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戦士の宴  作者: 高橋 連
序章 前篇 「建国の英雄王」
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アルベール

【アルベール】


 アルベールは各地を放浪し、打ち続く内乱によって荒れ果てた国土を見てきた。

 各地の領主は己の欲望のままに民から搾取し、奪われ困窮した民は土地を捨て流民となり、それらの流民が野盗と化して更に弱き者を襲った。皆が生きる為に獣となる世であった。

アルベールは統治者である王の無能と世の乱れに嘆き、この国を救い新たな王となるべき人物を探し仕えるべく、放浪の旅を続けていた。そして、その旅の途中、ある地方の街の市にふらりと立ち寄った。

「この街は賑やかだなぁ」

 市には怪しげな物が並び、物乞いや流民、それに到底堅気には見えない者達が大勢居たが、良くも悪くもこの時代に必要な活気に溢れている様に思えた。

 そんな中、市の端の地べたにひっそりと品物を並べる汚れた小男が目に付いた。

「持つ者に知恵と力を授けると言われる伝説の〈賢者の石〉だよ! 今なら大特価だよ!」

 小男が客寄せに叫んでいる言葉はどうせ適当な嘘だろうが、地べたに並べている石の中には綺麗に輝く石も幾つか並んでいた。故郷にいる弟に良い土産になると思ったアルベールは、小男に近づいて尋ねた。

「これって本当にあの伝説の〈賢者の石〉なのかい?」

「ああ、本物じゃ!」

 小男はただの石ころを、臆面もなく伝説に語られる〈賢者の石〉だと言い張った。

「はははははは」

(面白い男だな。身なりからすると生活に困り果て、その辺でみつけた綺麗な石を売っているのだろう。罪のない嘘につき合ってやるのも良かろう)

「じゃあ、一つ貰おうかな」

「おお! 毎度!」

 小男は嬉しそうに返事をして石を包もうとしたが、気に入った石と違う物を包もうとしたので、アルベールは気に入った石を指さした。

「あ、それじゃなくて、その奥に置いてる右側のやつが良いな」

 アルベールがそう言って指さした石は、なんの変哲もない、文字さえ彫っていないただの石ころであった。

「こっちの方が文字が彫ってて、良い物じゃよ!」

(あの不思議な紋様の様な物が刻んだ石も良いけど、こっちの石が妙に気になるんだよな。時折悲しげに輝いている様な……。そんなわけはないか)

「いや、そっちの奥の石の方が綺麗だから、それを貰うよ」

「毎度……」

「ありがとう! 弟に良い土産ができたよ。じゃあ」

 アルベールが石の包みを受け取って背を向けた瞬間、小男から尋常ならざる殺気が迸った。

 この戦乱の世を旅してきたアルベールは命を狙われる事には慣れていた。まるで肩に乗った落ち葉を払うかの如く落ち着いた様子で腰の大剣の留め金を外し、小男に向かって素早く大剣を隙無く構えると、何気ない様子で尋ねた。

「俺の名はアルベール。誰かと間違えちゃいないかい?」

「黒髪のアルベールだろ。間違えてなどおらんわい」

 先ほどまで乞食に見えていた小男が、今はとてつもなく大きく見える程、強烈な殺気が発せられていた。

(こりゃ只者じゃないな。仕方ないか……)

 アルベールは向けられる殺気を押し返すかの様に、殺気のこもった気を放ち返しながら応えた。

「勘違いじゃないなら仕方ない。ここで始めるかい?」

「いや、皆に迷惑が掛かるじゃろうから、よければ場所を変えたいのぅ」

「ははははは。俺もそう思っていた所だよ。話の通じる相手で良かった」

 些かも発する殺気に衰えを見せる事もなく、二人は穏やかに話しながら、街の外れの森へと向かった。

 二人が森の奥深くへと分け入って暫くすると、アルベールの後ろを歩いていた小男が声を掛けてきた。

「そろそろ始めても良いかのう?」

「ああ、いつでも良いよ。黙って後ろから来るかと思ったが、あんた良い奴だな」

 アルベールの返答に、小男は怒りをあらわに怒鳴り返してきた。

「後ろから襲わねば勝てぬ相手なら、躊躇なく不意打ちするわい。儂を見くびるなよ!」

「ははは。そうか、それはすまなかった。それより、やはり止めには出来ないかな?」

「出来ぬ!」

 アルベールは穏やかな笑顔で小男に更に尋ねた。

「それなら、せめて俺の命を狙う理由だけでも教えてくれないか」

 小男はしばし考えながら、ふむという表情で頷きながら話し出した。


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