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戦士の宴  作者: 高橋 連
四章 後編 「シャンピニオン山の戦い 其之四」
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ジョルジュ

【ジョルジュ】


(おい馬鹿野郎! 俺の話を聞け!)

 頭の中で叫ぶ〈シグマ〉の声にも反応せず、ジョルジュは〈騎操兵〉の操縦に集中していた。

 ジョルジュの〈騎操兵〉は、周囲から襲いくる鏃の様な形の巨大な灼けた石を尋常ならざる機動力と回避運動で避けていた。幾つかの避けきれなかった灼けた巨石は、〈騎操兵〉の両腕に持つ双剣で受け、流し、弾いて捌き凌いだ。

(ジョルジュ! 後方より更にくるぞ!)

(ちっ!)

 ジョルジュは後方より飛来した灼けた巨石を受ける事が出来ないと咄嗟に判断し、高く飛び上がって回避した。

(飛び上がるなんて、この能なしがっ!! 〈竜殺し〉の手に乗りやがって!)

 〈シグマ〉の怒号が響いた瞬間、大地が割れ砕け、巨大な溶岩の柱が吹き上がった。それは、ジョルジュの〈騎操兵〉を飲み込もうと周囲を灼きながら迫った。

(まだだっ! うおおおお!!)

 ジョルジュの叫びと共に、〈騎操兵〉は宙空で真横に動き、その溶岩の柱をかわして大地に着地した。

(まさか……どうやって……ジョルジュお前……)

 危機を乗り越えたジョルジュは、さらに集中力が増した様であった。もはや〈シグマ〉と名乗る声に反応しないどころか、まったく聞こえていなかった。

着地したジョルジュは素早く双剣を仕舞うと、〈魔導筒〉を構えて巨大な〈竜殺し〉に向かって駆けた。

 迎え撃つ〈竜殺し〉は、大地を隆起させて無数の岩石の球体を造りだし、自身の周囲に展開させた。だが、ジョルジュは速度を緩めるどころか更に加速すると、〈魔導筒〉を連射しながら迫った。

(俺の〈魔導筒〉は竜の鱗さえ打ち抜く! あんな岩如きで防げるものか!!)

 しかし、ジョルジュの期待とは裏腹に、〈魔導筒〉から放たれた魔力の塊は悉く岩石の球体によって受け防がれた。しかも、岩石球はたった一つも砕けてはいなかった。

(そん……な……、馬鹿……な……)

(そういう事か! おい、ジョルジュ、一端退がって俺の話を聞け!)

 〈魔導筒〉を全て防がれたジョルジュに向かって、今度は〈竜殺し〉の周囲に展開していた岩石で造られた球体が変化し始めた。

 〈竜殺し〉の魔力が込められた巨大な岩石の球体は、黒く変色し、やがて天の陽光を受けて黒光りする黒鉄に変化した。黒鉄に変化した球体は更にその形状を槍の様に尖った形に変えると、唸りをあげながらジョルジュの〈騎操兵〉に飛び迫った。

(ジョルジュくるぞ!!)

 〈シグマ〉の怒号で我に返ったジョルジュは素早く双剣を腰から抜くと、襲いくる巨大な黒鉄の槍を左腕に持つ剣で受け止めた。

 だが、その巨大な黒鉄の槍は、受けた剣を叩き折り、その勢いのままジョルジュの〈騎操兵〉の装甲を抉り進んだ。

 ジョルジュは機体を捻ってその黒鉄の槍から機体をかわすと、全速で後方に逃げ退がった。

 その直後、先ほどまでジョルジュの〈騎操兵〉が立っていた所に巨大な黒鉄の槍が何本も大地を抉る様に突き刺さった。そして、それはゆっくりと浮かぶと、またも鈍い唸りをあげながら、その切っ先をジョルジュに向けて飛び迫ってきた。

(ジョルジュ、あの槍は受けるな。全てかわすんだ。いいな?)

(わかった!)

 今度は素直に答えたジョルジュに、〈シグマ〉と名乗る声が話を続けた。

(よし、今から手短に説明するから、お前はあの槍をよけながら聞け。ほら、きたぞっ!)

 ジョルジュの〈騎操兵〉に、巨大な黒鉄の槍がまたも襲い掛かって来た。ジョルジュはそれらを受ける事なく全て回避運動をとってかわし続けた。

(これを、かわし……ながら……は、くそっ! きついぞ!)

(無理なら死ぬだけだ。耳は俺の話に集中し、それ以外を〈竜殺し〉に集中させればいいだけだ。ほら、前を見ろ!)

(ちっ!)

 ジョルジュは舌打ちをしながらも、眼前の黒鉄の槍をなんとかかわすと、耳以外を全て黒鉄の槍に集中させて〈シグマ〉の話を聞いた。

(俺の名は〈シグマ〉だ。お前は〈賢者の石〉を知っているか?)

(〈賢者の石〉って、あのお伽話に出てくる、手に入れた者の願いを何でも叶える魔法の石の事か?)

(お伽話とも少し違うが……まあ良い。それが俺だ。〈賢者の石〉の本来の能力は、適応する生物と融合する事によって、その生物の能力を高める事だ)

 ジョルジュは黒鉄の槍を捌くのに手一杯で、返事をする余裕がない様だった。

(忙しそうだな。話を進めるぞ。俺達〈賢者の石〉は、基本的に能力全般を底上げするが、〈賢者の石〉によってそれぞれ専門とする能力があり、それらに関しては飛躍的に向上させる事が出来る。俺の場合は精神力に関する能力だ)

 ジョルジュは、槍をかわす作業の合間を縫って返事をした。

(なるほど、それで俺の精神感応力が向上し、〈騎操兵〉を操る力が増したという事か……。それで〈竜殺し〉の鱗をも貫けたのだな?)

 〈シグマ〉はジョルジュの言葉に笑いながら答えた。

(そうだ、と言いたい所だが、少し違う)

(何を笑ってやがる! どうちがう?)

(どうやら、お前の中に眠っていた精神能力者としての力を覚醒させた様だ)

(精神能力者とは……?)

 〈シグマ〉は溜め息をはいたが、楽しそうに答えた。

(やはり自覚はなかったか。いくら精神感応力が上がろうと、〈騎操兵〉の性能の上限を越えた力を出せる訳が無い。ましてや、宙空で動くなど不可能だ。精神能力とは、いわゆる精神力で物体に干渉したり、他者の精神に干渉したりする能力の事だ)

(干渉するとは……?)

 よく話が飲み込めないジョルジュに、〈シグマ〉は苛立ちながら答えた。

(この馬鹿が! ようは精神の力で物を動かしたり、人に幻覚を見せたりできるって言ってんだ! お前は精神能力で〈騎操兵〉を空中で動かし、更には〈竜殺し〉の精神に干渉して、お前の〈魔導筒〉を受けたら負傷する様に思い込ませたんだよ。そうでなければ、あの程度の魔力の塊で竜の鱗を貫けるものか! だから、精神の干渉を受けない無機物、つまり岩は打ち砕けなかったと言うわけさ)

 〈シグマ〉の話をある程度は理解したジョルジュだったが、やはりその力の自覚はなかった。

(どうすれば、その力を使えるんだ?)

(どうすればって、それはお前の感覚でしか分かるわけねぇだろ! だがな、集中すればするほど、精神能力ってのは向上するんだ!)

(集中……)

 ジョルジュは、精神を集中させ、眼前の黒金の槍に意識を集中させた。

(止まれ……止まれ……止まれ……)

 ジョルジュの頭の中に、一瞬白い光が見えたと思った瞬間、眼前に迫っていた黒鉄の巨大な槍が一瞬唸りを止めた。

(いまだ! 叩き折れ!)

 ジョルジュは〈シグマ〉の声に無意識に反応し、右腕の剣を眼前の黒鉄の槍に叩きつけた。金属と金属がぶつかり合う甲高い衝撃音と共に、黒鉄の槍がその一撃によって叩き折られた。

(やった! 折れた!)

 興奮するジョルジュに、〈シグマ〉が注意した。

(あの槍は、魔力によって振動する事により、全てを砕き貫く力をもっている。唸りをあげている時は絶対に触れるなよ! さっきの様に、必ずその振動を止めてから叩け!)

(ああ! わかった! 全部叩き折って、〈竜殺し〉の体に〈魔導筒〉をぶち込んでやる!!)

(お前に精神能力が目覚めたのは思わぬ計算違いだったが、調子に乗るな。それくらいの事で〈竜殺し〉は倒せんぞ……)

 唸りをあげて飛来する黒鉄の槍から逃げていたジョルジュの〈騎操兵〉が、今度は唸りをあげて反撃にでた。


読んで下さって有難うございます^^

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