ユィン
【ユィン】
ユィンはその眼に魔力を集中させて、イディオタの周囲の具現化しはじめた小さな雷球を見ると、何か力の流れの様なものが薄っすらとだが見えた。
(これが魔力の流れか! これを断ち切ればあの雷球に魔力が流れず、消滅すると言う事だな……)
ユィンは両腕の骨の刃に魔力と闘気を混ぜ合わせたものを注ぎ込むと、全力で駆けながらイディオタの周囲の小さな雷球に流れ込む力の流れに向かって腕から骨の刃を狙い飛ばし放った。
放った両腕の骨の刃は、楕円を描きながらイディオタの周囲に具現化し始めていた幾つもの小さな雷球へ繋がる力の流れを全て断ち切った。
(老師の術を潰したぞ!)
ユィンがそう思った時、イディオタの周囲に具現化し始めていた小さな雷球は完全に具現化し、イディオタが手に持つ〈イオタ〉の剣をユィンへ向けると、凄まじい速度でユィンめがけて飛んできた。
「ば、馬鹿な!?」
驚くユィンに、イディオタの笑い声が聞こえてきた。
「はっはっはっはっは! 魔力の流れを晒すのはお主の様な初心者だけじゃよ。儂の様な高位の魔導師ともなれば、術を潰されぬ様に魔力の流れは隠蔽しておるわい! 水の巨人の核も、隠蔽してはじめは見つけられなんだであろうが。もう忘れたのか?」
(意地悪爺め! 絶対に一泡吹かせてやる!)
そう思いながらユィンはイディオタを睨みつけた。
「おお、怖い眼をしよるわい! 儂を睨んでおると、雷球をまた喰らうぞ」
ユィンが襲い来る小さな雷球をかわそうとした時、小さな雷球はその形を崩し、幾つもの触手を伸ばす様に周囲に放電をしはじめた。
(命中性を高める為に、形成の練度を下げたか。ならば威力はさしてあるまい。あの雷球を避けずにまっすぐ飛び込み、雷球の電撃に耐えて老師の眼前に潜り込んでやる!)
ユィンはそう考えると、襲い来る電撃に抗する為に全身の闘気を高めると、飛び来る小さな雷球を避けずに、逆に真っ直ぐにイディオタを目指して走り始めた。
(形成して固めておらぬ雷球の電撃など知れている! そんな物で俺の動きは止まらぬぞ!)
小さな雷球の触手がユィンの体に触れた瞬間、体に凄まじい衝撃が走り、それに耐えるどころか、地面に倒れ、もがき苦しんだ。
「グオオオォォォォォ!」
「無茶をしよるわい……。儂が造りだした雷球じゃぞ。いかに小さいとは言え、その威力は並の雷球とは比べ物にならぬわい」
(ぐぅ、形成しておらぬ雷球が……これ程の威力のわけがない。何か仕掛けがあるな……)
ユィンが電撃の衝撃から回復につとめながら思案していると、またもイディオタが周囲に小さな雷球を造り始めた。
「ユィン、敵の術を見極めぬうちに突っ込むなと言ったはずじゃ。まずはよく見て術を見極めろ」
ユィンがイディオタの言葉通りにその雷球の術式と具現化の様子を注意深く見ていると、イディオタは地属性と雷属性の二つの術式を用いているのがわかった。
更には、その術式に魔力が流れ具現化する様を見ると、小さな石の飛礫が大地よりわき起こり、それに雷を纏わせて雷球が形成されているのが見えた。
(そうか……。石の飛礫を核にしている為に、形成錬度を崩してもあれ程の威力の電撃を放っていたのか……)
「ユィン、戦いの最中にゆっくりと考えている暇はないぞ!」
イディオタはそう言うと、幾つもの小さな雷球を飛ばしてきた。それは周囲に触手を伸ばす様に放電しながら飛来する為、いつまでもかわしきれそうになかった。
(こちらの術は潰され、あちらの術は潰す前に具現化する。手詰まりだな……)
ユィンがそう思った時、ある事を閃いた。
(潰す前に具現化する……か……)
何かを閃いたユィンは、印を結びながら呪文を詠唱し、足下に魔法陣を描き始めた。
それを見たイディオタは詠唱を潰そうと、立ち止まって足下に魔法陣を描いているユィンを狙って小さな雷球を幾つも飛ばしてきた。
ユィンはその小さな雷球が襲い来たのに合わせて魔法陣を完成させると、両腕の刃を魔法陣に突き刺し、その身を襲う凄まじい電撃をすべて魔法陣へと流し込んだ。
ユィンの描いた魔法陣に、ユィンの魔力とイディオタが放った小さな雷球数個分の凄まじい電撃が合わさって流れ込み、瞬時にして術が発動して具現化した。そして、ユィンの目の前に眩しいほど輝く大きな雷の塊が出現した。
それは、イディオタの造りだした雷球の様に球状ではなく、強いて言うならば楕円形をした屈折鏡の様な形をしていた。
ユィンの造りだした雷の屈折鏡は、強く形成されているにも関わらず、その威力故か凄まじい放電を放ちながら宙に漂い浮いていた。
12月22日まで、毎日21時更新を致します。
23~26日まではお休みして、27日より三章がスタートします!!
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