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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之四」
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ジョルジュ

【ジョルジュ】


 ジョルジュの心は焦っていた。

 〈竜殺し〉の懐に入り込めば、〈騎操兵〉の運動性能と機動力によって有利に戦えると思っていたからである。しかし、〈竜殺し〉はジョルジュの甘い予測を超え、その巨躯からは想像もできぬ素早さで動き、有利に戦うどころか、暴風の様な猛撃に圧倒されていた。

(馬鹿野郎め! だから言っただろうが。俺の言う通り一旦距離を取れ。例え一撃を叩き込めても、正面からでは傷一つつけられぬぞ)

 怒鳴る〈シグマ〉に、ジョルジュはむきになって答えた。

(〈魔導筒〉は通じなかったが、〈騎操兵〉の全魔力を注ぎ込んだ剣の一撃を与えれば、竜の鱗だとて叩き割れる筈だ!)

 〈シグマ〉は苛ついた様子で、先ほどから繰り返している言葉をまた繰り返した。

(だから何度も言っているだろうが……。お前は本当に馬鹿だな……。お前が精神能力者だと気づいた〈竜殺し〉は、精神障壁を張ってお前の精神干渉を防いでいるんだ。不意をつく一撃ならばまだしも、正面からではあの鱗を破れぬといっているのだ)

(ではどうすればいいのだ!)

 ジョルジュの言葉に、〈シグマ〉の怒りが爆発した。

(だから一旦距離を取れと何度も言っているだろうが!!)

 その時、〈竜殺し〉の強烈な尾の一撃がジョルジュを襲った。焦りと動揺から、その一撃を受け流し損ねたジョルジュの〈騎操兵〉は大きく体勢を崩した。

(馬鹿野郎!)

(うおぉぉっ!!)

 体制を崩したその隙を突いて、〈竜殺し〉の右腕が薙ぎ払う様に迫った。体勢を崩した〈騎操兵〉では、その一撃を避ける事は不可能だった。当然、その一撃に耐える事も。

 ジョルジュは頬を死の掌が撫でる様な感覚を感じ、己の死を直感した。その時、ジョルジュの中で更なる力が、更に強大な力が爆発した。しかし、その力は、その強大さ故に求める代償も大きかったが……。

 ジョルジュの精神念動力は、〈騎操兵〉の機体を捻りながら後方に退がらせた。そして、ジョルジュは〈騎操兵〉の左腕を突き出し、〈竜殺し〉の右腕の一撃を突き出した左腕に受けて左腕を砕かれながらも、その砕かれた衝撃の力を利用して後方に飛び、なんとか距離を取る事に成功した。

(ジョルジュ! 煙幕をはれるか!?)

(ああ、〈魔導榴弾〉をばら撒けば、土埃を巻き上げさせられるだろう)

(よし、それをばら撒いて一時でも良いから視界を遮れ!)

 ジョルジュは〈シグマ〉の指示通りに、魔力を凝縮して詰められた人の頭ほどの大きさの瓶をばら撒いた。

 それは〈魔導榴弾〉と呼ばれ、起動させて投げると凝縮された魔力が爆発する兵器であった。人間相手ならかなりの殺傷能力を有するが、竜相手ではその効果は全く期待できなかった。

 ジョルジュがばら撒いた〈魔導榴弾〉は〈竜殺し〉の追い打ちが来る前に炸裂し、周囲に盛大な土埃を巻き上げて視界を完全に遮った。

(おい、これからどうするんだ!?)

 ジョルジュの言葉に、〈シグマ〉が妙に真面目な口調で話し始めた。

(先に一つ確認しとくが、お前の目覚めた精神能力は想像以上に強力で強大だ。それ故に、力の使い方を知らぬお前が使えば、その体と精神に凄まじい負荷を掛ける事になる。最悪の場合は死も有り得る……。それでも、その力を使うか?)

 〈シグマ〉の言葉に、ジョルジュは軽口で答えた。

(けっ、今更何をいってやがる。使わなくてもこのままじゃ死ぬんだ。同じ死ぬならやらなきゃ損だぜ)

(お前は馬鹿だが、良い馬鹿だな)

(褒められているのか貶されているのか……。それで、お前の策とはどうするんだ?)

 ジョルジュの言葉に、〈シグマ〉が策を説明し始めた。

(正面からでは〈竜殺し〉の精神障壁によって攻撃が通じぬ。だが、それは言い換えれば、不意を突いた一撃ならば精神障壁が間に合わずに通じると言う事だ)

(正面から知覚しなければ、精神障壁は張れないと言う事だな)

(そうだ。故に、お前の強大な精神感応力と精神念動力を使い、破壊されずに残っているエミールの〈騎操兵〉を動かし、死角から不意を突いて大型の〈魔導筒〉の一撃を叩き込むのだ!)

 〈シグマ〉の言葉に、ジョルジュは驚きながら問い返した。

(乗り込まずに操るって事か!? そんな事ができるのか?)

(今のお前ならばできる! だが、先ほど話した様に、その代償も大きいがな……)

 〈シグマ〉の暗い声を吹き飛ばす様に、ジョルジュは叫んだ。

(獲物もその分でかいんだ! 一か八かやってやる!)

 土埃が晴れきる前に、ジョルジュの〈騎操兵〉は〈竜殺し〉の注意を惹く為に、またも正面から挑み掛かった。


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