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戦士の宴  作者: 高橋 連
二章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之弐」
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ユィン

【ユィン】


 イディオタの封印術は強力で、ユィンは指一本も動かせなかった。

頭上で巨大な魔力の塊が動き出した時、ユィンは死をその肌に感じた。

(俺はここで死ぬのか……)

 ユィンがそう思った時、イディオタが剣を納め語り掛けてきた。

「小僧よ。お主の中に、破壊衝動が絶えず沸き起こっておるであろう」

 ユィンはイディオタの言葉に驚いた。

(老師がなぜそれを!?)

 イディオタはユィンの様子に構わず、言葉を続けた。

「そのせいで、過去に幾多の命を奪い、苦しみ、お主は強い精神力でその破壊衝動を押さえ込むことを学んだのであろう……」

 ユィンは過去の出来事を思い返し、悲しみが溢れそうになった。しかし、それを受け止める強さを、意志を、今のユィンは持っていた。

「はい……」

「だがな、それは一時の気休めに過ぎぬ。お主の力が増すに連れ、その破壊衝動も強まり、いつかは理性を呑み込んで罪無き人に害を及ぼし、やがては己の身さえ滅ぼすであろう」

(老師は私が捜し求める何かをご存じなのかもしれぬな……)

 ユィンは長年旅をして己が探し求めていた自分の出生や生まれた意味、人間ではなく化け物である自分は何者なのだろうかという答えを、イディオタが知っているのではないかと感じた。

「お主はその呪縛を己の力で絶たねばならぬ。己の魂の力を解放し、肉体を完全に制御できた時、お主は呪縛に打ち勝てるのじゃ……。肉体を完全に制御したお主の力をもってすれば、その様な術から抜けるのは容易いであろう」

 イディオタはそう言うと、強烈な殺気を全身から放ってきた。

「儂はお主を殺すつもりで掛かる故な……。お主が魂の力を解放できねば死あるのみじゃ……。儂を恨むなら恨め」

(老師程のお方が言うのなら本当の事なのだろうな……。あの時の様な事は二度と繰り返しては駄目だ。繰り返す位ならこの命を絶つ方がましだ)

 ユィンは同じ過ちを二度と繰り返さないと決意していた。ユィンは迷いなくイディオタに答えた。

「老師は私の様な者の事をなにかご存じなのですね……。私もあの様な過ちを繰り返す事には耐えられません……。力及ばぬ時はそれが私の天命だったのでしょう」

 そう言いながらユィンは静かに構えた。

「そうか……。ならば、ゆくぞ……」

 ユィンの頭上の魔力の塊は、ゆっくりとその速度を上げながら、ユィンを狙って降下してきた。

 距離が縮まり、速度が増すに連れて、その塊の巨大さと破壊を具現化した様な力の迸りをユィンは感じた。

(精神を集中しろ! 己の力を信じろ! 肉片一つ一つに刻まれた忌まわしき波動に打ち勝つんだ! 打ち勝つんだ!!!)

「ウオオオオォォォォォーー!」

 ユィンから大地を震わす程の闘気が溢れ、魂の雄叫びが轟いた。

そして、イディオタが造りだした巨大な魔力の剣が、凄まじい速度で天空よりユィンの間合いへと達した。

 それは、剣というよりは力と破壊の輝きと呼ぶ方がふさわしかった。


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