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戦士の宴  作者: 高橋 連
二章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之弐」
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ユィン

【ユィン】


「お若いの、大魔導師と言われたイディオタの居城は、この先の森を抜けて国境を越えたフランカ王国の北方にある山の上にあるそうじゃ。たしか、シャンピニオン山とか言ったかな」

 フランカ王国の東隣にある国、ドイチュの農村に住む老農夫は、怪しげな異国人で、しかも乞食の様な汚い格好のユィンに気さくに答えてくれた。

「ありが……と……です」

 ユィンは片言のドイチュ語で礼を言うと、西の森を目指して歩きだした。

「ちょっと待ちな。若いの」

 老農夫はそう言うと、家の中から新しくはないが清潔に洗い畳まれた衣服を持ってきた。

「これを持っていきな。その格好じゃ乞食と間違われるぞ。ははははは」

「ありがと……うです」

「気をつけてな! あんたまだ若いんだから、魔術とか怪しげなものなんか研究せずに、働いて嫁さんでも貰った方が良いぞ。はははは」

 ユィンは老農夫に頭を下げ、西の森を目指した。

(俺はあんたより年寄りなんだけどなぁ……)

 ユィンは東の果ての国を出てから、長い年月を掛けて大陸を旅した。

 己の出生や、生まれた意義を見つける為に各地を回り、強者と闘い、様々な遺跡を巡り、ユィンは青年から男に、そして一人の戦士へと成長していた。

 だが、二十代後半あたりからユィンはまったく年を取らなくなってしまっていた。ユィンの不可思議な体の為せる業であろう。

 しかし、今ではそれにもなれ、自分には人よりも長い時間が有るのだと納得し、古代の遺跡や魔術を研究しながら旅をしていた。そして、大陸の西の果てにあるフランカ王国へと辿り着いた。

(森を抜けたら国境を越えるといっていたな……。ならば言葉も違うのだろうな。また最初から覚えなきゃならないな……)

 ユィンは世界を旅しながら、各地の言語の違いに悩まされていた。常人より遙かに優れた知能を持つ為、数日間もあれば片言での日常会話なら出来る程度には修得できるが、やはり面倒ではあった。

 古代遺跡の言語は、古代文明と更にその遙か前の神代の遺跡では違いはあるが、同じ時代の遺跡ならば、どの国であろうと使われている文字は同じであった。それを思うと、今は不便な世の中だとつい思ってしまうのだった。

 ドイチュの国境にある森を抜けてから数日間、北を目指して歩いたユィンは、大きな村へ辿り着いた。

「あの……イディオタ……山……どこ……?」

 話しかけられた村人達は、薄汚い乞食の様な格好のユィンを見て、いかにも怪しんでいる様子であった。

(この前貰った服に着替えておけば良かったかな……。でも、あれはイディオタに会う時の為に取っておきたいしな……)

 ユィンが自分の身なりの汚さを後悔している横で、村人達は小声で何やら話し合っていた。

 その内容は正確には分からなかったが、イディオタと言う名前に反応している様子であった。

片言の言葉と、村人達から感じる波動によると、どうやらここはイディオタの領地の村で、領主の知り合いなら失礼があってはならないが、身なりが汚く若いので、判断が付きかねている様だった。

「北……半日……シャンピニオン山……」

 話合いを終えた村人達は、北を指さしながら、何か説明をしているようであった。

(北に向かって半日ほど歩いた先にある山が、イディオタの住むシャンピニオン山だと言っているみたいだな)

 ユィンは村人達に頭を下げると、北に向かって歩きだした。村人達が言ったとおり、半日ほど行くと木々が生い茂った大きな山があらわれた。

(これがシャンピニオン山か。かなり険しそうだな……)

 たどり着いたシャンピニオン山は、木々が生い茂り緑豊かだったが、傾斜がきつくかなり険しそうな山であった。

 その山の中腹辺りに、小さいが砦らしきものが見え、その砦の上下には木々の隙間がある様だった。

(あそこに山道が造られているみたいだな。まずはあの砦を目指すか……。今日はもう日が暮れそうだし、ここらで野宿して明日向かうとしよう)

 ユィンは付近で野鳥を捕まえると、火を起こして夕餉の支度を始めた。

食事を終え、腹も満ち焚き火で体も温まると、横になってすぐに寝息を立て始めた。そして、夜明けと共に目覚めた。

 ユィンのいる位置から山道があると思われる地点までは、大分と西にずれていたので、ユィンは道なき所から木々が生い茂る山へと足を踏み入れ、そこから西へ向かって斜めに登っていった。

 普通の者であれば無謀であったろうが、幼き頃より山で育ち、人並みはずれた身体能力を持つユィンにとっては、さほど苦労する事なく進めそうであった。

 山道よりも、ユィンは別の事で思案に困っていた。

(この服で砦に着けば、また乞食と思われそうだな。しかし、新しい服で山を登ると汚れそうだしな……。いつ着替えようかな……)


2章後編、シャンピニオン山の戦い 其之弐が始まりました。


これは、一章後編「シャンピニオン山の戦い 其之壱」の続きの物語です。



各章の後編にあたる、シャンピニオン山の戦いは、連続した物語なので、

もし第一章後編から時間が空きすぎて、2章後編が???の方は、

一章後編をちょっとだけでも読んでみて下さい^^



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