらまた笑顔になってくれるのかと考えてみる。
そして唯一の場所を思いついた。
この日だけにしか見れない二人が大好きな場所だ。
「美琴!風鈴屋台に行こう!!」
今度は、真琴が美琴の手を引いて駆け出す。
美琴は、驚いた顔こそ浮かべたが、抵抗することなく、真琴についていく。
「「わぁ~!!」」
風鈴屋台についた二人は、毎年必ず見る景色に飽きることなく、今年も声を揃えて、その感動を露にする。
この夏祭りには、誇るものが三つある。
一つ目が、体を鍛えた逞しい男たちが、大勢で担ぐ神輿と、同時に響き渡る太鼓の音だ。
大きな神輿と太鼓、そして逞しい男たちの力強い雄叫びは、その場にいる観客を一気に熱くさせ、歓声は辺り一面に轟く。
二つ目が、天候に恵まれここ十年一度も雨も降らず、中止になったことがない一万五千発の花火だ。
毎年必ず大きく真っ赤な花火が、この夏祭りのフィナーレを飾り数え切れない無数の花火は、色鮮やかに鮮明に見た人全員の記憶に強く結びつく。
三つ目が、今二人がいる風鈴屋台だ。
規模は小さいが、数百個と並ぶ風鈴は全て職人の手により作られた。
そのため、二つとして同じ物はない。
風が騒ぎ揺れるときは、その音がいくつも重なり夜にはライトアップされ、各々が光り輝く光景はとても美しい。
その美しさは、神秘的かつ幻想的で見る人を虜にする。
今では、観光・デートスポットとして有名になり、老若男女・カップル・家族問わず沢山の観光客が訪れる。