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戦士の宴  作者: 高橋 連
五章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之五」
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片目

【片目】


 ユィンの頭部を狙って放った疾風の槍をユィンが避けた所に、〈片目〉は三本の疾風の槍を放った。一本はユィンの背後より心の臓を、二本目はユィンの右側面より頭部を、三本目はユィンの正面より腹部を狙って放った。

 ユィンはそれら三本の疾風の槍を、一本目を右腕で弾き、二本目を右脚で蹴り弾き、三本目は体を回転させて避けた。だが、最後の三本目の疾風の槍を避けた時に、僅かにだが隙が生じたかに見えた。

(アーナンド、出るなよ)

 バソキヤの言葉に、〈片目〉は苛立たしげに答えた。

(分かっている!)

 〈片目〉は内心、ユィンの隙を突いて一気に決めに掛かりたかったが、バソキヤの忠告に従って安全策をとった。自身は後方に退がって距離を取りつつ、新たな疾風の槍三本をユィンに向かって投げ放った。

 隙を見せていたユィンだが、新たな疾風の槍が迫ると、またもその姿を掻き消して遥か後方に移動していた。

(転移の術に間違いなかろうな。だが、一体どうやって……)

(相手もお前の結界に攻めあぐねている様だ。この時を無駄にせず、転移の術の仕掛けを探るぞ。探査は俺に任せて、お前は奴から眼を離すな)

(分かった。頼む)

 〈片目〉はバソキヤの言葉に頷くと、距離を取って動かぬユィンを警戒しながら、幾つか呪文を唱えて足の裏より地中に植物の根の様な触手を伸ばした。〈片目〉はその周囲に巡らせた触手で周りの大地にくまなく魔力探知を掛けた。

 〈片目〉の伸ばした触手は大地の魔力を吸いながら急速に成長し、〈片目〉の周囲を広範囲に渡って探索範囲内に収めた。そして、微細な魔力の流れをも逃さぬように、バソキヤが細心の注意を以て魔力探知を始めた。その時、暫し動かずに立ち尽くしていたユィンに、新たな動きが見られた。

(バソキヤ! 奴が動く様だ)

 ユィンは魔力と闘気を高めると、大地に魔法陣を描きながら何やら両手を動かして不思議な動作を繰り返していた。更には、呪文の詠唱を始めた様であった。

(何か呪文を唱える気だな。バソキヤ、探査の方はどうだ?)

 〈片目〉の言葉に、バソキヤが静かに答えた。

(転移の術の仕掛けは見つけた。いまその術式の解析中だ。しばし……集中する……必要がある……。意識を……切る……ぞ……)

 そう言うと、バソキヤの意識が〈片目〉の中で消えた。消えるというよりも、存在が弱くなったと言う方が正しいであろう。

 転移の術の探索をバソキヤに任せた〈片目〉は、ユィンの仕掛けてくる術を注視した。ユィンの両の手の不思議な動作が止むと、魔法陣に膨大な魔力が注ぎ込まれ、ユィンが組上げた術式が発動した。

 魔法陣から二つの巨大な火炎球が出現したかと思うと、すぐにその巨大な火炎球二つは融合し、先程よりは大分と小さな白く輝く火炎球へと変化した。

(あれは……)

 〈片目〉がその術を見極めようと注視していると、さらにその白い火炎球が変化した。ユィンがまたも両の手で不思議な動作をとると、それに呼応するかの様に弾け、無数の小さな白い炎の飛礫になり、ユィンの体の周囲を超高速で縦横に回転し始めた。ユィンは体の周囲を縦横に回転する無数の白い火炎を纏いながら、〈片目〉に向かって駆け出した。

(あの白炎の飛礫……。あの白い炎の具合から察するに、凄まじい超高熱であろうな。それをあれだけの数を制御するとは……)

 〈片目〉の額から、冷たい汗が流れた。

 超高熱の無数の白炎の飛礫を纏って迫るユィンは、距離を半分ほど詰めた所で、またも転移の術によってその姿を掻き消すと、突然〈片目〉の目の前に現れた。

〈片目〉は何とかその動きに反応して数歩退がると、ユィンを狙って四本の疾風の槍を放った。しかし、ユィンに放った四本の疾風の槍は、周囲を回転する白い火炎の飛礫に阻止され、対消滅した。

 そして、新たな疾風の槍がユィンを襲う前に、ユィンの周囲から飛び放たれた白炎の飛礫が〈片目〉に襲い掛かった。それを疾風の槍で防いだ〈片目〉に、更に別の白炎の飛礫が襲い掛かった。それは完全な死角からの攻撃であったが、〈片目〉は、辛うじてそれを避けると、疾風の槍をぶつけて対消滅させた。

(一体どこから!?)

 〈片目〉はユィンの動きに注視しており、転移の術で死角に回り込んだ形跡は無かった。しかし、あの白炎の飛礫は確かに〈片目〉の死角から襲い迫った。その時、〈片目〉の中にバソキヤの意識が戻った。

(あれはお主の戦輪の次元通路を利用して放たれたものだ)

(バソキヤ、戻ったのか! 俺の次元通路を利用してとは!?)

 バソキヤは〈片目〉の質問に怒号で答えた。

(それは後だ! 来るぞ! 防げ!)

 ユィンは〈片目〉の結界内に留まって〈片目〉に肉迫すると、〈片目〉の放つ疾風の槍を、己の周囲を回転する白炎の飛礫で対消滅させながら、その白炎の飛礫をまたも〈片目〉の死角より狙い放ってきた。

〈片目〉はそれを避けると、ユィンの動きやその周囲の白炎の飛礫の動きに意識を集中し、ユィンの白炎の飛礫を逆に疾風の槍で対消滅させながら、自身も戦輪の次元通路を使って疾風の槍をユィンに狙い放ち反撃した。

 今や数歩間合いを詰めればお互いの間境を越える程に接近しながら、二人は互いの術で創り出した飛翔物をぶつけ合い、熾烈な攻防を繰り返していた。

(アーナンドよ、集中を途切れさせること無く聞け!)

 無言の〈片目〉に、バソキヤは言葉を続けた。

(奴は戦輪の次元通路を利用してお主の死角から白炎の飛礫を飛ばしているのだ。今はどうやったかは考えるな。奴の魔術の知識と技術は我等の知る領域よりも遥か高みにあるというだけだ。それよりも、転移の仕掛けを解析した。奴を追い込んで、もう一度転移の術を使わせるのだ。そうすれば転移の術の仕掛けを全て破壊できる)

 〈片目〉はそのバソキヤの言葉に何の反応も示さなかったが、その後の猛攻でバソキヤの意図を了解した証とした。

(では今一度意識を切るぞ。次に意識を……戻す時は……奴の転移の術を破壊した時だ……) 

 〈片目〉はユィンの放つ白炎の飛礫を防ぎ避ける動作が僅かずつだが遅れる様になり、致命傷ではないが白炎の飛礫によって傷を受けるようになっていた。しかしその分、ユィンに放つ疾風の槍の数は倍以上に増えていた。そして、ユィンの白炎の飛礫が〈片目〉を捉える前に、〈片目〉の疾風の槍がユィンを捕らえた。

 疾風の槍がユィンの心の臓を貫こうとした瞬間、ユィンの体が掻き消え、疾風の槍は虚しく空を貫いた。その時、〈片目〉の頭の中にバソキヤの声が響き渡った。

(アーナンドよ、小僧の翼はもがれた。疾風の槍を叩き込んでやれ!)


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