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戦士の宴  作者: 高橋 連
五章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之五」
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ユィン

【ユィン】

 

 大地から隆起した石柱を蹴り飛んで襲い掛かる〈片目〉の斬撃を、ユィンは両肘から突起させた骨の刃で受け流しながら様子を見ていた。

(ユィンよ、奴のあの姿をどうみる?)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは異形の戦士と化して襲い掛かる〈片目〉の攻撃を受け流しながら、落ち着いた様子で答えた。

(俺の変化した姿とは少し違うようだな。しかし、あの頭部の巨大な角は、俺の角と同じく魔力を集積する器官の様だし、見た目以上に、根本的な部分ではかなり共通する部分があるのかもしれん……。だが、あの右腕を変化させた剣は俺の物とは構造がまったく違うな……)

(どうする? あいつ石柱を蹴り飛びながら、何か狙っているようだぞ)

(こちらは時が経てば経つほど仲間を逃がせるのだ。あせらずに様子を見るさ。奴とその中に居る者について知りたいんだ。〈賢者の石〉でもない様だしな……)

 ユィンの答えに、〈オメガ〉が忠告した。

(あの姿から察するに、〈銀の槍〉かそれ以上の相手だぞ。あまり舐めて掛かると大怪我するぞ)

(ああ、気をつけるよ)

 その時、四方の石柱から術式が発動し、周囲を結界で包み込んだ。それと同時に、他の石柱が粉々に、文字通り砂よりも小さな粉末の様な粒子にまで砕け崩れた。その崩れた細かい粒子が結界内に舞い上がり、視界を塞いだ。

(これは!?)

(粉を舞い上がらせて留める為の空間を創る為の結界であろう。それよりも……)

 〈オメガ〉が言葉を言い終わらぬうちに、頭上より〈片目〉が襲い掛かってきた。

(ちいっ!)

(馬鹿野郎! 直ぐに全身を鎧で……)

 ユィンは視界を遮られながらも、結界内の舞い上がる粒子の流れや〈片目〉の僅かな気配で頭上よりの一撃を察知し、両腕の骨の刃を交差させて受け止めた。その瞬間、〈オメガ〉の怒号を掻き消す爆音と爆炎が湧き起こり、結界内を凄まじい熱と爆風が暴れまわった。

 高温の熱と爆風は荒ぶる炎の大蛇と化し、ユィンの体を焼き尽くそうと巻きついた。ユィンの皮膚が焼け、肉が高温の大蛇に喰われ様とした瞬間、ユィンの全身を驚異的な魔力と闘気が駆け巡った。それは全身の骨髄に染み渡り、一瞬にして各所の骨を強靭な漆黒の鎧へと変化させてユィンの全身を覆い尽くした。それと共に、全身の細胞が再生を始めた。

 結界内の炎が晴れた時、ユィンは重度の火傷を追いながらも、その身を全うしていた。

(ユィン! 魔力を全て再生へと振り向けろ!)

 〈オメガ〉の怒号に、ユィンは薄れる意識を火傷の激痛によって覚醒させながら、弱々しくも揺るがぬ意志を込めた声で答えた。

(いや……、再生は〈オメガ〉の機能で行ってくれ……。俺は呪文の詠唱に……集中する。全魔力……でな……)

 数瞬〈オメガ〉は躊躇ったが、ユィンの説得を諦めた。

(わかった。俺は再生に専念する。奴に一発かましてやれ)

(ああ。それより、さっきは魔力の動きを僅かにも感じなかったが……。あの炎の術は一体?)

 ユィンの言葉に、〈オメガ〉が答えた。

(魔力によって幾分かは爆発の威力を増してはいるのであろうが、あれは魔導の業ではない)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは詠唱をしながら更に問うた。

(魔導の業では無いならば、一体?)

(あれは粉塵爆発といってな、詳しい原理は後で説明してやるが、可燃性粒子が充満する空間で火花が散ると、連鎖的に燃え広がり爆発を起こすという原理を利用したものだ)

 〈オメガ〉は更に言葉を続けた。

(恐らく、通常は結界内に敵を閉じ込めて仕掛けるのだろう。だが、敵はお前を確実に仕留めるために、自ら結界内にてお前の動きを封じながら着火役となったのであろう。変化した肉体の強度差を利用しての捨て身の仕掛けだ。まあ、それだけ奴もお前を恐れていると言う事だな)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは幾分か怒りを和らげた様子であった。そして、目の前の強敵との戦いを更に楽しく感じる様になっていた。

(ははははははは! 世界は広いな、〈オメガ〉!)

(ユィン、詠唱はまだか? 火傷が酷くて直ぐには全快とはいかぬが、立てる程には再生が完了したぞ)

 〈オメガ〉の言葉に、ユィンは立ち上がりながら答えた。

(済まない。こっちはもう少し掛かりそうだ)

(おいおい! 敵はもう詠唱を終えそうだぞ)

 〈オメガ〉がそう言うやいなや、〈片目〉は詠唱を完成させて周囲に三体の巨大な石像を出現させた。その石像は、三面の顔と六本の腕を持っており、それぞれの顔と腕は違う色をしていた。一組の顔と腕は赤色、もう一組は青色、残りの一組は茶色をしていた。

(あれは闘神の石像か。こんな西の果ての国で闘神像が拝めるとはありがたや)

 ユィンは呪文の詠唱補助の為に組んでいた両手の印を解き、〈片目〉の創りだした闘神像を拝んだ。それに対し〈オメガ〉の怒号が飛んだ。

(大馬鹿野郎! 敵の眼前で手を止める馬鹿が何処にいやがる!)

 〈オメガ〉の怒号が合図であるかの様に、〈片目〉が新たな呪文を口ずさみながら、またも大地を蹴り割って襲い掛かってきた。今度は三体の石像と共に。

(ユィン! 凌げるか!?)

(仕方ない。一旦迎え撃つ)

 ユィンはそう言うと、今まで唱えていた呪文の詠唱を続けながら、左手で右手とは別の印を組みながら、大地に両足で魔法陣を描いた。

(どうする気だ?)

(火炎で熱し、その後冷やして叩き壊してやる)

(ふむ。まあ良かろう)

 ユィンの答えに満足したのか、〈オメガ〉は再生作業に集中した。ユィンは左手の印を組上げて魔法陣を発動させ、幾本もの炎の矢を出現させると闘神像に向かって放った。その炎の矢を放つと同時に、今度は氷の矢を創りだし、続け様にそれも闘神像に向かって狙い放った。

(来るぞ!)

 〈オメガ〉の怒号から数瞬後、〈片目〉の巨大な剣と化した右腕が襲い掛かってきた。ユィンはそれを左手の骨の刃で受け流すと、地を蹴って後方に飛び退がって距離をとった。しかし、〈片目〉の動きはユィンのそれを上回り、まるで糊で貼り付けられたかの様にぴったりとユィンの動きに合わせて追いすがって来た。

(ユィン! あれを見ろ!)

(そんな余裕があるか! 詠唱しながらこいつを凌ぐので手一杯だ)

 〈オメガ〉にそう答えたユィンの視界に、否が応でもその映像が目に入った。

 ユィンが放った炎の矢を闘神像は赤い腕で受けて吸収し、今度は氷の矢を青い腕で受け止めると、それも吸収したのだった。

(馬鹿な! あの闘神像は炎系の魔力と水系の魔力が込められているというのか?)

(恐らくな。そうなれば、あの茶色の腕にも何がしかの違う系統の魔力が込められているのだろう。多分土系だろうな)

 〈オメガ〉の言葉に返事をする余裕はユィンには無かった。追いすがる〈片目〉が尋常ならざる速度と圧力の斬撃をユィンに浴びせかけていたのだ。それに全力で対応できるならばまだしも、呪文を詠唱し更には片手で印を組みながらでは、さすがにユィンでも荷が重かった。

(ユィン、早くしろ! あの闘神像までもきやがったぞ!)

 ユィンの放った炎と氷の矢を悉く吸収した闘神像は、その巨体で大地を揺らしながら、ユィンに迫ろうとしていた。

(〈オメガ〉、放つぞ!)

(やっとかよ)

 ユィンの言葉に〈オメガ〉はそう言うと、魔力の循環増幅を補助し、ユィンの練り上げた魔力と闘気を爆発させて術式に流し込んだ。

ユィンが苦労して組上げた術式に魔力が流し込まれて発動すると、ユィンの周囲の大地から黒い塵の様な物が舞い上がり、やがてそれはユィンの頭上で一つに集まると、黒光りする硬質の巨大な球体となった。そして、ユィンが両腕を頭上に掲げると、その巨大な黒い球体は無数の小さな黒い飛礫へと分裂した。

(発動してからも時間がかかるな。一体その術は何の術だ? 凄まじい魔力を消費して創りだした所をみると、大分強力な術のようだが、敵に当たらなければ意味が無いぞ)

 〈オメガ〉の言葉の通り、〈片目〉は術の発動を警戒して一歩下がり、前面に闘神像を押し出して襲い掛かろうとしていた。

(まあ、見ていろよ)

 ユィンは最後に幾つか呪文を詠唱し、魔力を弾けさせた。それと同時に、頭上の黒い飛礫も凄まじい速度で弾け飛んだ。それはまるで黒い雨の様に〈片目〉と闘神像に降り注いだ。

 その黒い雨と化した黒い飛礫を、〈片目〉も闘神像も避け弾いたが、全てを避け弾けるものではなかった。

 〈片目〉と三体の闘神像は次第に黒い飛礫を受けきれなくなり、やがて被弾する様になった。黒い飛礫は〈片目〉の黒い鎧を貫通する事は出来なかったが、闘神像の胴体は貫き粉々に打ち砕いた。


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