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戦士の宴  作者: 高橋 連
五章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之五」
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ユィン

【ユィン】


 ユィンが光球を弾けさせた瞬間、〈片目〉が右肩にめり込んでいた白炎の飛礫を取り出し、その白炎の飛礫を母体にして素早く何か球体らしき物を造り出すと、それを頭上に投げ放った。

(あの球体は赤黒く明滅している様だな。ユィン、どうする?)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは苦笑いを浮かべて答えた。

(もう俺には……打つ手は無い……。ただ見守るだけ……さ……)

(そうだな……。如何に〈片目〉とて、この短時間であの光の雨を防ぐ手立てを持つとは思えん。回復は俺に任せて、お前は休んでいろ)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは瞳を閉じ黙って頷いた。しかし、直ぐにその目を見開く事となった。

(馬鹿な!!)

 ユィンが瞳を閉じた瞬間、炸裂音が響いた。空を見上げたユィンの目に映った光景は、〈片目〉の創り出した赤黒く明滅する球体が次々に爆発しながらその数を増やし、光の雨を吸収していく様であった。

 やがて赤黒く明滅する球体は〈片目〉の頭上に大きく傘の様に広がり、全ての光の雨を吸収して消し去ると、最後は互いをも消し去りあって消滅した。

(ユィン、お前の負けだな)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは苦痛に顔を歪めながら頷いた。己の秘術を全て打ち破られたのだ。認めるしかなかった。

(ああ……)

(ならば、このまま敗北して朽ち果てるか?)

 ユィンは暫し瞳を閉じ考えると、〈オメガ〉に答えた。

(それは出来ない……。致し方ないな……)

 その時、静寂の中、勝利者として立っていた〈片目〉がユィンに言葉を掛けてきた。

「ユィンよ。決着はついた。苦しければ……」

 ユィンは〈片目〉の言葉を遮るように答えた。

「ああ、この勝負は俺の負けだ……。だが、俺は死ぬわけには行かない……」

「ユィンよ、お主程の男が、今更になって命乞いか……」

 ユィンは〈片目〉の言葉に、首を振った。

「〈片目〉よ、すまない……。俺には成さねばならぬ事がある。どうしても死ねぬのだ……」

(ユィン、早く切り替えねば危ないぞ)

(わかった……)

 ユィンは全身の魔力と闘気を活性化させると、それを練り合わせて全身を駆け巡らせた。その魔力と闘気が交じり合ったものは、全身を駆け巡りながらユィンの体を異質なものへと急速に組み替えていった。それと同時に、ユィンの体から漆黒の闘気が溢れ出した。

 それは、〈片目〉が変身時に纏った黒い闘気よりも暗く黒い、夜をも吞み込む闇の様な漆黒の闘気であった。

(同じ日に三度も負けるとは……ついてない一日だ……)

(お前が弱いだけだろ)

 〈オメガ〉の意地の悪い言葉に、一瞬気分を害したユィンであったが、ふと考えると己の未熟さが込み上げた。

(そうだな……苦労をかけて済まぬ……)

(お前は本当に大馬鹿だな……。まあ、そこを気に入ってるんだがな)

 〈オメガ〉はそう言うと、ユィンとの融合率を一気に上げた。そして、ユィンの体が別の物に組み変わる度に、ユィンの心の中に異質な波動が波打ったが、今のユィンの心を乱す事は無かった。ユィンの心は波一つ無い水面の様に、穏やかで涼やかにその静寂を保ち続けていた。

(ユィン、イディオタの言葉を忘れるなよ。これは呪われた力ではない。人間の可能性を示す素晴らしい力なのだ)

 暫しの沈黙の後、完全に異形の戦士と化したユィンは、微かに笑いながら答えた。

(ああ、そうだな……)


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