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戦士の宴  作者: 高橋 連
二章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之弐」
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ユィン

【ユィン】


 ユィンは死力を尽くし、命を削り、必死の形相で闘っていた。

 闘い始めてすぐに、相手と己の間にある力の差が、天と地ほどの物である事を知った。

 更に、己が殺気を込めて技を放つのに比べ、イディオタからは一切の殺気を感じなかった。

恐らく、実力差を分かっており、一手指南してやろう位の気持ちなのであろう。しかし、その実力の差が、ユィンを死闘へと駆り立てた。

 イディオタに幾ら殺気がなかろうが、その恐るべき魔力と叡智から繰り出される魔術はユィンにとってどれも必殺の術であり、一瞬でも気を抜けばユィンの死によってすぐに闘いが終わる事が分かっていたからだった。

(化け物め!)

 ユィンは自分が長大な詠唱と複雑な印を幾つも結ぶ事によって造りだした氷の龍と同等の物を、イディオタが魔法陣と印を組み合わせて一瞬で造りだした事に驚きを覚えた。

 更にイディオタはその竜に別系統の魔術を組み合わせ、岩の竜を燃え滾る灼熱の溶岩の竜へと変化させた。

 灼熱の溶岩で造られた竜は、その高温と強烈な力で、氷の龍を圧倒した。今までお互いの飛礫は砕き合って互角だったのに対し、溶岩の飛礫は、氷の飛礫を砕き溶かしてユィンを襲った。

(このままではやられる。なんとかあの竜を始末しなければ……)

 氷の龍では溶岩の竜に抗しきれぬと悟ったユィンは、思案を巡らし、呪文を唱えながら氷の龍を溶岩の竜へと襲い掛からせた。

氷の龍が溶岩の竜に勝てぬと知りながらあえて正面より闘いを挑んだユィンに、イディオタが笑みを浮かべながら言った。

「小僧、自棄になったか? それとも降参か?」

「まだまだ!」

 ユィンはイディオタにそう叫ぶと、氷の龍が溶岩の竜に襲い掛かりその体に巻き付いた瞬間、一つの呪文と共に印を結んだ。

すると、氷の龍は一瞬にして溶けて水となり、その大量の水は溶岩の竜へ降り注いだ。

 灼熱の溶岩と大量の水がぶつかり合い、凄まじい轟音と水蒸気を発生させて爆発した。水で一気に冷やされて固まっていた溶岩の竜は、その衝撃で粉々に砕け散った。

「ほほう。解呪で水に戻して溶岩にぶつけたか。ならば次は儂が水の魔術を見せるとしようかの」

 大量の水蒸気が立ち込める中、疲労と困憊で膝をつくユィンに向かってイディオタはそう言うと、何事か呪文を唱えだした。しかし、呪文を唱えだしたイディオタが急に詠唱をやめ、またユィンに声をかけた。

「大分と疲れておる様じゃが、ゆっくりと詠唱したほうがよいかのう? それとも、先ほど見せたように急いで終わらそうかのう?」

 イディオタの言葉に、ユィンはしばし思案した。

(どうせあの方の詠唱は妨害できまい。ならば少しでも体力を戻す時間を稼ぐか……。しかし、あの魔法陣と印を組み合わせた高速詠唱をもう一度見たいな……)

 思案の末、ユィンは黙って手を振った。

「良かろう! ならば高速で唱えようかの」

(魔法の術式と組み合わせを見逃さないようにしなくては……)

 ユィンはイディオタの技を盗むべく、その眼を見張った。

 イディオタが短い詠唱と幾つかの印を結びながら足で描いた魔法陣に魔力を注ぐと、空気中の水分が集まりだした。それはやがて大量の水となり、一気に膨らむと巨大な人型となった。

「お主の造った水蒸気があったから、造り出すのが楽じゃったわい」

 イディオタはそう言いながら微笑んだ。

(凄まじい魔力だな。水蒸気なんか関係なく造りだした癖に。しかし、手印と魔法陣の組み合わせの概要は理解したが、あれを様々な術に使うには、複雑な術式の組み替えが必要だな……)

 ユィンはゆっくりと立ち上がった。この驚異的な回復力がユィンの強みであった。疲労した体力は短時間で回復し、先ほど溶岩の竜の飛礫で受けた軽い火傷も治りかけていた。

 ユィンは深く息を吸い込むと、猛然とイディオタに向かって駆けだした。悠然と構えるイディオタの間合いへと今一歩で踏み込むという時に、その眼前に先ほどの水の巨人が立ちふさがった。

 ユィンは足の骨に闘気を込めて、堅く鋭く変形させると、体を捻って回転しその勢いを乗せた強烈な回し蹴りを水の巨人の胴に浴びせた。ユィンの回し蹴りは水の巨人の胴を薙払い、真っ二つにした。。

(手応えがない!?)

 水の巨人の胴はすぐにくっついて元に戻ると、今度はその太く大きな腕を振って、ユィンへと拳を放ってきた。

 ユィンは素早く対応し、両腕に闘気を込めながら交差して防御した。そのユィンの両腕に水の巨人の巨大な拳がぶつかった時、凄まじい衝撃がユィンの体を襲いその体を吹き飛ばした。

「グハッ」

 水の巨人の一撃で肋骨が折れたのか、ユィンは口から大量の血を吐いた。その様を見ていたイディオタは愉快そうに笑った。

「ふぉふぉふぉふぉ。敵の術を見抜く前に正面より突っ込むとは、若いのう」

 そして、一頻り笑ったあと、イディオタの眼に鋭い光が宿った。

「だが過ちを繰り返せば、その代償は高くつくぞ……」

 イディオタの言葉が終わるか終わらぬかのうちに、水の巨人は、膝をつき血を吐くユィンへと襲い掛かって来た。


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