イディオタ
【イディオタ】
ユィンの頭上で光り輝く、恐るべき破壊の力を具現化した物体がゆっくりと動き始めた時、イディオタは剣を納めユィンに語り掛けた。
「小僧よ。お主の中に、破壊衝動が絶えず沸き起こっておるであろう」
ユィンはイディオタの言葉に驚いた様子であった。
「そのせいで、過去に幾多の命を奪い、苦しみ、お主は強い精神力でその破壊衝動を押さえ込む事を学んだのであろう……」
「はい……」
ユィンの瞳に、悲しみ、苦しみの感情が溢れだした。だが、その奥底には、全てを諦観しながらも諦める事のない不屈の光が見えた。
(それで良いのじゃ……)
「だがな、それは一時の気休めに過ぎぬ。お主の力が増すに連れ、その破壊衝動も強まり、いつかは理性を呑み込んで罪無き人に害を及ぼし、やがては己の身さえ滅ぼすであろう」
ユィンはイディオタの瞳に宿る何かを感じたのか、黙って聞いていた。
「お主はその呪縛を己の力で絶たねばならぬ。己の魂の力を解放し、肉体を完全に制御できた時、お主は呪縛に打ち勝てるのじゃ……。肉体を完全に制御したお主の力をもってすれば、その様な術から抜けるのは容易いであろう」
そう言うイディオタは、先ほどよりも一層強烈な殺気を全身から放ちユィンへとぶつけた。
「儂はお主を殺すつもりで掛かる故な……。お主が魂の力を解放できねば死あるのみじゃ……」
(イディオタ、辛い役を買ってでるな……)
(兵器として生きる事はなによりも辛い……。心のない完全な兵器ならまだしも、儂等には心があるからのう)
ユィンは穏やかな様子で答えた。
「老師は私の様な者の事を何かご存じなのですね……。私もあの様な過ちを繰り返す事には耐えられません……。力及ばぬ時はそれが私の天命だったのでしょう」
そして、そう言うと、ユィンは静かに眼を閉じた。
「そうか……。ならば、ゆくぞ……」
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