第五羽 ロールシャッハ
店内の客はちあき達だけだ。
「この店の裏を見せますね」と言って、カウンタターをまわった琥珀が、隅の壁を押す。
線が浮き上がり、次に奥行きが現れる。
隠し扉だ。
少し迷ったが、雅がさっさとついて行くので、仕方なくちあきも追いかけた。後ろから瑠璃の溜息が届く。
鉄製の螺旋階段を下りた部屋は、案外普通だった。木の壁に、床には黄色のカーペットが敷いてある。中央に円い机が置いてあって、ソファーがそれを囲み、隅っこにはハムスターのケージが置いてある。
「座ってください」
言われるがまま、ソファーに座る。全てが沈み込むような柔らかさだ。
「ロールシャッハはご存知ですか」
普段より静かな口調と、理知のともった眼差しは、クリニックの先生に似ていると思った。
「やったことあるけど」
意味のない左右対称の絵を見、何を連想すかを答えると言う心理テストだったはずだ。
「では話は早いですね」と、本当にロールシャッハを机に広げた。
「待ちなさい。貴方は精神科医ではないでしょう。
悪魔祓いには専門家の事前診察と、司教の許可が必要なはずよ」
「お詳しいですね。瑠璃先輩」
琥珀は特に臆した様子を見せない。
「趣味なんです。琥珀の悪魔祓いは。
そのうち本物になるけど、必要とされていないから信用も少ない。影響も少なくなると思う。
ま。軽いのりでお願いします」
(遊びって事?)
断り続けるのも大変そうなので、ちあきは素直にロールシャッハに目を向ける。
――――先輩からは悪魔のにおいがします。
胸の奥が鈍い痛みを覚えている。
右手に温かいものを感じて見ると、瑠璃の白い手が置かれていた。心配そうな顔をしている。
自然と心がほどけて、ロールシャッハを見る。
「ロバ」
たいして悩まずに答えた。
「こちらは?」
新しく別のロールシャッハを見せる。
左手首に視えない何かが巻きついた。鬼海先生の授業で見た幻覚が、似ても似つかないロールシャッハの絵と重なる。
心のブレーカーが落ちそうになった時、金色の光が見えた。
金に輝く金色の十字架のペンダントが揺れている。
「落ち着きませんか? 何か見たんですね。国語の授業に」
「どう……し、て」
ペンダントを持つ琥珀の霊力は本物なのか?
ちあき以外、知らないはずなのに。
彼女の深い瞳に引きずられそうになる。
「授業中に何があったの、ちあ?」
雅は興味津々といった様子で質問する。相談するべきか、少し悩む。
「実は……」