イディオタ
【イディオタ】
レンヤが剣を握り振り降ろすと、空が斬れ、地が砕けた。
(おいおい、何か凄い事になっているぞ。大丈夫か?)
(たぶん……)
(たぶんって……。お前……)
(やっぱり剣を返せって言うのは駄目かな……?)
(お前に恥と言うものが無いのであれば、言ってみたらどうだ?)
〈アルファ〉の言葉に、イディオタにもやはり少しは恥じを知る所があったらしく、哀願するような声音で〈アルファ〉に呟いた。
(恥ずかしいから、〈アルファ〉、お前から言ってくれんか……?)
(お前の中にいる俺が喋れるわけないだろ! この阿呆が!)
〈アルファ〉の怒号に、イディオタは汗を掻きながら怒鳴り返した。
(じょ、冗談じゃよ! 冗談!)
イディオタと〈アルファ〉の会話をよそに、自分の運命の剣に出会えた喜びに打ち震え、己の全てを賭けるが如く闘気を発散させるレンヤが、剣を構えた。
「老師、推して参る……」
そして、そう呟くと同時に大地を蹴り駆けると、一気にイディオタとの間合いを詰めるべく迫った。
(くるぞ!)
(わかっとるわい)
イディオタは〈アルファ〉にそう答えると、左手で宙に魔法陣を描きながら、口早に長大な呪文を詠唱しはじめた。
そこにレンヤの強烈な斬撃が襲ってきた。
レンヤの全ての力を引き出し注ぎ込められた宝剣は今まで以上の輝きを発し、剣身を包む光が膨張してまるで巨大な槍の様になっていた。
イディオタはその攻撃を紙一重で見切りながら避け、複雑な魔法陣を描きながら呪文の詠唱を続けていた。
(イディオタよ、かわすだけじゃいつか捕まるぞ)
(詠唱中にごちゃごちゃ言うな。お前も詠唱の手伝いをせい!)
(あんな若造相手に、俺に手伝わすなよ。恥ずかしい奴だな)
(ぐぬぅ、もうええわい!)
今までは並々ならぬ体捌きでレンヤの剣をかわしていたイディオタだったが、少しずつレンヤの剣の切っ先が、イディオタの体を掠めだした。
(どうした?)
(あの若造、殺気の飛ばし方をこの戦いの中で会得しはじめよった)
(剣の勝負にこだわらずに、早く決めないと危ないぜ)
〈アルファ〉の忠告を受けた刹那、右腕を切り落とされて受ける事ができないイディオタの死角に、レンヤの剣が唸り迫った。




