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戦士の宴  作者: 高橋 連
五章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之五」
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片目

【片目】


 〈片目〉は、目の前のユィンに対して畏怖の念を抱き始めていた。

 今までに出会った事が無いほどの強敵であった〈刀鍛冶〉でさえ、バソキヤと融合した姿になってからは敵ではなかった。だが、この黒髪の青年は変身した〈片目〉のみならず、闘神像三体をも相手にして互角に渡り合っている。

(バソキヤよ、お主の言うとおりであったな)

(どういう意味だ?)

 〈片目〉は問い返すバソキヤに答えた。

(この戦いの前にお主は言ったではないか。イディオタ伯には手を出すなと。お主と融合した姿に変じてなお、弟子であるこの青年にさえてこずると言うのに、その師であるイディオタ伯に敵うはずがない……。世間は広い、広すぎる……)

(目前の敵以外の事を考えるとはお主らしくも無い。あの小僧は未だ呪文の詠唱を止めてはおらぬぞ。発動させて良いのか?)

 バソキヤの言葉に〈片目〉は笑って答えた。

(はははははは。そうだな。今は奴を倒すだけだな。如何に奴ほどの手練であろうと、呪文の発動時には必ず僅かでも隙が生まれる。そこを突いて闘神像を仕掛ける)

(成る程な。では、少し手を緩めて呪文を完成させるか?)

 バソキヤの問いに、〈片目〉は意地悪そうに笑った。

(はっ、俺はそんなにお人好しじゃないさ。近接戦闘の最中に術式を組上げて発動させるのは骨が折れる。先程の炎の矢や氷の矢の様な呪文でも相当神経を磨り減らすと言うのに、今奴が唱えている様な高度な術式を組上げるなど、気が狂いそうになる。奴には精々苦労してもらうさ)

 〈片目〉はそう応えながら、全身に魔力と闘気を巡らせ、それを練り合わせて大剣と化した右腕に集中した。その大剣から繰り出される斬撃の威力は、受ける者の腕を震わせ、骨を軋ませる事であろう。空気を切り裂く凄まじい音と共に、〈片目〉は強化した右腕の連撃をユィンへと繰り出した。

(アーナンドよ、奴の周囲に魔力が集まりだしたぞ!)

 バソキヤの言葉に、〈片目〉も目を細めてユィンを見つめた。

(ちっ! 大した奴だ。俺の攻撃を凌ぎながら呪文を組上げやがった)

 ユィンの頭上に巨大な黒光りする球体が現れたかと思うと、それは一気に無数の黒い飛礫へと姿を変えた。

(よし、最初の手筈通り、一旦退がって闘神像を前に出す!)

 〈片目〉はそう言うと、少し後方に飛び退がってユィンとの距離を取ると、三体の闘神像を前に出してユィンに襲い掛からせた。その刹那、ユィンの頭上にあった無数の黒い飛礫が弾けて、周囲へと雨の様に降り注いだ。

(来たぞ!)

 バソキヤの怒号を聞くまでも無く、〈片目〉は雨霰と降りそそいで襲いかかる無数の黒い飛礫を右腕で受け弾いた。その黒い飛礫は恐るべき速度で飛来し、〈片目〉でさえ全てを受ける事は出来ずに僅かだが被弾した。ましてや、遠隔操作の闘神像に受けきれる物ではなかった。

無数の黒い飛礫をその頭部と胸部に受けた三体の闘神像は、頭頂部から胸の辺りまで両断される様に割れ、その後砕け折れて地面に転がった。

(アーナンド、被害は!?)

(大丈夫だ! 何発かはくらったが、硬質化した皮膚に防具を取り込んだこの装甲を貫く程の威力は無かったようだ)

 〈片目〉の応えに、バソキヤは訝しげに言葉を発した。

(確かに数と速度はかなりのものであったが、あれ程の魔力と詠唱を要したわりに威力が伴わぬな……)

(バソキヤ、今はそれを気にしている暇は無い! 闘神像が崩れたと思い気が緩んでいる奴の隙を突くぞ!)

(承知!)

 〈片目〉は黒い飛礫によって傷を負ったと見せかけ、更に後方に退がってユィンの油断を誘うと、砕けて地面に転がる闘神像に魔力を飛ばして闘神像に仕掛けた術式を発動させた。

 〈片目〉の魔力を受けた闘神像の残骸は、その六本の腕を撓る鞭の様に伸ばすと、呪文発動と闘神像破壊の油断があったユィンの隙を突いてその身に絡みついた。

三体の闘神像から伸びた合計十八本の腕はユィンに絡みつくと、砕けた闘神像の胴体部から根元が切り離され、更にその根元の先を地面に伸ばし始めた。

(掛かったな。この術に掛かったならば、奴にはもう抜け出す手段は無い)

 バソキヤの言葉に、〈片目〉が問い返した。

(だが、バソキヤ、お主はこの術を破ったのではないのか?)

 〈片目〉の言葉に、バソキヤは苦笑しながら答えた。

(あれは破ったと言える様なものではない。捨て身の術にて抜け出しはしたが、それでもアーユルには敵わなんだ。それ、話している内に周囲に魔法陣を形成し始めたぞ)

 それを見た〈片目〉は構えを解いて呟いた。

(終わったな……)


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