また初めから 《1》
「まぁ、真琴に関してはそう言う事だ。今日はもう遅いし、明日に備えて寝なさい。」
父親の言葉に了解し美琴は自室に戻る。
でも、寝れそうにはない。
なんだか凄く気持ちが忙しい一日だったから。
それでも、ベッドに入り横になる。
目を閉じ、今日を振り返る。
『真琴、背伸びたなぁ。昔はうちの方がちょっと高かったんに。』
『奥村先生は顧問か〜。なんか、真琴の兄ちゃんっち感じする。』
クスッと笑ってしまう。
自分で思いながら妙に納得いったから。
きっと真琴に兄がいたら、あんな人なんだろう。
一つ寝返りをうつ。
『うちだけ覚えてない…か。』
『けど、約束は覚えてる。』
要は、真琴の中で約束を交わしたときの記憶はあるが、相手の顔はモザイクが掛かった様に分からないと言うことだ。
『あー、それはしんどいて〜…』
また涙腺が緩む。
霞む視界に舌打ちしながら目を擦る。
自分の女々しさに苛立ちつつまた思考回路を働かせる。
『これからどうしようかな〜。』
そう、美琴にとって現在一番重要なこと。
『大分前に見たドラマで消えた記憶に関連性のある物事をしたら、それが刺激になって記憶が戻る話があったけど…。』
「関連性っち言ってもな〜…」
頭を掻きながら呟く。
関連性を持つ物が無いわけでは無い。
ただ、条件が限られているのだ。
なにしろ、約束を交わしたのはあの夏祭り。
夜空で色鮮やかに咲く花火を見ていた時。
「まだ夏にならんしなぁ〜…」
ため息混じりに弱音が出る。
『そもそも、なんでうち自体を忘れて約束の方だけ覚えちょん!いや原因は聞いたけど!それならいっその事約束忘れられてる方がまだ良かったわ!逆じゃね!?…ちゅーか、関連性あるもん見せたところで10年以上無くったままの記憶が戻る保証も無くね!?』
やり場のない怒りを感じる。
とは言え、こればかりは誰に懇願しても意味を成さない。
どう仕様もない事。
自身の思考をリセットするように頭を左右に振る。
『ぐだぐだ考えててもラチあかんし。取り敢えず明日からはまた真琴との関係を初めからやり直そう。前みたいにまた仲良くなったら夏祭り行けるかも知らんし。ワンチャンそこで記憶戻るかも知らんし。』
うんうんと頷きながら更に身を布団に潜らせる。
静かに目を閉じ、そのまま眠りにつく―――。
【あっ!神宮寺くん!昨日は変なこと言ってごめんね?】
【あー!昨日の!いやいいよ。逆に俺のほうが、なんか…】
【ううん!うち九州から転校した岩崎美琴!よろしくね!】
【俺、神宮寺真琴!こちらこそ!】
『おっしゃ!出だし順調っ!』
【ところで、昨日変なこと言ってしまったお詫びに、もし神宮寺くんが良ければ放課後モック奢らせてくれん?】
【あー、ごめん。俺彼女いるんだよね〜】
【は…】
「はぁーーーーーーーーーー!?」
「朝っぱらからうるさい!起きたんならさっさとご飯食べて支度しなさい!」
部屋のドアをバンッと勢い良く開け怒鳴る母親を見て夢を見ていたことに気づく。
ドアを閉め立ち去る母親を見届けて、ため息が出る。
「幸先不安やわ〜…。」
あれはエグいわなんてブツブツ呟きながら、気怠げに支度を始める。




