第二羽 お前の罪を知っている
休み時間に勉強を済ませ、問題なく小テストを終えた。
国語の鬼海先生はかわったところがあって、今日も雑学を語っている。
蝉の声が聞こえる。
「小さな馬かロバの姿をしていて……望みを叶えるまで……と、熱弁をふるっている。
そんな時、手首に違和感があって見やる。
(!)
赤い傷跡で『お前の罪を知っている』とある。
傷は瞬きの間で消えた。
(まだ本調子じゃないのかな)
ちあきは最近までクリニックに通っていた事がある。
首を小さく振って、授業に耳を傾けた。
放課後、利き手と反対の手で書いた手紙を、とある子の下駄箱に入れた。読める程度には綺麗だ。
無論、誰もいないのを確認して。
雨はやんでいる。
その後、外履きに履き替え、校庭のプレハブの部室に入る。
扇風機にパイプ椅子。少し大きい机があって、文芸部室は狭い。
「いく先輩、こんにちは」
共学と違い、ここの生徒は大胆だ。パイプ椅子に先輩は体育座りをして、下着が見えそうである。
緊張気味に声をかけると、微かな笑顔を見せてくれて、ぽーとなる。
柔らかそうな茶色い髪と、澄んだ黒目が素敵だった。
いく先輩はのどの怪我で声が出せない。先月の出来事はちあきにとって、辛い事だった。
辛すぎて、死にたかった。
本人が一番辛いはずで、なのにいく先輩は泣かなかった。
あの日、血まみれのちあきを引き止めてくれた人がいたはずだ。
自分は何かを忘れている。
冷たいものが心に血の匂いを寄せてきて、ちあきは必死にそれを振り払った。
そう、今は忘れていていい。
だって、約束したから――――。