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戦士の宴  作者: 高橋 連
二章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之弐」
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ユィン

【ユィン】


 シャンピニオン山は、中腹より急激に傾斜を増し、切り立った断崖の様になっていた。中腹の砦より上に行くには、整備された山道を通らなければ難しそうであった。

(木々の上を飛び伝っていけば何とか上れそうだが……。無断で登るよりも中腹の砦でイディオタに取り次いでもらった方が良いだろうな。だとしたら、砦の手前で着替えないとな……)

 ユィンはひとまず中腹にある砦を目指す事に決め、道無き道を歩いて斜めに山を登りながら、中腹の砦へと続く山道を目指した。

 ユィンが山道に辿り着いた時、兵士らしき者が三名周囲を警戒しながら山道を歩いていた。

(イディオタに仕える兵だろうか。それなら名乗って砦へと案内してもらおう。しかし、あの手に持つ筒は何だろう?)

 兵士らしき者達は、鎧や胸当てといった防具の類は着けず、白の上下衣服に青と赤色の上着を羽織り、黒革の手袋と長靴を履いていた。唯一、頭に被った簡易な兜の様な物だけが、防具の類であった。

そして、手に金属で造られた長い筒の様な物を各々が持っていた。よく見るとその筒の先には短剣の様な物が取り付けられている。

(あれは短槍かな? それにしても派手な服だな……。礼服か何かか? こんな汚い服で名乗り出るのは恥ずかしいな……)

 ユィンは己の乞食の様な姿を恥じて、山道を歩く兵士達に名乗り出られずにいた。

ユィンが木々の間から様子を伺っていると、周囲を警戒していた兵士達の方がユィンを見つけて駆け寄ってきた。

 兵士達は短剣の付いた筒の様な物をユィンに向けながら、大声でフランカ王国の言葉を早口でまくし立てた。

(えらい剣幕だな。そんなにこの服が汚いのかな。体も長いこと洗ってなかったから臭うのかも……。くそっ! 水浴びをして着替えておくんだった)

 未だこの国にきて間もないユィンには、彼らがなんと言っているか聞き取れなかったが、いくつかの単語だけは聞き取れた。

(兵士……イディオタ……、昼飯? 後はよく分からないなぁ。彼らはやはりイディオタに仕える兵士の様だな。昼飯とは何だろう。食事を出してくれるのか? いやいや、そんな雰囲気ではないしな……)

 兵士達は金属の筒をユィンに向けながら、さらに緊張感を増した様子で、ユィンを囲むように広がりながら怒鳴り続けていた。

(怪しい奴だと思われているんだろうな……。この格好だからな……。イディオタに教えを請いに来たと言わなければ)

 ユィンはそう考え、片言ながらイディオタの魔導師としての高名を聞き、教えを請う為にやって来たのだと言った。

「イディオタ……弟子、練習……闘う……来たの……です」

 ユィンの言葉を聞いた瞬間、兵士達は恐怖に顔をひきつらせながら、筒を持つ手を僅かに動かした。すると、強力な魔力の塊が筒の先からユィンに向かって発射された。

「うおっ!!」

 ユィンは己に迫る危機を瞬時に肌で感じ、それを脳が受け取る前に、全身の筋肉が反応していた。

 正面と左側面の兵士が発射した魔力の塊を、体を捻って避けながら、右側面の兵士が発射した魔力の塊を右腕で弾き飛ばし、正面の兵士の頭を吹き飛ばした。

 魔力の塊を弾いたユィンの右腕は、肘より先が黒く変色して筋肉が隆々と盛り上がり、その爪は大型の猛獣の牙の様に変化していた。

異形と化した腕を凶々しい黒い闘気が覆っていた。それはまさに魔王の手の様であった。

「ひ、ひいぃぃー!」

 ユィンを襲った兵士達は、仲間の砕け散った脳漿と、頭を無くした首から噴水の様に吹き出る血飛沫を頭から浴び、半狂乱となって更に筒から魔力の塊を連射した。

(あの魔力の塊はかなりの練度で練り込まれているな……。あれを何発も凌ぐのは厳しそうだ)

 筒から発射される魔力の塊の威力に脅威を感じたユィンは、躊躇う事なく兵士達との間合いを詰め、狂った様に叫びながらユィンに襲い掛かってくる二人の兵士の心の臓を、異形の右腕で貫いた。

 心の臓を貫かれた兵士達は、音もなく地に倒れ伏した。

(イディオタの配下の兵士を殺してしまったな……。まあ、襲ってきたのは奴らの方だし、仕方ないか……。それよりも奴らの返り血で大分と汚れてしまったな)

 ユィンは着ていた乞食の様に汚れ破れていた衣服を脱ぎ、殺した兵士の衣服を脱がすとそれで体を丁寧に拭いた。そして、旅の途中で老農夫に貰った衣服を取り出し着替え始めた。

(しかし、あの兵士達が持っていた魔力が発射される筒は何だろう? 新しくて綺麗だったから、古代兵器の様では無いようだが……)

 ユィンがそんな事を考えながら着替えをしていると、前方より粗末な長衣を着た老人がやってきた。

(あの老人に道を尋ねるか)

 老人は穏やかな笑みを顔に浮かべながら、ゆっくりとした足取りで歩いていた。

その老人の笑顔と武器を持たぬ姿にユィンは安心してしまい、老人の歩く姿に一分の隙もない事に気が付かなかった。

 その老人がユィンの目の前まで来たとき、後方より先ほどユィンが殺した兵士と同じ服装の一団が駆けてきた。その兵士達は先ほどの兵士と同じく、怪しげな筒を手に持っていた。

 新たに現れた兵士達は大地に横たわる死体をみて驚くと、一斉にユィンに筒を向けて怒号を発した。しかし、早口で怒鳴っている為、ユィンにはよく聞き取れなかった。

(さっき殺した奴らの仲間か。俺が殺したのかと聞いているみたいだが……。あの筒を持った兵士が十人か。まずいな……)

 筒の威力を先ほど見て知っていたユィンは、老人を巻き込むわけにはいかぬと思い、どう答えようか思案していた。その時、不意に兵士達が老人の顔を見て驚きの声を上げた。

「イ、イディオタ伯!?」

 兵士の一団は一斉にそう声を上げると、半数は全力で走って逃げ出し、残りの半数も、酷く狼狽した様子で、例の筒を老人に向けながらも、かなり足早に後退していた。

(この老人がイディオタ!?)

 その兵士達の言葉に驚き、ユィンが老人の方を見ると、既に老人の姿はかき消えていた。老人の姿をユィンが探し視線を巡らすと、老人は走って逃げた兵士達の前方に悠然と立っていた。

(速い!)

 ユィンがそう思った瞬間、走って逃げる兵士達の首が地面に転がり落ち、頭を失った兵士達の体が糸の切れた操り人形の様に一斉に倒れた。走って逃げた兵士達を始末した老人は、残った兵士達に向かって駆けた。

 残っていた兵士達はそれを見ると乙女の様な悲鳴を上げ、一斉に手に持つ筒から魔力の塊を老人に向かって乱射した。

 老人はどこから出したのか怪しく輝く剣を右手に持っており、兵士達に向かって駆けながらその剣を操り、老人に向かって繰り出される無数の強力な魔力の塊を弾き返した。弾き返された魔力の塊は、正確に筒から魔力の塊を発射する兵士達の心の臓に吸い込まれていった。

 老人がまたもユィンの目の前までやってきた時、兵士達は全員物言わぬ肉の塊と化していた。

(これがその名を轟かすイディオタか……)

 警戒心と畏敬の念が混ざった視線を向けながらユィンがそう思ったとき、老人が口を開いた。

「そうじゃよ。儂がその名を轟かす伝説の魔導師、イディオタ様じゃ!」

(俺の考えが読めるのか!? でも、伝説の魔導師とかは言ってないけど……)

 これがユィンとイディオタの出会いであった。


読んで下さって有難うございます!


今後も宜しくお願いします^p^



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