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戦士の宴  作者: 高橋 連
一章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之壱」
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片目

【片目】


 全方向から襲った無数の岩の棘を、全て防ぎきった〈刀鍛冶〉の鬼神の如き闘いぶりを見ても動じなかった〈片目〉が、驚きの声を上げた。

「うぉ!」

 バソキヤの警告が飛ぶ。

(くるぞ!)

 殺気の刃でつくられた刃の花を飛ばして、その上に乗った〈刀鍛冶〉が空から襲って来たのである。

(詠唱は間に合うか!?)

(わからぬ!しかし、何とか凌ぐ故、魔力の増幅を頼む!)

 〈片目〉はそう言うと、両手の剣に闘気を込め、〈刀鍛冶〉の着地の瞬間の隙を狙うべく剣を構えた。しかし、その目論見はあっさりと覆された。

 〈刀鍛冶〉が己の乗っていた刃の花から空中で飛び降り、それ自体を〈片目〉に向かって狙い放ったからであった。

 飛来する巨大な刃の花を、〈片目〉は剣を重ねてなんとか受け止めた。その強烈な衝撃によって、刃の花もそれを受け止めた〈片目〉の剣も共に砕け散った。しかし、その瞬間、背後に降り立った〈刀鍛冶〉の剣が〈片目〉を襲った。

 〈刀鍛冶〉は寸分違わず背後から〈片目〉の心の臓を貫いた。貫いたと思った筈であった。だが、〈刀鍛冶〉の剣は心の臓から大分ずれ、〈片目〉の腹部を貫いていた。

(邪眼の……幻影で……なんとか急所を外せ……たか……)

 腹部を貫かれた〈片目〉は、苦しそうにバソキヤに言いながら、素早く〈刀鍛冶〉の剣を引き抜き、転がって距離を取った。

(回復するぞ)

(魔力の増幅は……終わったのか?)

 〈片目〉の言葉に、バソキヤが答えた。

(ああ!)

(ならばこのままいくぞ。回復はこいつを倒してからだ)

 〈片目〉はそう言うと、両腕に三対ずつ填められていた太い腕輪を外し、それを全て〈刀鍛冶〉に向かって投げた。

 投げられたその腕輪は、空中で外輪部に刃が付いた幾つもの薄い戦輪に分かれると、空中に浮いて〈刀鍛冶〉の周囲を取り囲んだ。

 〈片目〉は腹部の深手をものともせずに呪文を詠唱し、〈刀鍛冶〉を囲む戦輪の一つに疾風が形となった槍を放った。

 〈片目〉が放った疾風の槍は戦輪の中心に吸い込まれると、〈刀鍛冶〉を取り囲んだ他の戦輪の一つから出現し〈刀鍛冶〉を襲った。

 〈刀鍛冶〉はそれを右手の剣を閃かせて両断したが、両断された疾風の槍は消滅する事無く二つに分かれると、〈刀鍛冶〉の周囲に漂う違う戦輪に吸い込まれた。そして、またも別の戦輪から突如として出現し、〈刀鍛冶〉に襲い掛かった。〈刀鍛冶〉は今度はそれを斬らずに、身を捻ってかわした。

 二つの疾風が具現化した槍はまたしても違う戦輪に吸い込まれると、突然に〈刀鍛冶〉の付近の戦輪より現れて〈刀鍛冶〉を襲った。それを見ながら、〈片目〉はさらに呪文を詠唱し、新たな疾風の槍を戦輪の中に放った。

 合計三本になった疾風の槍は、〈刀鍛冶〉の周囲の戦輪から出現しては〈刀鍛冶〉を襲い、〈刀鍛冶〉がそれを避けると、先程と同じ様に他の戦輪に吸い込まれて別の戦輪より出現して〈刀鍛冶〉を襲うという事が繰り返された。

 しかも、その間にも疾風の槍は〈刀鍛冶〉の周囲に漂い浮く戦輪の外輪部の刃に当たり、その刃に斬られて分裂していった。そうやって、疾風の槍は瞬く間にその数を増やし、今や〈刀鍛冶〉を襲う疾風の槍の数は尋常な数ではなくなっていた。

(かかったな)

(ああ、このまま戦輪の包囲を縮めていって、奴を仕留めるぞ)

 腹部からの出血により疲労した表情の〈片目〉は、右眼の邪眼を妖しく光らせながら答えた。

(その傷で邪眼を使い続けて大丈夫か?)

(邪眼を解けば、疾風の槍が最初に放ったのと、後からもう一度放った二本しか無い事が奴にばれる。あと少しだ……)


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