第七羽 届いたあなたの声
そろそろ期末テストだ。
勉強にやる気を出したことはないが、ノートよく読みさえすれば平均点は取れる。先生に話したら、もったいないと嘆いていた。
紅茶を飲みながら、気だるくページを進める。
(コーヒーは駄目なんだ)
怖い。忘れろ。
――――それが望みかい?
(違う)
わたしは誰と会話をしているんだろう。
窓から射す陽光が琥珀な様な気がして、彼女のことを信じてみる気になった。
喫茶店に入ると賛美歌が空気を包んだ。
気分が重い。まるで自分が悪魔になった気分だ。
「苦しいんですね」
琥珀の声だ。
「恋でもしましたか」
ステンドグラスから浴びる陽で、琥珀の姿が鮮明になる。
「恋は人を苦しくします。愛する者がいるだけで幸せなのに、愛されない事に絶望して死にたくなってしまうような。
そんな辛いことがありましたか」
息を呑んで、ちあきは琥珀を見る。
陽の光ではない。彼女の背に、黄金の翼が見える。
幻は一瞬で、現実はすぐそこにある。
ちあきは微笑んでから、自分が泣いていることに気づく。
「十字架はあなたを傷つけません。あなたは父の子です。あなたの魂を、あるべき場所へ帰しましょう」
「琥珀ちゃんは、お店、休んでいいの?」
「些細な事ですから」
言外に気にするなと言われて、苦笑する。年下の子に慰められている自分が滑稽だった。
「琥珀の勘ならここです」
「ここで何かあるの?」
今いる場所は歩道の前で、交差点だ。車道をまたぐように陸橋がある。
風が強い。
「先輩」
琥珀が小声で呼び、目で陸橋の上を指す。
(瑠璃と……いく先輩?)
先輩が瑠璃に何か渡そうとした時、突風が吹いた。
「!」
こちらに飛んできたので、反射神経の良いちあきがキャッチする。
何だろう。
(これ――――!)
二人が陸橋から降りて来た。
(わたしがいく先輩の下駄箱に入れた手紙)
いく先輩が瑠璃に見せていたんだ!
わき目も振らず、ちあきは逃げ出した。
「待ってください!」
「ちあき!」
琥珀に呼ばれても、瑠璃に呼ばれても、立ち止まらない。
「ちあきちゃん!」
はっきり届いた。出なくなったはずの。
走り止み、ゆっくり振り向く。
出なくなったはずの、いく先輩の声。