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戦士の宴  作者: 高橋 連
一章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之壱」
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片目

【片目】


((馬鹿なっ!!)

 砂埃がおさまり、無傷で立つ〈刀鍛冶〉を見て〈片目〉は驚愕した。

(無傷か……)

 バソキヤも驚きを隠せぬようであった。

 完全に〈刀鍛冶〉の動きを封じていたはずであった。それに、〈刀鍛冶〉程の使い手ともなれば剣撃で魔術を断つ事もあり得ぬ事ではなかった故に、手に持つ剣をも鎖で封じた。

 唯一残る手といえば殺気を具現化した刃であったが、あの刃の大きさや厚みでは、暴風の刃を破壊する事は不可能なはずであった。  

 だが、〈刀鍛冶〉は暴風の刃を正面から受けて立っていた。それも無傷で……。

(一体どうやって……)

 驚きを隠せぬ〈片目〉に、バソキヤが言った。

(殺気の刃が消えたようだ。あの刃で何かしたのであろうな……)

 バソキヤに言われ、〈片目〉は〈刀鍛冶〉の周囲にあるはずの殺気の刃が無くなっている事に気づいた。

(ならば、新手を出させぬ事だな)

 三体の幻影と泥人形を造りだし、しかもバソキヤの補助を受けながらとはいえ、暴風の刃まで放った〈片目〉は、疲労の極みにあった。〈片目〉は、新たな幻影や術を発動できる様になるまで、時間を稼がなくてはならなかった。

 〈刀鍛冶〉一人でも手に余りそうなのに、そこに殺気の刃まで加わっては、時間を稼ぐどころの話ではない。

 〈片目〉は冷静さを取り戻すと、〈刀鍛冶〉を囲む泥人形を操って、〈刀鍛冶〉に殺気の刀を具現化する暇を与えぬ猛攻にでた。地に膝をつく程の疲労状態を乗り切らねば、〈片目〉に勝機はなかった。

 二つの短槍の様な剣を自在に操りながら、三体の泥人形は〈刀鍛冶〉に襲い掛かった。

一体は剣の柄の部分の鎖を短くだして、あたかも四本の刀を操るかの如く〈刀鍛冶〉と斬り結びながら、他のニ体は、得物の長さを活かして、突きと回転斬りを併せながら猛撃を繰り返した。

 並の使い手ならば、数合と剣を合わせる事無く倒せたであろうが、〈刀鍛冶〉相手ではそうはいかなかった。追い詰めるどころか、余裕がある様にさえ感じられた。

(アーナンドよ、回復状況はどうだ?)

 〈片目〉の体力と魔力の回復を必死で補助しながら、バソキヤが〈片目〉に尋ねた。

(大分と回復はしたが、あいつをしとめる為にはまだ駄目だ……)

(そうか……。泥人形では抑えきれそうにないな)

 落ち着いた感じではあったが、バソキヤの言葉には並々ならぬ危機感が感じられた。

 しかし、それに答える〈片目〉の声は、先程に比べて追い詰められた感じは無く、むしろ絶好の好機を前にした様な高揚感が感じられた。

(いや、そうでもなさそうだ)

(どういう事だ?)

 訝しげなバソキヤに、〈片目〉が策を明かした。

(〈刀鍛冶〉の奴は、俺が切り札を放ち、それを打ち破ったと思っている)

(実際にそうではないか)

 バソキヤはまだ納得できぬ様であった。

(ああ、そうだ。確かにそれは事実だ。俺は切り札の術を破られ、しかも疲労困憊ときている)

(凌ぐどころか、絶体絶命ではないか)

(そう、だからこそだ)

 〈片目〉がそこまで言うと、バソキヤも何事かを察した様だった。

 今までの闘いぶりから、〈刀鍛冶〉がこれまで数多く闘った敵の中でも、別格といって良い程の使い手なのは疑いのない事であった。その達人の〈刀鍛冶〉が、泥人形三体とはいえ、それといまだ剣を交えているというのは、既に〈片目〉との闘いを見切り遊んでいるとしか思えなかった。

 〈片目〉はそこに活路を見いだしたのであろう。

窮すれば鼠さえも猫を噛むと言う。ましてや〈片目〉がこのまま終わろう筈がない。〈片目〉の若き頃よりその左眼に宿り、共に幾多の闘いを潜り抜けてきたバソキヤには分かっていた。

(奴が余裕をかましている隙をついて、泥人形をぶつけてやる)

(ならば魔力回復が最優先だな)

(ああ。たっぷりと注ぎ込んで、喰らわせてやるさ!)

 〈片目〉はバソキヤにそう言うと、片膝をついたまま、瞑想に入った。泥人形を操りながら魔力を高め、その魔力を泥人形に注ぎ込んで爆発させるには、今暫し魔力を回復させねばならなかった。

(あまり時間はないぞ)

(わかっている)

 バソキヤの忠告にそう答えると、〈片目〉は作業に取りかかった。あくまでも疲労困憊が故に、立ち上がる事さえ叶わぬと見せなければならなかった。

 片膝をついたまま魔力を回復させ、その魔力をもって泥人形を操りながら魔力を徐々に注ぎ込んだ。そして、その魔力は泥人形の中で凝縮され、恐るべき固まりに成ろうとしていた。

(アーナンドよ、〈刀鍛冶〉に動きがあるぞ)

 バソキヤに言われずとも、〈片目〉にも〈刀鍛冶〉の僅かな気の動きが感じられた。どうやら時間が来た様だ。

 〈刀鍛冶〉は泥人形との闘いに飽き、殺気の刃を出して一気に終わらせるつもりなのだろう。しかし、飽いたのは〈片目〉も同様であった。

 既に十分な程の魔力を回復させた上、泥人形にも魔力を注ぎ込み、更にはそれを練って凝縮させ、いつでも暴走させて自爆させる準備ができていた。その互いの命運を分けるであろう一手を先に打ったのは、〈片目〉であった。

 三体のうち一体は胴を真っ二つ斬られて消滅したが、残るニ体の泥人形は、〈刀鍛冶〉との間境を越えて至近の距離へと迫った。

 そして、〈刀鍛冶〉の殺気の刃が具現化される前に、〈刀鍛冶〉の刀が泥人形を屠る前に、〈片目〉の念が飛んでニ体の泥人形は〈刀鍛冶〉を巻き込み大爆発を起こした。

 周囲を巻き込み、全てを焼き尽くす炎を発した大爆発の中、〈片目〉は恐るべき光景を見た。

 〈刀鍛冶〉の至近、避け得ぬ距離での大爆発が起こった瞬間、〈刀鍛冶〉は右手の剣を閃かせてその爆発を斬り、致命傷を避けたのである。それも、己の左右で同時に起こった爆発を斬ってである。

 そして、その瞬間に殺気の刃を具現化させ、その刃を花弁の様に重ねて己を護る盾とし、斬った後の爆風と炎からも身を護っていた。

 〈刀鍛冶〉は軽い火傷を負っただけで、ほぼ無傷と言えた。

(……!)

 驚愕のあまり、〈片目〉は言葉を失った。

 〈刀鍛冶〉は周囲に殺気の刃を具現化させ、見る者の心を凍てつかせる光を瞳に宿し、呆然と立ち尽くす〈片目〉に向かって迫った。


先の戦乱で名を馳せた人外の力を持つ魔導師イディオタ。


彼の配下の中でも抜きんでた腕前を持つ使い手三人は、イディオタ三高弟と呼ばれ、それぞれ「竜殺し」、「銀の槍」、「刀鍛冶」の異名を持っていた。


そのうちの一人、刀鍛冶の戦いぶりは如何でしょうか?


弟子の力がこれ程ならば、師匠であるイディオタの力は推して知るべしですね。


この先、残りの三高弟達や、師匠であるイディオタ、魔導兵器で武装した近衛軍、そして、異国より旅する謎の青年。

様々な戦士が宴を繰り広げます。


今後とも宜しくお願い致します。



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