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戦士の宴  作者: 高橋 連
五章 前編 「双魂の魔人」
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バソキヤ

【バソキヤ】


 バソキヤは〈奴ら〉の侵入によって〈転移門〉が発見された場所に着くと、周囲を警戒していた配下の者達に声をかけた。

「異常は無いか?」

「はっ! 異常ありません!」

 バソキヤは配下の者の声に頷くと、〈転移門〉が発見された場所の周囲を見渡した。

 そこは木々が鬱蒼と生茂る森の中の小高い丘だった。

 何本もの木々が根元から掘り起こされた様に薙ぎ倒されており、木々が倒れている中央辺りの大地が椀の様に大きく抉れていた。その巨大な窪地の底部に、複雑な魔導術式が掘り込まれた巨石の表面が姿を現していた。

 恐らく、〈奴ら〉が〈転移門〉を発動させて転移してきた時に、地中深く埋もれていたこちらの世界の〈転移門〉が大地と木々を吹き飛ばしたのであろう。

 〈転移門〉の周囲には篝火が焚かれており、その炎の光に照らされて、〈転移門〉の表面に掘り込まれた魔導術式の陰影が揺らめいていた。バソキヤは〈転移門〉を確認すると、無造作に窪地に降りて行き、〈転移門〉の中央に埋め込まれている丸い石の様な物に触れた。

 〈転移門〉は門と呼ばれているが、実際の形は様々であり、門の様な形状では決してなかった。

 〈転移門〉を運用する時は操作する者自身の魔力を注ぎ込んで起動させ、その後に〈転移門〉に掘り込まれた魔導術式の一つによって魔力を集積させて発動させる為、魔力探知によっては発見できなかった。

また、〈転移門〉には定まった形状は無く、通常は大きな自然石、つまり大きな岩の塊や山中の岩肌の表面に魔導術式を無造作に掘り込み、その中央に魔導術式を制御する制御石を嵌め込んだだけの造りの為、長い年月によって土埃や植物によって表面が覆われてしまうと、埋もれた〈転移門〉を発見するのは困難を極めた。

 だが、余りに長い年月は、〈転移門〉の魔導術式や制御石を風化させたり、〈転移門〉自体が破壊され、起動できる〈転移門〉が残っている事自体が極めて珍しかった。しかし、決して生き残っている〈転移門〉が無いわけではなかった。その為に今回のような悲劇がおき、バソキヤの様な任務を背負った戦士と呼ばれる者が必要であったのだった。

 バソキヤが己の魔力を〈転移門〉の制御石に注ぎ込むと、周囲に掘り込まれた魔導術式が淡い光を発し、〈転移門〉が起動した。

バソキヤが制御石を操作すると、〈転移門〉に刻まれた術式の一つが輝きだし、魔力の集積を始めた。

(この程度溜まれば、俺一人転移するには十分だろう)

 暫くすると、バソキヤは制御石を操作して、幾つかの術式起動の設定を済ませると、周囲で〈転移門〉を警備している配下の者達に声をかけた。

「俺は今より向こう側の〈転移門〉を破壊すべく、〈奴ら〉の世界へと飛ぶ」

「バソキヤ様!」

「騒ぐな!」

 バソキヤは動揺する配下の者達を一括すると、穏やかに話し出した。

「これは戦士として生まれた者の定めだ。過去の偉大な戦士達先達の尊い戦いによって、今我らは生きているのだ。今こそ俺も務めを果たさねばならない。わかるな……」

「はっ……」

 バソキヤの配下の者達は、跪いてバソキヤに頭を垂れた。

「では今より参る! この〈転移門〉は俺が飛んだ後に魔力暴走によって自壊する様に設定してある。お前達は〈転移門〉の自壊を見届け、その破片を打ち砕き一片の欠片も残すな。良いな!」

「ははっ!」

 バソキヤは周囲の配下達を見回すと、制御石に右の掌をあてた。それと同時に、〈転移門〉全体が目映い程に輝きだし、やがてその光はバソキヤを包み込んだかと思うと、一瞬にしてバソキヤと共に消え去った。


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