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夏の音。-ナツノネー  作者: 平凪 空
11/13

また初めから 《1》

「まぁ、真琴に関してはそう言う事だ。今日はもう遅いし、明日に備えて寝なさい。」


 父親の言葉に了解し美琴は自室に戻る。

でも、寝れそうにはない。

なんだか凄く気持ちが忙しい一日だったから。

それでも、ベッドに入り横になる。

目を閉じ、今日を振り返る。


『真琴、背伸びたなぁ。昔はうちの方がちょっと高かったんに。』

『奥村先生は顧問か〜。なんか、真琴の兄ちゃんっち感じする。』


クスッと笑ってしまう。

自分で思いながら妙に納得いったから。

きっと真琴に兄がいたら、あんな人なんだろう。

一つ寝返りをうつ。


『うちだけ覚えてない…か。』

『けど、約束は覚えてる。』


要は、真琴の中で約束を交わしたときの記憶はあるが、相手の顔はモザイクが掛かった様に分からないと言うことだ。


『あー、それはしんどいて〜…』


また涙腺が緩む。

(かす)む視界に舌打ちしながら目を(こす)る。

自分の女々しさに苛立(いらだ)ちつつまた思考回路(しこうかいろ)を働かせる。


『これからどうしようかな〜。』


そう、美琴にとって現在一番重要なこと。


大分(だいぶ)前に見たドラマで消えた記憶に関連性のある物事(ものごと)をしたら、それが刺激になって記憶が戻る話があったけど…。』


「関連性っち言ってもな〜…」


頭を掻きながら(つぶや)く。

関連性を持つ物が無いわけでは無い。

ただ、条件が限られているのだ。

なにしろ、約束を交わしたのはあの夏祭り。

夜空で色鮮やかに咲く花火を見ていた時。


「まだ夏にならんしなぁ〜…」


ため息混じりに弱音が出る。


『そもそも、なんでうち自体を忘れて約束の方だけ覚えちょん!いや原因は聞いたけど!それならいっその事約束忘れられてる方がまだ良かったわ!逆じゃね!?…ちゅーか、関連性あるもん見せたところで10年以上無くったままの記憶が戻る保証も無くね!?』


やり場のない怒りを感じる。

とは言え、こればかりは誰に懇願しても意味を成さない。

どう仕様もない事。

自身の思考をリセットするように頭を左右に振る。


『ぐだぐだ考えててもラチあかんし。取り敢えず明日からはまた真琴との関係を初めからやり直そう。前みたいにまた仲良くなったら夏祭り行けるかも知らんし。ワンチャンそこで記憶戻るかも知らんし。』


うんうんと頷きながら更に身を布団に(もぐ)らせる。

静かに目を閉じ、そのまま眠りにつく―――。



【あっ!神宮寺くん!昨日は変なこと言ってごめんね?】

【あー!昨日の!いやいいよ。逆に俺のほうが、なんか…】

【ううん!うち九州から転校した岩崎美琴!よろしくね!】

【俺、神宮寺真琴!こちらこそ!】

『おっしゃ!出だし順調っ!』

【ところで、昨日変なこと言ってしまったお詫びに、もし神宮寺くんが良ければ放課後モック奢らせてくれん?】

【あー、ごめん。俺彼女いるんだよね〜】

【は…】



「はぁーーーーーーーーーー!?」

「朝っぱらからうるさい!起きたんならさっさとご飯食べて支度しなさい!」


部屋のドアをバンッと勢い良く開け怒鳴(どな)る母親を見て夢を見ていたことに気づく。

ドアを閉め立ち去る母親を見届けて、ため息が出る。


幸先不安(さいさきふあん)やわ〜…。」


あれはエグいわなんてブツブツ呟きながら、気怠げに支度を始める。

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