第六羽 重なるパーツ
翌日は祝日。
部活のメンバーでディズニーランドへ遊びに来た。
『もう少し調査中です』と言った琥珀は、ちあきを観察する気満々だ。興味を持ってくれるのは嬉しいが、違う形でそうして欲しい。
「いく先輩おはよう」
先輩が嬉しそうに会釈してくれて、ちあきの心は蜂蜜のようにとろけそうになる。最近、覚えたらしい手話でおはようと告げる先輩に、ちあきも会釈する。
二、三分後。遅れてきた雅も来て全員集合となる。
「やっぱ、最初はカリブの海賊よねー」
入り口近い、定番のアトラクションは、ちあきも好きだ。そろそろ順番だ。
乗り込んでシートベルトが締められる。
軽快な音楽と振動を楽しむ。景色も面白く、水が流れる音と一緒に、骸骨のしわがれた声が聞こえる。
『この先の入り江には、恐ろしい海賊たちが手薬煉引いて……』
しわがれた声。
急に動機が荒れた。怖いアトラクションではないのに。
何に動揺している?
(せっかくだから、楽しまなきゃ)
思っても、しゃがれた声が頭から離れない。
思い出の底、誰かの声がよみがえる。
瑠璃の手がちあきの手を握った。暗くなりかけたちあきの心を、引っ張ってくれた。
けれど、瑠璃の手が熱いものに触れたかのように、すぐに引っ込んだ。心なしか、なきそうな顔に見えた。
気になったが、すぐに頭痛でそれどころじゃなくなる。
――――どうして私じゃなくて、貴方なのっ!
どこかで聞いた、記憶もしくは夢。
(不公平だな)
何故そう思ったのかは分からない。
(恋は不公平だ)
皆でアイスキャンディーを食べながら、涼をとる。木陰は少し涼しく、ちあきの心も静かになった。
「いく先輩、次ぎ行きたいところありますか?……スペースマウンテンですね」
いく先輩がホワイトボードを見せて頷く。
今回は空いているほうで、二十分しか待たなかった。
暗闇の中、縦横無尽に疾走する。
――――そうだ。あの日もこんな星空だったね。
老人の声が頭に響く。
軽い吐き気を覚え、視線を感じた。琥珀の目だ。
瑠璃は前のシートで、隣が琥珀だった。
(真っ暗なのに、どうしてこんなにはっきり見えるんだろう)
薄ら寒むいものをかんじて、視線を逸らした。
「あー楽しかったぁ」
パレードが終わって、雅が大きく伸びをした。
琥珀に向き直る。
「で、何か分かった?」
何か、とはちあきの事だろう。
「カリブの海賊と、スペースマウンテンが鍵みたいですね」
けろりと返事をする。
買ったジュースを飲み、ちあきを見て
「ちあき先輩の気配が一番、悪魔の気配と重なりました」
すーと目を細める。
「何か心当たりは?」
馬鹿馬鹿しい気持ちと、本気にしようという気持ちが半々。
でも、遊びと言ったも同然な琥珀からは、善意を感じても、不思議と面白がる気持ちはないように感じる。
むしろ雅のほうが興味本位な気がした。
瑠璃のほうは険しすぎる顔で、いく先輩の顔は暗い。
(怒っているのかな)
気にしてないように振舞ったほうがいいかもしれない。
「カリブの海賊では、声が気になったよ」
「あの陽気な声ですか? 先輩」
「ううん。お年寄りみたいにしわがれた声のほう」
「他には?」
「スペースマウンテンの星とか」
うんと唸ってから笑顔に切り替わる。
「宿題にさせてください」
それを最後に、琥珀と別れた。




