イディオタ
【イディオタ】
(イディオタよ。あの若いの、何か決意したようだぜ)
(ああ。儂の偉大さを知って、捨て身の攻撃に打って出る気なんじゃろう)
(何が儂の偉大さだ。片腕を落とされといて、恥ずかしい事を言うな!)
(〈アルファ〉、お前も意地が悪いのぅ)
(融合者がお前じゃ意地も悪くなるぜ。それより、もう許してやっちゃどうだ?)
(馬鹿を言うな! 儂の腕を切り落とした報いは、奴の命で償ってもらうわい!)
(大人気ないな)
(少し隙をつくってやれば、あの若造が奥の手を出してくるじゃろ。それを完膚なきまでに打ち破ってから、叩き殺してくれる!)
イディオタは〈アルファ〉にそう言いながら、若者の剣に自分の剣を合わせてくっついたまま、攻撃の手を緩めずに超至近距離から呪文を繰り出した。
幾つか目の呪文を放った時に、若者の殺意と闘気が膨らんだ。
若者はその殺意と闘気を左腕の短剣に注ぎ込み、イディオタの放った呪文を闘気で輝く短刀の刃で打ち破ると、さらに間合いを詰め、今度は右腕の大刀をイディオタの剣ごと力押しに押してイディオタに襲い掛かってきた。
「ほっほう」
(ここじゃな)
イディオタは若者の攻撃を読んで、若者の剣から己の剣を離して後方に退がると、普段は如何に強力な呪文を放とうとも作らぬ隙を殊更に見せながら呪文を放った。
イディオタの右腕を斬り落とした若者は、イディオタが作った隙に乗せられ、左手の短剣を投げ捨てて両の腕で大剣を握りなおした。そして、その大剣に全ての闘気と殺意を練り注いだ。
若者の煮えたぎり爆発させた殺意が込められた右腕の大剣が、イディオタの放った呪文を飲み込みながら、イディオタの頭上に襲い掛かって来た。
「ぬう!」
イディオタは若者の一撃が、己の想像よりも遙かに強力な事に声を漏らした。だがそれでも、イディオタにとっては児戯の類に等しい程度であった。
左腕に持つ剣で軽く捌くと、新たに呪文を詠唱し、それを放つのではなく、右足に込めて若者の脇腹に直接呪文を蹴り込んだ。
蹴りに乗せて叩き込まれた呪文により、若者の肋は砕け、内蔵もいくつか損傷し、大量の血反吐を吐いた。そして、若者の両の手の剣は、腐った鉄の様に崩れさり、それと同時に若者も地面に崩れ落ちた。
「貴様の様な未熟者の相手など、片手で十分じゃわい!」
イディオタは膝をつきながら何とか立ち上がろうともがいている若者に向かって、右腕を斬り落とされた怒りと共にそう吐き捨てた。
(おいおい。本当にお前は恥ずかしい奴だな……。片手で十分って、奴に斬り落とされて無いだけだろうが。今更余裕を見せても格好が悪いだけだぞ)
(〈アルファ〉よ……、儂の見せ場を一々潰さんでくれ……)




