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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之四」
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ジョルジュ

【ジョルジュ】


 〈竜殺し〉との激戦から暫らく後、山道砦に到着した近衛軍本隊に救出されたジョルジュは、野戦幕舎の中で目を覚ました。

「ここは……」

(おい、ジョルジュよ。俺を覚えているか?)

 〈シグマ〉の言葉に、ジョルジュは虚ろげに名を口にした。

「〈シグマ〉か……?」

(馬鹿野郎! 声に出すな。周囲の者に怪しまれるだろうが。戦いの事を憶えているか?) 

 その時、幕舎の中で作業をしていた医療兵が、意識を回復したジョルジュに気がついた。

「ジョルジュ大尉殿、気づかれましたか! そのまま横になっていて下さい」

 医療兵はそう言うと、幕舎を急いで出ていった。

(人を呼びにいったか。時間がない。記憶は大丈夫か?)

 ジョルジュは混乱する記憶を確かめる様にしながら、〈シグマ〉に答えた。

(ああ……。覚えている。クロードとエミールを死なせてしまったな……)

(〈竜殺し〉の事は憶えているか?)

 〈シグマ〉の問いにジョルジュが答え様とした時、幕舎に〈片目〉が入ってきた。

(俺の事は黙っていろよ)

 〈シグマ〉の言葉に、ジョルジュは一瞬迷った。兄以上の存在である〈片目〉に隠し事をするのに引け目を感じたのだ。だが、〈シグマ〉の事を上手く説明出来ないであろう自分を想像し、〈シグマ〉の言葉に従った。

(わかった……)

「ジョルジュ、心配したぞ……。だが、無事で良かった。しかし、凄い回復力だな。医療兵も驚いていたぞ」

 ジョルジュは〈片目〉の顔を見ると起きあがろうとしたが、〈片目〉によって制止された。

「寝ていろ! 傷口は全て塞がっているとはいえ無理をするな! お前の活躍で山道の砦は落ち、後は山頂の城館まで遮る物はない。後は任せて、お前はここでゆっくりしていろ」

 ジョルジュは〈片目〉の言葉に従って横になったが、横になりながらも山道の砦での戦いについて報告をした。

「〈竜殺し〉の魔術は凄まじく、歩兵に大きな被害が出たので〈騎操兵〉以外は退がらせ、〈竜殺し〉には〈騎操兵〉三機で挑みました」

「なるほどな……。良い判断だ。では、〈竜殺し〉も部下の兵を逃す為に、一人でお前達を迎え撃ったと言う事か?」

 〈片目〉の言葉に、ジョルジュは頷いた。

「そうです。その戦いでクロードとエミールは〈竜殺し〉に討たれ、私も深手を負いましたが、奴にも致命傷をあたえました。それで、最後を悟った〈竜殺し〉は山道の砦に籠もり、自爆したのです……」

 ジョルジュはそう言うと、しばし宙を見つめて言葉を止めた。今己が口に出した光景が、頭の何処にも浮かばない事に混乱したのだ。その混乱を察した〈シグマ〉は、戦いの後にジョルジュに施した記憶操作を確かめるべく、ジョルジュにもう一度問いかけた。

(お前、〈竜殺し〉の最後の光景も憶えているのか?)

 ジョルジュは〈シグマ〉の問いに、自分の記憶を遡る様にして答えた。

(そう……だな……。〈竜殺し〉が砦に籠もって自爆したのは覚えているのだが……)

(だが?)

(だが、その光景が頭に浮かばなくてな……) 

(爆発の威力が大きくて、一時的に記憶が混乱しているのだろう。しかし、〈竜殺し〉の最後をそこまで憶えているのなら、大丈夫だ)

 ジョルジュは混乱する記憶の事を〈シグマ〉の言葉によって納得すると、安堵感からか小さく溜息をついた。その溜息をジョルジュの報告の終わりと受け取ったのか、〈片目〉が口を開いた。

「そうか……」

「申し訳ありません。多くの部下を失い、その上むざむざ敵兵力を山頂に逃がしてしまいました……」

 敵の砦を落としたとはいえ、部下を失い、本隊の行動遅延と敵兵力の退却を許してしまった事に、ジョルジュは無念であった。

「気にするな。あの〈竜殺し〉を倒しただけでも大したものだ。お前はこれ以上俺に心配をかけるな、良いな!」

 〈片目〉の言葉に、ジョルジュは黙って頷いた。

「よし! では俺は今の事をランヌ将軍に報告した後、先行して山頂に向かう。敵にはもう手強い使い手はいないだろうがな」

 〈片目〉はそう言って笑いながら、幕舎を出ていった。

(ジョルジュよ、記憶はしっかりしている様だな)

 〈シグマ〉の言葉に、ジョルジュは先ほどよりしっかりとした思念で答えた。

(ああ。今は頭の中もすっきりしている。正直、体中が粉々になった様な激痛がするが、それと同時に力が沸き上がってくる様なんだ)

(二、三日もすれば痛みもなくなる。今は安静にしてゆっくり休め……)

(ああ、分かった。だが、お前が〈賢者の石〉と言うのはわかったが、なぜおとぎ話の〈賢者の石〉が俺に……)

 〈シグマ〉はいつになく優しい口調でジョルジュに答えた。

(それはあとでゆっくり話してやる。いまは休め。ゆっくりと眠るんだ)

(あぁ、そうだ……な……)

 〈シグマ〉の思念波により、ジョルジュはゆっくりと深い眠りに落ちていった。

 幕舎の外では、山道砦の残骸を片づけ終えた近衛本隊が、大急ぎで出立の準備を始めだした。最後に残った山頂の城館を落とすべく動き出したのであろう。

 兵士に指示を出す各部隊長の怒号に、幕舎や魔導兵器を片付け出立の準備する音、大勢の人間の動き回るけ足音やけたたましい喧噪。

 それら雑多な騒音にも、ジョルジュの眠りが妨げられる事はなかった。

 戦士が次に目覚める時は、この戦いが終わり、王都に帰還した時だろう……。


これにて四章後編はお終いです!


読んで下さり、誠にありがとうございます!!



このあとは、五章前編がスタートします^-^


五章前編は、一章後編で刀鍛冶と戦った片目の前半生を描いたお話です。


3月2日より出張の為、2週間ほど連載をお休みいたします。


五章スタートは、3月15日の予定ですので、宜しくお願いします!!

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