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戦士の宴  作者: 高橋 連
五章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之五」
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片目

【〈片目〉】


(アーナンドよ、退がれ!)

 バソキヤの言葉に、〈片目〉はユィンから距離を取った。

 瀕死の傷を負い、己の血溜りに横たわっていたユィンの体の中で強烈な魔力と闘気が爆発した。そして、ユィンの体を漆黒の闘気が一気に包み込んだ。

(バソキヤ、奴は一体……。まさか……)

(我等と同じと言いたいのか?)

(あの魔力と闘気の合わさった黒い闘気は……)

 〈片目〉の言葉に、バソキヤは深刻な声音で答えた。

(あの闘気は……確かに我等に似ている……。しかし、あれは……〈奴ら〉の闘気に更に近い……)

(〈奴ら〉!? 〈奴ら〉とは、バソキヤの世界を脅かしている〈奴ら〉の事か?)

 〈片目〉とバソキヤが話す短い間に、ユィンの闘気は質も量もまったく別物に変化していた。その漆黒の闘気の中から、異形の戦士が姿を現した。

 頭部には巨大な角が五本生え聳えており、その肉体は融合変身した〈片目〉をも上回る巨大さであった。全身を漆黒の鎧の様な物が覆っており、それはまるで光を全て吸い込む様な黒い輝きを放ち、かなりの強度を持っていそうに見えた。

(あれは!? あれがユィンか!?)

 〈片目〉の言葉にバソキヤは沈黙していたが、やがて口を開くと短く呟いた。

(やはりな……)

(バソキヤ、やはりとはどういう事だ!?)

(アーナンドよ、奴の全身を包む鎧は、己の骨格に凝縮した闘気を注ぎ込んで強化したものだ)

(骨……? 骨とはどういう事だ?)

 〈片目〉の言葉に、バソキヤは暫し間をおいた後、静かに話し出した。

(俺の世界に侵入してくる〈奴ら〉の話は覚えているか?)

(ああ。全身に鋼の様な羽毛を生やした戦士だと聞いた)

(そうだ。その〈奴ら〉の中に〈骨使い〉という特殊能力を持つ使い手がいる話は覚えているか?)

 バソキヤの言葉に、〈片目〉は異形と化したユィンを改めて凝視した。

(馬鹿な! 奴が〈骨使い〉だとでも言うのか?)

(そうだ。その強度は使い手の技量によるが、ユィンという若者の技量から察するに、相当な強度と見て良いだろう。俺がかつて戦った〈骨使い〉は滅気弾をも弾いた。恐らく、奴にも通じぬであろうな……)

 眼前のユィンを見つめながら押し黙る〈片目〉に、バソキヤは言葉を続けた。

(手練の〈骨使い〉と同等以上の使い手な上、奴は魔導の術にも優れている。はっきり言って勝ち目は無い……。逃げろと言いたい所だが……。言っても聞くまいな……)

(分かっているじゃないか)

(致し方あるまい……。しかし、奴は動かぬな?)

 バソキヤの疑問に、魔力と闘気を循環させて傷を回復させながら〈片目〉が答えた。

(恐らく、こちらの回復を待ってくれているのだろうよ)

(ならばいま暫し回復に専念しろ。俺は魔力を集積する)

(ああ、頼む。奴に何か付入る隙はないのか?)

 〈片目〉の言葉に、バソキヤは自身の戦闘の記憶からあるだけの知識を呼び起こした。

(あの外装に対して半端な術は弾かれる。しかし、奴相手に複雑な詠唱をしながらの戦闘は難しいだろうな。魔力と闘気を一点に集中して骨の外装を叩き、そこに滅気弾を打ち込め。如何に奴とて生身に滅気弾を撃ち込まれれば倒れぬ訳は無い)

(分かった)

 〈片目〉は全身に沸き起こる恐怖と戦っていた。それは心の弱さではなく、生物としての本能が発する警報の様なものであった。しかし、その恐怖と同等以上の感情が〈片目〉の闘志を滾らせていた。

 その感情はヴィンセントに対する使命感なのか、一族に対する責任感なのか、それとも戦士としての闘争心なのかは分からなかった。もしくはそれら全てなのかもしれない。その感情の爆発が〈片目〉に力を与えていた。

(バソキヤ、そろそろ行こうか。向こうも待ちくたびれているだろうしな)

(承知した)

(すまんな……)

 文句一つ言わずに共に戦ってくれる友に、〈片目〉は詫びた。

(ああ、まったくだ。この戦いが終わった後でゆっくりと文句を言わせて貰おう)

(はっはっは、承知した)

(真似をするな! では参ろうか)

(ああ!)

 全身の傷を回復させ大地より魔力を集積し、万全とまで行かないまでも態勢を整えた〈片目〉とバソキヤは、右腕自体を巨大な剣に変化させると巨木の様に待ち受ける強敵に向かって駆けた。

(バソキヤ、このまま正面から行くぞ!)

(承知!)

 〈片目〉は駆けながら呪文を詠唱し始め、詠唱を完成させると一気に魔力を弾けさせた。

それと同時に、駆ける〈片目〉の足元より大地が隆起して巨大な石柱が聳え立ったかと思うと、それは一気に人型に変化し、そのまま〈片目〉と寸分違わぬ姿へと変化した。

 己の姿と同じに変化させた二体の泥人形と共に、〈片目〉はユィンとの距離を駆け詰めて無造作にユィンとの間境いを越え、ユィンを己の間合いへと捕らえた。だが、〈片目〉の間合いは即ちユィンの間合いでもあった。

 〈片目〉が間境いを越えた瞬間、ユィンの腕の刃が異様な音を放ちながら空を切り裂き〈片目〉の頭部に迫った。それはまるで人の死を司る神が振るうと言われる大鎌の様に、〈片目〉の肉体のみならず精神までも恐怖で刈り取る程の圧力であった。


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