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戦士の宴  作者: 高橋 連
二章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之弐」
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イディオタ

【イディオタ】

 

 イディオタとの距離を詰めるのを諦めたのか、その場で魔法陣を描き出したユィンを見て、〈アルファ〉がイディオタに尋ねた。

(小僧の奴、自分の術は潰されるわ、お前の術は潰せないわで、自棄になったか?)

 〈アルファ〉の言葉にイディオタが答えた。

(自棄というより、あの雷球を避けて接近戦に持ち込むのを無理と悟ったのじゃろう。ならば一か八か、これ見よがしに術を唱え、潰しに来る儂を迎え撃つ気なのかもしれぬな……)

(ならばどうする……?)

(雷球を叩きつけて、詠唱を潰してやるわい)

 イディオタの言葉に、〈アルファ〉がさらに尋ねた。

(もし小僧が電撃に耐えて術を発動させた時はどうする?)

(その時はユィンの術のお手並み拝見じゃ。しかし、この雷球を数個まとめてぶつけてやれば、その衝撃で悶絶まちがいなしじゃ!)

 イディオタはそう言うと、幾つかの小さな雷球を、魔法陣を描きながら呪文を唱えようとしているユィンめがけて一気に叩き込んだ。

 ユィンは小さな雷球がその身に襲い迫った瞬間、書き上げた魔法陣に両腕の骨の刃を突き刺して、全身に流れた凄まじい電撃を全て魔法陣へと注ぎ込んだ。それと同時に術式に魔力を流し込み、イディオタが潰す間も与えずに一気に呪文を完成させた。

(小僧め、やるな! イディオタよ、お前は優秀な弟子をもって幸せだな)

 〈アルファ〉の言葉に、イディオタは悔しそうに言葉を返した。

(ぐぬぬぬ! 儂の術を利用するとは……くそ!)

(お前は本当に器が小さいなぁ……。弟子が素晴らしい術を見せて、嬉しいとは思わないのか?)

 〈アルファ〉の言葉の通り、ユィンが完成させた術の威力は凄まじそうであった。

 ユィンの目の前に具現化した雷の塊は、楕円形をした屈折鏡の様な形をしており、その形成練度はかなり高そうであった。

しかし、その形成練度とは裏腹に、雷が走る音を響かせながら凄まじい放電を繰り返していた。それだけで、その威力が尋常ならざるものである事が伺い知れた。

(ユィンの魔力だけでは、あれ程の物は造れぬわい! 儂の電撃を使ったからこそできたのじゃ!)

 子供の様に拗ねるイディオタに、〈アルファ〉の怒号が轟いた。

(おい! 馬鹿な事ばかり言うのはよせ! 小僧が何か仕掛け始めたぞ!)

 ユィンは魔力を集中すると、足下の地面から幾つもの石の飛礫が浮き上がり、すっと目の前の楕円形をした屈折鏡の様な雷の塊に吸い込まれた。その瞬間、その石の飛礫は雷を纏い、輝く光の飛礫となって高速で発射された。

「うお!」

 イディオタが驚きの言葉をあげながらも、魔力の剣のうちの一本を展開させてその光の飛礫を防いだ。だが、光の飛礫は、魔力の剣を易々と貫き破壊した。

(受けるな! 避けろ!!)

 〈アルファ〉がイディオタに叫んだ。

 イディオタは地に転がる様にして光の弾丸からその身を避けた。

(凄まじい貫通力だな)

(ああ。じゃが〈イオタ〉の剣であれば砕けはすまい。あの程度の速さであれば、〈イオタ〉の剣で弾きながらユィンの懐に潜り込めるわい!)

 イディオタがそう言って〈イオタ〉の剣を握りしめたとき、またも光の飛礫が飛来した。

 イディオタはそれを見切ると、横に移動して避けた。その時、光の飛礫から放電された雷の触手が伸び、イディオタの体に触れた。

「ぬおおおおっ!」

 イディオタは全身を駆け巡った雷撃のあまりの威力の為に、絶叫して大地に転がった。

(糞餓鬼め! またも儂の術を真似やがって!)

(師の術を真似、それを更に改良し高めたのだ。誉めてやれ)

(ぶっ殺してやるわい!)

 電撃を受けて怒り心頭のイディオタに、〈アルファ〉は言葉を変えて言い直した。

(いや、さすがお前の弟子だ。師が優れていると弟子の成長も速いな。誉めてやったらどうだ?)

 自分が誉められた途端、イディオタは態度を変えた。

(そうじゃろ、そうじゃろ! 儂の指導のおかげじゃな。うむ、ユィンもなかなかやりよるわい)

 イディオタはそういうと、立ち上がって服の埃をはたきながら、ユィンに声をかけた。

「ユィンよ、なかなかやりよるのぅ。さすがは儂が認めた男じゃ」

 イディオタの言葉に、ユィンは頭を下げて礼をしながら、返事をした。

「まだまだ……未熟者ゆえ、ご指導……をお願い致します」

 ユィンはそう言うと、さらに無数の石の飛礫を造りだし、屈折鏡の形をした雷の固まりに放り込んだ。

(げ! また来よったわい!)

 十数個の光の飛礫が、イディオタに向かって放たれた。しかも、それらは放電し、雷の触手を伸ばしながら飛来した。

(調子にのりおって! 可愛くない弟子じゃ!)

 ぶつぶつ言うイディオタに、〈アルファ〉が尋ねた。

(どうする? 電撃を喰らいながら〈イオタ〉の剣で弾いて近づき、あの屈折鏡の様な雷の固まりを叩き壊すか?)

 イディオタは魔力の剣を重ねて盾にしながら、〈アルファ〉に答えた。

(あの電撃を喰らうのはもうまっぴらじゃ! 老体には堪えるわい。あれで終わらせる!)

(あれか……。ならば先に結界だな)

 〈アルファ〉の言葉にイディオタは頷くと、〈イオタ〉の剣に巨大な闘気を込めて大地に向かって放った。

 放たれた闘気は大地を割り、その剣風は盛大な土埃を巻き上げて辺りを包み込んだ。

 イディオタはその土埃の煙幕を利用して後方に退がると、魔力の剣に殺気を纏わせて動かし、ユィンの注意を引きつけながら急いで結界の術を完成させた。そして、更に巨大な魔法陣を大地に描きながら、長大な呪文を詠唱し始めた。

(おい! 魔力の剣が全て砕かれたぞ! 詠唱はまだか?)

(〈アルファ〉、お前も詠唱補助にまわれ!)

 イディオタの言葉に、〈アルファ〉が怒鳴りかえした。

(馬鹿を言うな! 俺が制御に集中しなければあの術はつかえんだろうが)

 イディオタは子供の様な笑みを浮かべると、またも自慢げに話し始めた。

(ふふん。すでに術式を改良して、あの術は完全に安定させたわい!)

 この言葉に、〈アルファ〉は珍しくイディオタを誉めた。

(あの術を完全に安定させたのか! やはりお前は天才だな!)

(いやいや……)

 何か言いかけたイディオタに向かって、〈アルファ〉の鋭い声が制止をかけた。

(調子には乗るなよ)

 イディオタは泣きそうな顔をしながら、それ以上は口にせず呪文の詠唱を続けた。そして、土埃の煙幕が晴れた時、イディオタの前方に小さな黒い球の様なものが浮かんでいた。

(完全覚醒したユィンの相手は疲れるわい。これで終わりじゃ)

 イディオタがそう言うと、その黒い球はユィンに向かってゆっくりと動き始めた。


12月22日まで、毎日21時更新を致します。

23~26日まではお休みして、27日より三章がスタートします!!

宜しくお願い致します^-^

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