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戦士の宴  作者: 高橋 連
一章 前編 「殺刃の剣士」
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レンヤ

【レンヤ】

 

 レンヤの頭上に迫った刀は、身をかわす事も、刀を抜いて受ける事も既に叶わぬ間合いへと入っていた。ムニサイの撃ち降ろした刀がレンヤの頭部を砕こうとした時、レンヤの瞳に凄まじい殺気が宿った。

(受けろっ!)

 レンヤは闘気を瞬間的に爆発させると研ぎ澄ました殺気と混ぜ合わせて、己の頭上に一本の刃を出現させた。

その宙に浮く刃を操り、レンヤはムニサイの刀を受け防いだ。金属と岩がぶつかったような甲高くも籠もった様な衝撃音が響き、ムニサイの左手に持った刀の刀身は粉々に割れ砕けた。

 刀を失ったとはいえその眼に狂気の光を宿したムニサイを警戒し、レンヤはすぐさま後方に飛び退がって間合いを取ると、腰に差した刀を抜いて右手に構えた。そして、眼前のムニサイの動きに全神経を集中し、追撃に備えた。

 しかし、ムニサイは傷が思ったよりも深手なのか、それとも刀を失った事により戦意を喪失したのかは分からなかったが、その場に立ち尽くして動かなかった。だが、更に狂気の光を宿らせた瞳でレンヤを見つめると、消えるようなか細い小さな声で呟いた。

「貴様も……無刀……を……!」

 一瞬、ムニサイの顔に怒りの感情が表れた様に見えたが、それはすぐに消え、今度は晴れやかな笑顔と共に、声を上げて哄笑した。

「ふはははっ……、ふはははははははははははは!」

 レンヤはその様子に、乱心したムニサイが正気を取り戻したのかと一瞬思ったが、その考えは直ぐに消えた。晴れやかに声を上げて笑うムニサイの瞳に、怪しい光が見えたからだ。

(ムニサイ様……)

 ムニサイはひとしきり笑うと、今度は空気を震わす様な声無き雄叫びを上げながら、地を蹴り宙を飛び、まるで怪鳥の様にレンヤに襲い掛かってきた。

ムニサイは宙を翔ける様に跳躍しながら左手には折れた剣を握り締め、体の周囲に宙を漂う刃を四本具現化させて左右に二本ずつ配置すると、それらを操りレンヤに強烈な斬撃を浴びせて来た。

(五本の刃か!)

 レンヤは直ぐに闘気と殺気を練り合わせる様にして更に二本の刃を具現化させると、右手に持つ刀と最初に具現化させた刃と、合わせて四本の刃でムニサイの斬撃を迎え撃った。

最初の斬撃を受け弾くと、ムニサイは見た事も無い特異な足捌きでその身を回転させながら、宙に浮く刃を己の周囲に配置し、今度は巨大な刃の独楽と化してレンヤに襲い掛かってきた。

 五本の刃が、まるで数十本の刃と化したかの様な連撃に、レンヤの四本の刃では防ぐ事すらままならなかった。

天性の勘と並外れた身体能力だけを頼りに、ムニサイの連撃を受け、流し、かわしと凌いでいたが、やがて徐々にその身に届く斬撃が増え、全身を紅く染め始めた。そして暫らくすると、レンヤはムニサイの連撃を急所から外す事で精一杯となっていた。

(大分と……血を失ってしまった。このままでは……)

 深手を避けているとはいえ、満身傷を負って血塗れとなったレンヤは、出血による消耗と刃を三本も具現化する疲労を冷静に分析した。己の読みでは、あと良くて二撃打ち込むのが精一杯と言う所であろう。だが、それでもレンヤの心の中に、諦めと言う文字は浮かばなかった。

ムニサイの連撃から急所を外して逃げ惑いながら、必死に魂が発する剣士としての叫びを拾って、この危機を脱しようと模索していた。その時、まだ幼く刀を上手く握れぬ頃にムニサイに聞かされた言葉が脳裏に浮かんだ。

(彼の不利に己の利を以て当たれば百戦百勝危うからず、か……)

 レンヤは何かを吹っ切った様に笑みを浮かべると、全ての闘気を己の右手に持つ刀に注ぎ込んだ。そして、三本の刃を操って、ムニサイの連撃から逃げるのではなく、懐に飛び込んで迎え挑んだ。

 縦に横にと、縦横無尽に回転し五本の刃で襲いくるムニサイの連撃を、レンヤはムニサイの間合いに飛び込んで三本の具現化した刃で受け止めた。その瞬間、三本の刃はムニサイの操る刃に打ち砕かれて、辺りに舞い散った。

「ふはははははは! 小僧よ、終わりだ!」

 それを見たムニサイは高らかに嘲り笑うと、四本の刃を操りレンヤに襲い掛からせた。

(今の俺には、三本もの刃を具現化させて操るのは無理だったのだ。なればこの手に握る一本の刃と身ごなしこそが俺の利だ。そして、回転し多くの刃を操るが故に、それを掻い潜った時にはムニサイ様の身は無防備となる。即ち、それこそが彼の不利。彼の不利に己の利を以て当たれば百戦百勝危うからず!!ムニサイ様、貴方の教えです!)

 レンヤは薄く弱くした己の具現化した刃を、ムニサイの刃を引き付け受け流すと共にわざと砕かせて周囲の中空にその破片を舞わせ、それを足場としてムニサイの懐に飛び込んだのだった。

「小僧っ! 舐めるなっ!!」

 懐に潜り込んだレンヤに向かって、ムニサイはすぐさま四本の刃を操り襲わせながら、左手に握る刀を振るってレンヤの着地を狙い斬った。

(一本の刃こそ己が利!!)

 レンヤは心の中で己の決意を叫びながら、全ての闘気を込めて何物をも断つ程に強化した右手の刀で襲いくる刃の一本を打ち砕いた。

(我が身こそ己が利!!)

 そして、砕いたムニサイの刃の破片を足場とし、更に空中で飛び翔けてムニサイの背後に廻りこむと、完全な死角から渾身の一撃を撃ち込んだ。

「シャァッー!」

 しかし、その瞬間、ムニサイの口から空気を噴出すような唸り声が漏れ、レンヤの眼前、ムニサイの背後に新たな宙空に浮かぶ刃が現れ、撃ち込むレンヤの首筋を狙って宙を翔けた。

ムニサイの新たに具現化させた刃が風を切って己の首を落とさんと迫る音が、レンヤの耳に聞えた。

 腕を振って刀を撃ち込むのと、刃のみ操って撃ち込む所作の差が、致命的な差となった。腕の振りが無い分ムニサイの操る刃の方が、瞬き一つする程の僅かな時間であったが、レンヤの振る刀より速かった。


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