ユィン
【ユィン】
ユィンが放った光の飛礫を避けようとしたイディオタに、光の飛礫から放電された雷が触手を伸ばして触れた瞬間、絶叫と共にイディオタの全身が痙攣し、地面に転がり崩れた。
「ぬおおおおっ!」
(老師に一泡吹かせてやったぞ! ははははは)
ユィンはイディオタの悶絶する様を見て、心の中で笑い転げた。
イディオタは立ち上がって服の埃をはたきながら、口を開いた。
「ユィンよ、なかなかやりよるのぅ。さすがは儂が認めた男じゃ」
イディオタの言葉に、ユィンは頭を下げて礼をした。
(もう一泡吹かせてやる!)
ユィンはそう思いながら、ことさら慇懃に返事をした。
「まだまだ……未熟者ゆえ、ご指導……をお願い致します」
ユィンはそう言うと、さらに十数個の石の飛礫を造りだし、屈折鏡の形をした雷の固まりに放り込んだ。
(喰らえ!)
ユィンが光の飛礫をイディオタに放った時、イディオタがその手に持つ宝剣に闘気を込め、大地へと放った。
(ちっ、目眩ましか!)
イディオタの放った闘気は大地を割り土埃を大量に巻き上げ、周辺の視界を煙幕の様に塞いだ。
ユィンは感覚を研ぎすまして辺りの気配を伺いながら、光の飛礫を連続で放った。
(幾つか手応えを感じたが……)
ユィンは焦らず、辺りを警戒しながら土埃が収まるのを待った。そして、土埃の煙幕が晴れた時、後方に退がっていたイディオタを発見した。イディオタの前方には小さな黒い球の様な物が浮いていた。
(あれは……?)
その黒い球はゆっくりとユィンへ向かって動き出した。
(老師の新たな術か!?)
ユィンはその球を破壊しようと、幾つもの光の飛礫を小さな黒い球に向かって放った。光の飛礫は狙い違わず小さな黒い球に命中したが、全て音も無く吸い込まれた。
(当たったのか……?)
変化なくゆっくり前進を続ける黒い球に向かって、ユィンはさらに光の飛礫を連射した。しかし、またもすべての光りの飛礫が音も無く吸い込まれた様だった。
(目眩ましか? この隙に老師が来るのか!?)
ユィンはそう警戒しイディオタを見たが、後方より微動だにする様子はなかった。
ユィンはイディオタの狙いが分からず、怪訝に思いながらも黒い球に注意を向けた時、僅かだったが何か違和感を覚えた。その違和感を凶と判断したユィンは、印を結び、新たな呪文を詠唱した。
(まずはあの球を封じるか)
狭い範囲でしか効かないがその分強力な結界術を完成させると、ゆっくりと前進を続ける黒い球に向かって放った。
放たれた結界術が黒い球を包み込み封印したと思った瞬間、結界術は消滅し、黒い球は何事もなかったかの様に前進を続けていた。しかも、その速度は少しずつだが加速している様であった。
(くそっ!)
焦ったユィンは、闇雲に光の飛礫を黒い球に向かって撃ち続けたが、黒い球を打ち砕く事も、ましてやその前進を阻む事も出来なかった。そして、黒い球がかなり接近した時、初めてイディオタの狙いが分かった。
(しまった!)
最初小さかった黒い球は、今はかなりの大きさに膨らんでいた。それに気づいたユィンは、屈折鏡の形をした雷の塊をも投げ捨てて逃げ出そうとしたが、時既に遅かった。
黒い球は一瞬弾けたかと思うと、前進をやめ、強力な重力を発して周囲の物を吸い寄せ始めた。
12月22日まで、毎日21時更新を致します。
23~26日まではお休みして、27日より三章がスタートします!!
宜しくお願い致します^-^




