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戦士の宴  作者: 高橋 連
二章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之弐」
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イディオタ

【イディオタ】


(小僧め、大分と動揺しておるのう)

(転移の魔法陣まで見せるとは、余程あの小僧を気に入った様だな)

 イディオタは地面に闘いながら幾つもの転移の魔法陣を描き、呪文を詠唱してそれらの転移魔法陣と転移魔法陣の間を瞬間移動で飛び交いながら、ユィンに襲い掛かっていた。

(ユィンには〈オメガ〉を譲ろうと思ってのう)

(〈オメガ〉をか! なるほどな……)

 イディオタは転移魔法陣を飛び交いながら、ユィンに猛攻をかけた。ユィンはその攻撃を全ては凌げず、後背よりの雷球をまともに喰らった。しかし、倒れる事なく周囲を警戒し、イディオタの動きを探っている様であった。 

(今の小僧の動き、わざと術を喰らったんじゃないか?)

 〈アルファ〉の警告の言葉に、イディオタは笑って答えた。

(避けられずに喰らっただけじゃろう! ほれ、立ってはいるが足下はふらついておるわい!) 

「ユィンよ。雷球を喰らって立っているとは頑丈じゃのう。しかし、何発まで耐えられるかのう。いくぞい!!」

 イディオタはそう叫ぶと、さらに幾つかの呪文を詠唱しながら、またも転移の魔法陣を飛び交いながらユィンへと襲い掛かった。

 その時、ユィンはイディオタの攻撃を避けて空高く飛び上がると、イディオタの描いた転移の魔法陣全てに何かを飛ばしてきた。

転移の魔法陣の一つに飛んだイディオタが足下をみると、魔力と闘気を込められて小型の爆発物と化した小さな骨が突き刺さっていた。

「げっ!」

 イディオタの無様な叫び声を合図に、魔法陣に突き刺さった全ての骨が爆発した。

(お前は油断しすぎだ!)

(この程度、雷球で相殺じゃ!)

 イディオタは詠唱を終えていた雷球の術を放ち、ユィンの骨の爆発を相殺した。

(転移魔法陣の術を破るだけで、あの小僧の策が終わりな訳ないだろうが!)

 〈アルファ〉の言葉にイディオタがユィンを見ると、両手でそれぞれ違う種類の印を結びながら、地面に両足で魔法陣を描いていた。

 呪文の詠唱は既に終えている様で、印を結び終わるとユィンの周囲にイディオタの雷球と同じ位の大きさの三つの火炎球が現れた。その火炎球の出現と同じくしてユィンが足元に描いていた魔法陣を描き終えると、周囲の大地が盛り上がり、火炎球を岩石で包み込んだ。

(印と魔法陣を組み合わせた上に、二属性魔法か!? 魔術の素養はかなりの域の様じゃのう……)

(ぼさっと見てないで、呪文でも潰したらどうだ?)

(呪文潰しも教えるが、まずはユィンの二属性魔法を見てみたいのじゃ)

 イディオタはそう言うと、魔力の剣を具現化させる術の詠唱を始めた。

「シャッ!」

 ユィンの気合いの声に呼応して、岩石に包まれた火炎球は高速で回転を繰り返しながら、イディオタに向かって飛んで来た。その岩石火炎球は回転を繰り返す度に赤く灼け、やがて真っ赤な灼熱の溶岩の塊と化していた。

 その溶岩球はイディオタの至近までくると、中の火炎球が大爆発を起こし、爆炎と共に周囲に溶岩の飛礫をまき散らして襲ってきた。

(爆発で炎が燃え上がり、溶岩の飛礫が撒き散らされて襲い来るか。えげつない術じゃのう!)

(ぼやいてないで、さっさと防げ!)

(分かっとるわい! これしきなんの事はない!)

 イディオタはぶつぶつ言いながら、六本の魔力の剣を具現化し、それを重ねて盾にしてユィンの術からその身を防いだ。

(ふふん。余裕じゃろうが!)

 自慢げに言うイディオタに、〈アルファ〉の小馬鹿にした声が警戒を促した。

(余裕はいいが、次がすぐ来るぞ)

 イディオタがユィンを見やると、またも両手で印を結びながら、先ほどの魔法陣を大地に四つも描いていた。

それが終わると、さっきと同じ様に、ユィンの周囲に火炎球が出現し、魔法陣が発動すると大地が隆起してまたも火炎球を包み込んだ。ただ違うのはその数だった。ユィンの周囲をぐるりと取り囲むように、十二個の岩石火炎球が出現しようとしていた。

(ぐぬ! ちと数が多いのう)

(お前なら余裕だろ?)

(うるさいわい!)

 イディオタはそう叫ぶと、六本の魔力の剣を花弁状に重ねて空に舞い上がらせると、それに乗って飛んで上空から一気にユィンに襲い掛かった。

 ユィンはその花弁状の魔力の剣を避けて後方に飛ぶと、出現しかけている岩石火炎球を破裂させようと印を結び始めた。

「遅いっ!」

 イディオタはそう叫びながら、魔力の剣を自在に操って宙を駆けさせ、発動仕掛けている岩石火炎球の周囲を魔力の剣で斬り裂いていった。すると、小さな爆発と共に、出現しかけていた岩石火炎球は全て消滅した。

「そ、そんな!? 詠唱……を完了した魔術を……消滅させる……なんて……一体……」

 片言だったが、ユィンが驚愕の表情で驚きの言葉を発した。

 そのユィンの驚きに満足したイディオタは、満面の笑みを浮かべながら答えた。

「詠唱が完成していようと、術式に魔力が送られて発動が終わる前ならば、魔力の流れを断ち斬って呪文を潰す事は可能じゃ」

(偉そうにしやがって……)

(少し黙っておれ!)

 ユィンは頭ではイディオタの説明を理解したようだが、いまだ驚愕の表情で言葉を失っていた。

 そこに、イディオタの言葉が更に続いた。

「ただし、術の具現化が完了し発動した後では、もうこの手の呪文潰しは通じぬがな。術の具現化が完了した後は……」

 イディオタが得意げに語る講釈を、〈アルファ〉の言葉が中断させた。

(おい!ゆっくりしていると王国軍が来るぞ!)

(ぬう!わかっとるから、もう少し喋らせろ!)

「まあ、それは今度じゃ」

 イディオタはそう言いながら、魔力の剣で大地に魔法陣を描きながら、呪文の詠唱を始めた。

「ユィンよ、覚醒した今のお主なら、儂の詠唱しておる術の魔力の流れが見えるじゃろう」

 イディオタの描いた魔法陣が発動し、イディオタの周囲に幾つもの小さな雷球が現れはじめた。


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