第四羽 電波な子はエクソシスト
新年おめでとうございます。
「びっくりしたねー」
下校の鐘が鳴り響く。
いく先輩は少し先に帰った。塾があるらしい。
傘を取る時、間に紙が挟まっている事に気づく。手紙のようだ。何故だか、友達に簡単に見せてはいけない気がして、ちあきは素早くスカートのポッケットに素早くしまった。
「確かに電波系ね。
ちあき、あまり深入りしないように」
「えー。楽しそうじゃん。行ってみようよ、その喫茶店。
ちあきの好きな紅茶も売っているらしいし」
「ええと、紅茶屋さんはいつもの所があるし……それに、どうして教会じゃなくて喫茶店なんだろう」
「そういえば、そうね。
あ」
「あ」
曲がり角を曲がると、通いの紅茶屋がつぶれていた。
「いらっしゃーい!」
聞き覚えのある声を聞いて、琥珀の姿を認めた。
店内の壁はライラック色で、落ち着いてくつろげる雰囲気が漂っている。流れている曲はシューベルトだ。
ベージュの制服を着た琥珀が、オーダーを取りに来た。軽く化粧をしていて、さっきより大人っぽい。
定員は三人ほどで、ネームプレートが洒落ている。
「琥珀ちゃん、お勧めは?」
「そうですね、このベトナムコーヒー、お勧めし」
コーヒー。
「駄目っ!」
コーヒーは駄目だ。呪文のように心に渦巻く。
他の皆からの視線を感じてから、自分に驚く。
(わたし、どうしたの……?)
悪寒がひどい。
「ご、ごめん。アッサムで」
気遣うような無言の後。
「あたしはライムジュース」
「私は、ジンジャーエール」
それぞれ会計を済ませ、カウンターに座る。
「ちょっと、お手洗いに行ってくるね」
恥ずかしかった。逃げるように個室に入る。
徐々に落ち着きを戻すと、手紙のことを思い出した。ポケットから取り出して、封を開ける。
「!」
『いくは ちあきの敵だ』
たったの一文だが、ちあきは破り捨てた。
震えた字だった。
(もしかして)
わたしと同じように、利き手と反対の手で書いたの?
(わたしがいく先輩の下駄箱に入れた、手紙みたいに)
わたしの手紙を、違う誰かが読んだりしたの?
同じ文芸部だから、自然な字を見せればバレてしまうかもしれなかった。
手も心も震えてきた。
(――――いったい誰が)
隣の個室からの音で、我にかえる。手を洗い、そ知らぬ顔で外へ出た。
アッサムにミルクを溶かし、人心地つく。芳醇な香りで、こくのある濃厚な味だ。
「どうです?」
琥珀が目を細め、カウンター越しに訊く。
「美味しいよ」
「効きました?」
「え?」
琥珀の顔がさらに迫る。
(けっこう胸が大きい)
などと感想を抱いた以外は、ただ美味しい紅茶という感想だけ。
(ちょっと、ずれたな)と自覚する。
「それ。聖水入りなんです」
「……その話、本気なんだ」
大真面目に頷かれた。これは困ったことになったな。
「最近、変なことは?」
「琥珀ちゃんが、変」
彼女はめげない。慈しみの笑顔で続ける。
「でも、瑠璃先輩は心配していた。それも嘘?」
汚いやり方だ。これを否定したら、瑠璃の気遣いも否定する事になる。
「ニルギリを二00グラムください」
会話を打ち切る。
店外に出ようとした、その時。雷鳴が轟き、雨が激しく叩き始めた。
足止めを食らった。傘は持っているが、この暴風では意味を成さないだろう。
諦めの境地で、ちあきは席に戻った。