第三羽 幸福な部
部員は五人で、いく先輩にちあき。それと瑠璃と雅に、今日は転校生が来るはずだ。
学年は一つ下で、どんな子だろうかとわくわくする。
今日は特別な日だから。
そろそろかな? と時計を見上げると、外から足音が聞こえた。扉が開き、風が吹き込む。
慌てて原稿用紙を押さえた。
「はじめまして! 水原 琥珀です。よろしくお願いします!」
瑠璃と雅の間に、小柄な女の子が立っている。元気で明るそうな子だ。
「あだ名、ラッコでいいー?」
「う~ん」
琥珀がちょっと困った顔になる。
「じゃ。何がいい?」
「では、先輩。そのまま琥珀と呼んでください」
琥珀ははきはきと答える。
ちあきはガスレンジで温めた湯で、紅茶を淹れた。皆へ均等に配る。
「美味しいです! 先輩」
先輩と呼ばれるのがくすぐったくて、ちあきは笑う。
そうだ。自分は笑っていい。許されているんだ。
何かが記憶の穴をふさいでいる。そんな気がした。
「先輩じゃなくて、ちあきでいいよ」
「はい。ちあき先輩!」
苦笑してお茶を飲む。
うん。美味しい。
顔の向きはそのまま、目だけ動かして先輩を盗み見る。猫舌らしく、念入りに冷ましている。紅茶の香りを楽しんでいるみたいで、心が柔らかく解けていく。
今度の紅茶はなんにしよう。
ダージリンは充分楽しんだから、次はニルギリにしてみようか。濃い橙色の、すっきりとした香りと風味を思い出す。
(よし。そうしよう)
帰りに紅茶屋に寄ることを決めて、視線を原稿用紙に寄せる。
いく先輩がホワイトボートにマジックを走らせる。
今日のお題は「悪魔」だ。
ちりりと胸が痛んで、ちあきは顔をしかめた。
「大丈夫? ちあき」
瑠璃はちあきの体調に敏感だ。気づかないことのほうが少ない。
たぶん、先月のあの事を────。
「うん。平気」
強張った顔のまま、ありがとうと言う。
不快感はしばらくすると納まり、筆をとった。
「琥珀ちゃんは、小学校のときは何の部活だったの?」
ちあきが尋ねると
「バトミントン部です!」
笑顔で答えてくれた。
「ふーん。何で文芸部に?」
雅が辞書を引きながら会話をつなげる。
「ちあき先輩がいるから」
微妙な空気が流れた。気まずいが、嫌な気持ちにはならなかった。
いく先輩は目を瞠って、雅は面白がり、瑠璃は冷めた瞳をしている。
「先輩。好きな人いるでしょう? 力になります。神は強いのです」
勘違いした自分が恥ずかしかったが、これは宗教の勧誘なのだろうか。
答えを考えあぐねている内に、話は加速する。
「琥珀はエクソシストなんです!」
「先輩からは悪魔のにおいがします」