ユィン
【ユィン】
ユィンはコンジュエの部屋の扉を叩いた。
「コンジュエ様、ユィンです……」
「入りなさい」
ユィンはコンジュエの部屋の扉を開け、中へ入った。
「タオジンの話を聞いたのだな……」
ユィンはコンジュエの言葉に頷いたが、その後の言葉がでなかった。己の犯した罪は、償う事も許される事も決してないものだと分かってはいたが、どこかで罪滅ぼしをし、許される日を望んでいた。
しかし、タオジンの話を聞き、己は決して許されるべきではない、許されてはならないのだと改めて自覚したのだ。
(俺は生きていて良いのか……、罪なき人の生が閉ざされて、罪を犯した俺が生きていて良いのか……)
コンジュエはユィンが語らずとも、その心を察したかの様に話しはじめた。
「ユィンよ。お前が悩み苦しむのは分かる。それは当たり前であるし、お前は悩み苦しまねばならん。それほどの罪をお前は犯したのだ。わかるな?」
コンジュエの言葉に、心の中に広がり渦巻いていた何かが溢れ、ユィンの目から涙となってこぼれだした。
「コンジュエ様、私は生きていて良いのでしょうか。命は命でしか償えません。私は……」
「馬鹿者!!」
ユィンの言葉に、穏和なコンジュエの怒号が飛んだ。
「お前が奪った罪なき命は、お前が死ねば戻るのか? お前の罪はお前の命で償えるのか?」
コンジュエは凄まじい剣幕でユィンを怒鳴りつけた。ユィンの目からさらに大粒の涙がこぼれた。
コンジュエの剣幕に悲しんだのではなく、コンジュエの怒号と共に、その心の、ユィンを心から愛し心配する心の波動が伝わったからだった。
(コンジュエ様……)
「ユィンよ、その考えは罪から逃げているのでしかない。他人はお前の罪を知れば、命で償え、死んでしまえとお前を罵るであろう。だが、お前はそれに耐えねばならん。私にもどうすればお前の罪を償えるのか、そもそも償う事が出来るのかさえ分からん。しかし、それでもお前は耐えて生きねばならん。そうでなければ、お前に奪われた命が無駄になってしまう。生きる事の方が死んで終わらせるより何倍も辛く険しい道なのだ……」
ユィンは、瞳を閉じ、深く頷いた。己が犯した罪から逃げようとした事を、命を奪った人達に謝るように、こんな自分を心の底から慈しんでくれるコンジュエに感謝するかのように、深々と頭を下げて頷いた。
「それでよい。お前の罪を私も一緒に背負おう。一人で償えぬなら二人で償えばよい。タオジンに済まないと思う気持ちがあるのなら、今後は息子として仕えよ。お前が殺めた息子として、タオジンに仕えるのだ」
「はい」
「お前はこれで父親が二人だな。母がいない分、ちょうど良いか。はははははは」
(コンジュエ様、私は……私は……)
コンジュエの言葉に、ユィンは一緒になって笑ったが、なぜか涙が止まらなかった。しかし、その心は決して逃げまいという決意で晴れやかであった。
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