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戦士の宴  作者: 高橋 連
一章 前編 「殺刃の剣士」
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レンヤ

【レンヤ】

 

 レンヤを襲うムニサイの刃の動きが、突然鈍った。いや、完全に止まった。そして、そのまま掻き消える様に消滅した。

(ムニサイ様! まさか正気に!?)

 しかし、レンヤの繰り出す刀は、既に止められる段階ではなかった。レンヤの刀は、無防備となったムニサイの背中からその胴を真っ二つに断ち割った。

「ムニサイ様!!」

 ムニサイは斬られた胴から臓物を撒き散らし、光を無くしたその目は恨めしそうに天を仰いでいた。只の肉塊と化したムニサイがレンヤの叫びに答える事は無かった。

(ムニサイ様は最後に正気を取り戻して、俺への刃を止めてくれたのではないか……。それを俺は……。兄上、俺は一体どうすれば……)

 レンヤが心に拭えぬ傷を負い茫然自失の体で立ち尽くしていると、屋敷の奥から煙が立ち込めてきた。どうやら、ムニサイが家人や弟子を殺戮して廻った時に、彼らの手に持っていた蝋燭が落ちて床や壁に燃え移ったようであった。それらは、ほんの僅かな時間で屋敷を覆いつくし、レンヤの居る所にも炎の熱が感じられてきた。

(ムニサイ様、お許し下さい……)

 レンヤは燃え上がる屋敷を脱出し、近くの番所に屋敷が燃えている事を告げると、兄に言われた通り南に向かって落ち延びていった。都を出て数日した頃、己に追っ手が掛かっておらぬ事をレンヤは人の噂で知った。

 どうやら、屋敷に住む家人や弟子の中で、ムニサイの凶刃から逃げ延びた者が数人おり、その者達が「ムニサイ様が乱心し、屋敷中の人間を殺しながら屋敷に火を放った」と証言した為、ムニサイ乱心で事件は片付けられたのだった。行方不明者は全て屋敷の中で斬り殺されたか、燃え死んだ事と成っていた。

 しかし、レンヤはその歩みを止めなかった。己の親とも言うべきムニサイを、最後に正気を取り戻していたかも知れぬムニサイをその手で殺めた心の傷が、レンヤをこの国より出でさせようとしていた。

(兄さん……)

 レンヤは、たった一人の家族である兄を探す為、南より船にて大陸へと渡っていった。

兄を探して大陸を西へと旅する中で、レンヤは心の傷を覆い隠す為に心を殺し、糊口を凌ぐ為に刺客へと身を落とした。

 その後、長い旅路の果てに、新たな家族となるイディオタと出会う事となるのであった。


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