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戦士の宴  作者: 高橋 連
一章 前編 「殺刃の剣士」
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イディオタ

【イディオタ】


 剣を握ったままの右腕が地面に落ちる前に、イディオタは切断された己の右腕から剣をもぎ取り、驚くべき距離を跳躍して飛び退がった。 

 切り落とされた腕が落ちる音と共に、異国の若者は、老人に向かってさらに追い打ちをかけんと駆けた。

「ちぃっ!」

 イディオタは苛立たしげに若者を睨みながら、切断された右腕を差し出して、有り得べからざる速度で呪文を詠唱した。

 呪文の詠唱が終わると共に、切断された傷口から大量の血飛沫が宙を舞い、そして巨大な人型となった。

「面妖な……」

 イディオタに襲い掛かる若者はそう呟きながらも、その速度を緩める事無く追いすがってきた。

血の巨人はその若者の前に立ちはだかると、流れる血液のように若者の斬撃をいなしながら、時に光り輝く紅玉の様に硬化して若者に襲い掛かった。

(血の巨人か……。只でさえ腕を切られて血を失っているのに、あんなものを出すなんて、お前は阿呆か)

(うるさいわい! あの間合いで出せるのがあれしかなかったんじゃ!)

(大体、お前が余裕をかまして遊んでいるから、あんな若造に腕を切り落とされるのだぞ)

(わかっとるわい! まさか田舎貴族の刺客が、ましてやあんな若造が殺気の刃を具現化させるとは思わなんだのじゃ。〈アルファ〉よ、文句ばかり言わずに何か気の利いた助言はないのか!)

(ない)

(ぬうぅ)

 己の失策を棚に上げて〈アルファ〉を責めたイディオタだったが、それも一刀両断にされ思わず呻きが漏れた。

(イディオタ、来たぞ!)

 若者は、血の巨人の体を形成する核を見極めると、宙に漂う刃の強烈な斬撃でその核を斬り砕いた。核を破壊された血の巨人の体は崩れ、若者はその崩れる巨人の血飛沫を全身に浴びながらも、表情一つ変える事なくイディオタを己の間合いに捕らえようと迫った。

(可愛げの無い若造じゃ!)

 イディオタは若者を上回る速度で駆けより、予想外の動きに戸惑う若者に強烈な一撃を振り降ろした。

 若者は二つの具現化させた刃と右手に持つ刀を合わせ、イディオタの一撃を辛うじて受け止めた。金属がぶつかる高く響く轟音と共に、若者が苦い顔をした。若者の腕に強烈な衝撃が走ったのであろう。

(ほう。受けよったか)

 若者は不利を悟ったのか、一旦退がって間合いを取ろうとしたが、イディオタは若者の剣に己の剣をぴったりくっつけたまま、今度はイディオタが逆に若者の動きに合わせて追いすがった。

 そして、相手の剣を封じながら、至近距離で幾つもの呪文を素早く詠唱し、若者に叩きつけた。


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