刀鍛冶
【刀鍛冶】
（リリーン！）
〈刀鍛冶〉の頭の中に、〈鈴音〉の警告が響いた。
（これは！）
〈刀鍛冶〉が気づいた時には足元の大地が溶けだし、己の脚を飲み込んで固まっていた。それと同時に、周囲の〈片目〉から投げられた剣の鎖が〈鈴音〉に絡まった。
そして、距離をあけた〈片目〉から、猛烈な暴風を凝縮して形作った刃の様なものが放たれた。
それは、大気を震わせながら空気を切り裂き、凄まじい音を発しながら砂塵を巻き上げて飛んで来た。
（リーン……）
（わかった！）
〈刀鍛冶〉は〈鈴音〉にそう答えると精神を集中させ、自分を殺そうとする〈片目〉への殺気を膨らませた。その膨らませた殺気を五本の刃に注ぎ込んで強化すると、身動きの出来ない自分の前に殺気の刃を集めて花弁の様に重ねた。
その刃で造られた盾は、〈刀鍛冶〉の殺気が増大する程に厚みを増し、いまや巨大で神々しい刃の花が咲き誇っていた。
（リリーン……）
〈鈴音〉は〈刀鍛冶〉の闘気を増幅させ、その刃の花の強度を更に上昇させた。
〈片目〉の放った暴風の刃と、〈刀鍛冶〉が造りだした刃の花がぶつかった。
刃と刃がぶつかる音は、金属がぶつかり合う様な音ではなく、まるで巨大な花弁が散る様な音を響かせ、周囲に砂埃を舞い上がらせた。
巨大な花弁が散る音と共に、〈刀鍛冶〉が造りだした刃の花は無惨に砕けた。だが、その研ぎ澄まされた刃によって巨大な暴風の刃をも共に消滅させていた。
〈刀鍛冶〉は〈片目〉の放った渾身の暴風の刃を凌ぐと、素早く〈鈴音〉に巻き付いた鎖を断ち切り、足元を固める大地を砕き割った。そして、闘気を高めて身を屈め、収まり散った砂埃の先に見える〈片目〉に、今にも飛び掛からんとした。
「リーン……」
目の前の〈片目〉に気を向けていた〈刀鍛冶〉に、またも〈鈴音〉の警告が響いた。
「ちっ！」
〈刀鍛冶〉は軽い舌打ちと共に、身を捻って襲いくる周囲の片目の剣を受け止めた。
先程とは違い、剣の鎖を納めてまたも短槍の様な形にし、両の手の二本の剣を猛烈に回転させながら三人の〈片目〉が襲い掛かってきた。
距離をあけている本体とおぼしき〈片目〉は、先程の術によって余程消耗したらしく、疲労困憊の様子で地に片膝をついていた。
どうやら、間断ない猛撃によって〈刀鍛冶〉が殺気の刃を具現化するのを防ぎつつ、時間を稼ぐ作戦らしい。
（〈鈴音〉、俺も舐められたものだな）
〈片目〉達の猛攻を右手に持つ〈鈴音〉だけで軽く凌ぎながら、〈刀鍛冶〉は〈鈴音〉に話しかけていた。
（リーン……）
〈鈴音〉は〈刀鍛冶〉に、敵を侮る油断を戒めた。
（これしきの連撃なら、殺気の刃を出さずとも余裕さ。それに奴はさっきの切り札で消耗しきったらしい。もう終わりだ）
（リーン……）
殺気の刃を出せるにもかかわらず、余裕をみせて殺気の刃を出さない〈刀鍛冶〉を、〈鈴音〉はまたも戒めた。
（わかったよ）
〈刀鍛冶〉が殺気の刃をだし、一気に決着をつけようとした時、周囲の〈片目〉が距離を詰めて捨て身の斬撃を浴びせてきた。
その攻撃をも余裕でかわし、〈鈴音〉を横に薙ぎ払って一人の〈片目〉の胴を真っ二つに切断した時、他のニ体の〈片目〉の体内の魔力が一気に凝縮されるのを〈刀鍛冶〉は感じた。そして、それを感じた〈鈴音〉も〈刀鍛冶〉に警告を発した。
（リーン！）
その〈鈴音〉の警告よりも先に、体内の魔力を凝縮させた〈片目〉達は捨て身で〈刀鍛冶〉に詰め寄り、逃れ得ぬ間境を越えた。本来ならば、その間境を越えた時点で〈刀鍛冶〉の刀が〈片目〉達を捉えて終わるはずだったが、終わらなかった。
〈片目〉達は〈刀鍛冶〉の刀に捉えられる前に、極限まで凝縮した魔力を暴走させ、周囲を全て巻き込み破壊する程の大爆発を起こした。逃れ得ぬ至近で、〈刀鍛冶〉を囲むニ体の〈片目〉が同時に自爆したのである。
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